11.ジョハンナ みなさんがんばってください
今日はロドルフ様達がモンスター討伐へ行く日だ。ゴールディさんやチアゴさんら兵団は総勢20名。ロドルフ様を加えて一行は21名だ。
朝早くからロドルフ様達が出発するので、私は執事のペトロッシさんの隣に立ってお見送りというわけ。
私は本来『癒し手』として討伐隊に同行しなければならないのだが、今回は私が採用される前に外部の回復役の人がすでにヘルプで雇われていたそうなので、私自身はお屋敷で待機することになっている。討伐で怪我をして帰ってきた方は治せるような態勢にしておかねばならないが。
場所はストルト家の領地であるヴィンフロスト領の中でも、隣の領地との境目辺りにあるバスクの森。隣のザンダー家の領地内にはダンジョンの入口があり、そこから出てくるモンスターが森まで来て、そこをねぐらにしているというのが現状だった。
「では、行きましょうか」
ロドルフ様の声がして、ガチャガチャと鎧がこすれる音と共に廊下の奥から戦闘用の姿に身を包んだ集団が現れた。早くから会議室に集まって、ロドルフ様が訓辞を述べていたらしい。それが終わって出てきたのだ。
ロドルフ様は今日は鎧姿に剣を携えている。そのお姿はあまり筋肉質とは言いがたく、背は高いがスラッというか、ひょろっという体型のロドルフ様。それでも長い剣を腰に下げている姿はやはり長身だから映えるわ。兜をしていないので美形の顔もしっかり見えるし。やっぱり顔はいいのよね。
討伐隊の隊長はゴールディさんで、実際には彼が戦闘の指揮を執るらしい。幾度も闘いを経験しているのか、顔に自信が見えるわ。頼もしい。
ちなみにロドルフ様は危険が及ばないように後ろに陣取る手はずだとペトロッシさんから聞いた。
「ロドルフ様、気をつけて行ってらっしゃいませ!」
「「「行ってらっしゃいませ!!」」」
ペトロッシさんが言って、私や屋敷の使用人達もそれに続く。
「はい、行ってきます」
少し緊張した面持ちでこちらを向いて言うロドルフ様。普段と同じように穏やかな物腰なのはいいわよね。戦場でも今のように冷静なのかしら? そうだとすると戦闘特化型で頼りになる領主様というようにちょっと見方が変わるのだけれど。
しかし私ったら、雇われの身分なのに偉そうね……乙女ゲームを追体験していることを思い出したら、なおさらこの傾向が強くなってしまった。いわゆる神視点が混じってしまって身分を考慮しない感想を抱いてしまう。
さて、ロドルフ様は屋敷の外に出て馬に乗り、他の討伐隊員たちは歩いて行く。後ろの方に白いローブ姿で杖を持った女性がいるけれど、彼女が今回雇われた回復術士なのだろう。私と同じ『癒し手』なのだろうか。
バスクの森までは屋敷から歩いて3時間ほどかかるらしい。今からだとお昼ぐらいに着くということになろうか。そこから日が落ちるまでにモンスターを倒せるだけ倒すというのが今回の任務だ。
うーん、ロドルフ様は討伐に関する資料を読んでいないことがわかったけれど、ゴールディさんやチアゴさんといった回りのメンバーがうまくロドルフ様を支えてくれるはず。
皆さま、どうかご無事で……
◇ ◇ ◇
ロドルフ様たち討伐隊が出発してから5時間ほどが経過した。午前中は怪我人が出たとき用のベッドを準備したり、薬を確認したりしたが、それが終わると通常通りの財務系の出納業務に戻っていた。
私は仕事こそこなせたものの、緊張してかあまりご飯を食べられなかった。自分が討伐に行ったわけでもないが、試験の結果発表を待つときのような心境になってしまったのだ。
ん、なんだか屋敷の入口の方が騒がしい。
私は仕事が全くきりのいいところでもなかったが、気になったので仕事部屋を出て聞き耳を立てた。
どうも討伐隊の1人が戻ってきて、ペトロッシさんに何か報告しているらしい。もうちょっと近づいてみる。
報告を受ける立場なんて意外と彼って偉いのね。私は感心する気持ちで彼の真剣な顔を見やる。
戻ってきた討伐隊の1人というのが、チアゴさんだ。私は先日の会議で会っており、若い戦士で小柄な体格をしていた。
話し方も早口だし普段の動きも速いがその分早合点もする、というのがペトロッシさんからの彼への評だった。討伐隊の中で最も足が速いのが彼らしいので、伝令の係でも担当していたのかしら。
「実は討伐で入ったバスクの森で、倒れている民間人を発見して」
「ふむ、民間人があそこに入るとは珍しいですね。ですがそのことでチアゴさんがわざわざ戻ってくるというのは、どういうわけです?」
「それが、その女性が明らかに高貴な服装をしていたんです。若い女性なんですが、どこかの貴族の娘じゃないかと思うんで。傷を負っているようなので、もしバスクの森でそのまま亡くなったりしたら、ストルト家が責めを負うかもしれませんで」
「なるほど……」
ペトロッシさんが少し黙り込む。自体が緊迫してきたようだ。私も報告を一緒に聞きたい。入口の方へ向かおう。
「それで、倒れていた女性は今どうしているのです?」
「ロドルフ様と数名が担架でこちらに移送してきます。気を失っているようだけど傷は深くないものと思いまして」
(森で倒れている女性を見つけて、屋敷に連れてくるですって……?)
チアゴさんの報告を聞いて、私の頭に何か去来するものがあった。そしてそれは後ほど、女性がお屋敷に連れられてやってきたときに明らかになる。
「すみません、私にも話をお聞かせください。討伐隊には回復役の術士がいませんでしたこと?」
「モンスター討伐はどうなりました?」
チアゴさんは私とペトロッシさんからの質問攻めに遭う。
「ええと、森に着いてすぐに隊は二手に分かれ、ロドルフ様とゴールディ隊長がそれぞれの指揮を執ってました。回復術士はゴールディ隊長の方に同行してて、倒れた女性のところとは距離があって。ゴールディ隊長は残った兵と共に掃討を続けてます。ロドルフ様がこっちに戻られることについては私が隊長に伝えました」
なるほど。状況は理解できた。
ということは、ロドルフ様と数人がその女性を連れて屋敷に戻ってくるということになる。
この分だとロドルフ様は無事に帰ってくるようなので、そこは安心した。しかし連れられてくる女性について考えると、どうも私の心に暗雲が立ちこめ始めるのだった。
おそらく、この女性が乙女ゲームの主人公なのよね……




