第二話 ギャン中でもむふふができます!
トミーが帰っても、ロロはしばらく酒屋にいた。
「ご主人様、いい加減今日はおやめになったらどうです」
「いいや、まさにいま、オレ様は、この酒を何千杯も飲める金を稼いでやろうとしてんだよ」
ロロは店内の隅っこで昼飯を食べていた同じく独立商人と思われる男に声をかけた。景気の良さそうなその男は、ラスコー周辺でとれる珍獣、<耳で飛ぶ兎>の煮込み料理を上手そうに頬張っていた。
「おい、あんた、ちょっといいか?」
「ん?」
「ロドスについてなにか知ってることあるか? 金は出すぜ? 情報でもいい」
「ロドス? あー、ロドス諸島ね。あー、ロドスで売れるものなら知ってるぞ」
「……ふん、ならいい」
「え、なんだよ、おまえ、自分から聞いておいてそっけねーな」
ロロは、店内にいる客に同じ質問をして回った。
しかし、どの客に聞いても、返ってくる答えは、ロドスで売れやすい商材やロドスで仕入れられる希少な商材の話ばかり。
「サシア、店を出るぞ」
「はい」
ロロは、店員の娘に金を払おうとした。
「ありがとうございました。お会計は800ジェリーです」
にっこりと笑う娘。
「ぬあにっ⁉ おいおい、おれ、こんな飲んでねーぞ!」
「いえ、こちらの価格で間違いないですよ」
店の娘はまたにっこりと笑って、杯が積み重なったロロのテーブルを指さした。
「はぁ。ですから、言ったじゃないですか。ご主人様」
「しゅ、しゅんません」
「今日はご夕食は抜きにさせていただきます」
しょんぼり。
*
酒屋の男たちに聞いて回った結果、ロロのなかでは一つの確信が生まれていた。あのトミーという男の「ロドス近海の魔獣」の情報は確かにまだ出回っていない。
「ご機嫌そうですね。ご主人様。また、変なことをお考えでないといいですけど」
「なはは! 振ってきたぜ。チャンスが。大チャンスが」
「……はぁ。また、変なことを考えておられなければいいのですが」
ロロは、サシアの溜息を気にすることなく、大股で歩みを速める。
流石は王国の首都、ラスコー。
石畳の大通りには、数多の人が行き交い、両側の露店には服に食材に雑貨、なんでも売っている。
特に珍しいものといえば、魔獣の肉だろう。魔獣は時折どこからともなく出没し、人間を襲う危険な生き物であるが、中にはその肉が高価に取引される種も存在する。魔獣は人間には使えない魔法なるものを使うらしく、王国の騎士団をもってしても討伐は困難であるとか。まあ、商人のロロにとっては関係ない話であるが。
さて、次なる行先は、つい先ほど麦を卸したラスコー商会、ではなく、その周辺の酒屋。
ラスコー商会の建物の前には多くの馬車が並んでいた。ロロは、それを横目にラスコー商会の隣にある酒場に入る。そこは、まだ昼間だというのに、酒を飲んだくれている商会員がたくさんいた。
「……ご主人様。今日はもう節約するってお約束したじゃないですか」
「違う。商売だ」
男だらけのむさくるしい店でサシアは目立つので、先に宿に帰るように言いつけ、ロロは奥へと進んだ。
ロロは、店を見渡して、一人の男の席の隣に座った。男の外見は、この店のなかで、最もみすぼらしい。白髪のてっぺんはげで、ひげはボサボサ。来ている服は、黄ばんでいて異臭を放っている。男は、一杯の果実酒を大切そうにちびちびと飲んでいた。そんな羽振りの悪そうな男をロロは探していたのである。男がすわっているのはカウンター席の端。テーブル席の男たちはこちらに見向きもしていない。
ロロは、その男の前に、銀貨一枚、つまり、1000ジェリーを静かに置いた。
宿と食事代で三日はぜいたくに暮らせる金額である。
「……っ!」
男は身体をびくっとふるわせて、おそるおそるロロのほうを見た。
ロロは、周りに悟られないよう、小さな声で男に話しかける。
「あんた、ラスコー商会か」
男はこくりとうなづいた。
「情報が欲しい」
そういうと男は首を振った。
商会の人間は基本、情報を外部に漏らそうとしない。そんなことをしたら、商会を追放されるおそれがあるからだ。
ロロは、さらに銀貨をもう一枚男の前に置いた。
「今年の大船団についての情報だ」
ラスコー商会といえば、ラスコーの港をいかした大船団が有名だ。半年ほどかけて周辺諸国に行商をするのである。
「今年の航路を教えてほしい」
銀貨2枚をじっと見る男。
男は、小さく口を開けた。
「…………ジーナ、アルガット、ランディア、サルベシア、バルバロ」
それを聞くとロロはにやりと笑みを浮かべた。
ロドスがない。
ラスコーから船で二週間ほどしかかからないのであれば、大船団は必ず毎年ロドス諸島にも行っているはず。しかし、今年は大船団はロドスを通らない。そう、魔獣のせいで。
ロロは、また、ラスコー商会付近のほかの酒屋を複数周り、羽振りの悪そうな男たちに銀貨を計5枚使って、同様の質問を繰り返した。
彼らの回答はどれも同じだった。
今年は、ラスコー商会の大船団は、ロドス諸島を通らない。
つまり、ロロがロドスで売れやすい商材を大量に持ち込めば。
「大儲けだぜ」
*
夜。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
先に宿に帰っていたサシアがロロを出迎える。ロロはローブをサシアに脱がせ、ベッドに仰向けになった。
現在、ロロとサシアは西岸地区の安宿の一部屋に身を寄せている。部屋には、埃の乗った机とイスが一つずつ。それに、これまたほこり臭いベッドが一つあるだけである。二人は節約のため、いつも宿に泊るときは一つのベッドに川の字になって寝ている。
部屋はろうそくで照らしているが、もうすっかり外は暗い。
「今日、晩飯はなしか」
「はい、当たり前です」
「へへっ。まあ、いい。すぐにこの生活を抜け出してやるよ」
ロロは、にやにやと笑みを浮かべていた。
舞い込んできた、大勝負の種に。
「ご主人様」
「ん?」
ローブを置いてきたサシアが、ロロのもとにやってきた。
「きょ、今日もよろしいでしょうか?」
ほんのりと顔が赤い。
「ったく、おまえも変わってるな」
「はい。ありがとうございます」
そういうとサシアはベッドに上って正座し、ロロの頭を自分の太ももの上に乗せた。サシアの太ももの柔肉にロロの頭がつつまれる。
サシアは、細い指でロロの頭をゆっくりとなではじめた。
サシアはロロを膝枕することを日課にしている。それがサシアにとっての一番のご褒美だった。サシアはロロに甘えてもらいたいのである。
「おまえも物好きだよな。こんな主人について回るなんて」
「そんなご主人様だからこそ、サシアが必要なのです」
サシアはロロが十二歳のときに、奴隷として連れてこられた身だった。ロロより歳は三つ上。
ロロの家族は決してできた人間ではなく、サシアは粗雑な扱いを受けた。そんなサシアを身を挺して守っていたのが、ロロだったのである。
とはいっても、ロロ少年も決してできた人間ではなく、ただ胸の大きな娘に恩を売り、あんなことやこんなことをしようと下心満載だったわけだが。
そんなわけでいつしかサシアはロロ専属のメイドとなり、ロロの数々のセクハラを受けながらも、サシアはロロに世話をつくした。そして、ロロは、家出の際にサシアに大金を渡して奴隷身分を解放しようとした。ロロなりの感謝のつもりだった。
しかし、サシアはその金を受け取ることなく、ロロについてくることを自ら選んだ。サシアは情けないロロを一人にできなかった。
「あー、今日も働いたわー」
「ちょ、ちょっとご主人様!」
ロロは、両腕をサシアの腰に回し、頭をサシアの腹に押し付けた。
むわり。
女性特有の甘い香りが。
サシアの腹には、ほどよく肉がついていて抱き心地がいい。サシアは非難の声をあげるが、その実、声は上ずっている。サシアはロロに甘えてもらえて、喜んでいるのだ。
ロロは、右手でサシアの腰に肉をもんだ。
「あっ……。だ、だめですぅ!」
「サシア、最近太ったか?」
「ふ、太ってません!」
プぅと頬を膨らませるサシア。サシアは最近ロロの暴食につきあったせいで、確かに胸やお腹に肉がついてきたのは自覚していた。しかし、それがロロの好みであることも知っている。
「こっちも揉みしだいてやるぜ!」
そして、そのまま、乳のほうに手を伸ばそうとすると、
「っちぇ」
ぺチと手を叩かれた。
「そういうことは、本当にお好きになった方とおやりください」
「おれはおまえのこと、好きだぞ」
「またまたご冗談を。もう何回目ですか」
「だから、本当におまえのことが好きなんだって」
そういうと、サシアは少し動揺した。
「で、ですから、それはそういう”好き”ではなくて……」
「いや、女として好きだ」
「ご主人様はいつもほかの女性にそういってます!」
「あれは、ただのナンパだよ。おれは童貞だぜ?」
「そ、そんなの信じられません……」
「おまえはおれのこと嫌いなのか」
「……ずるいです。ずるいです。ご主人様は」
「サシア……」
サシアの顔が赤い。
再びサシアの乳に手を伸ばそうと……
「いてっ」
再び手を払いのけられた。
「この私がご主人様の口車に乗せられるとでも?」
ぎらり。
「ひ、ひぃっ! 悪かった! 悪かったって!」
サシアは口元には笑みを浮かべているが、目が怖い。目が。
「まあ、ご主人様は私のことが好きで好きでたまらないようなので、お許ししますけど」
「しゅ、しゅんません」
ロロは、諦めてまた両手をサシアの腰に回し、腹の肉に顔をうずくめた。腹は許容してくれるらしい。まあ、ロロの目的は、頭頂部に垂れてくる下乳なわけであるが。
「はぁ……。今日は、ずいぶんとご機嫌そうですね」
「おうよ。商売の種も転がってきたし」
ロロは、サシアのメイド服と密着しているので、モゴモゴと話した。
「……また何かお考えで?」
「ロドスに行くぞ」
「えっ?」
サシアの驚いた声。
「ロドスに行く」
「……ご主人様? なにをおっしゃっているので?」
ロロは、拘束をほどいて仰向けになった。
そこには、ピキピキとこめかみにしわを寄せたサシアの顔が。
「今年は、ラスコー商会の大船団が、ロドス近海の魔獣のせいでロドスに行かないらしい。ラスコーの大船団が行けねーってぐらいなら、他の商人たちもロドスには行けねー。このチャンスを逃さない手はねぇ!」
「はい、ですから、魔獣がいて通れないのですよ」
「ああ、だから、まあ、そこは賭けだな!」
「……ご主人様が何を仰られているのかサシアには分かりかねます」
「だから、賭けだな!」
「繰り返されても」
「なーはっはっは!」
そういって、ロロは、満面の笑みを浮かべた。
魔物が出れば、船もろとも海の藻屑に。魔物に出くわさなければ、大儲け。
「はぁ……。もう、ほんとにこのダメ主人様は……」
「なーはっはっは!」
サシアは本日、一番の溜息をついた。
こうして、ロロは、ロドス諸島への出航を決断した。
それが、破産への罠だとも知らずに。
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【ロロの財産】
(1ジェリー=10円くらいに思ってください)
昨日の総額:260000ジェリー
今日の支出:5800ジェリー
今日の儲け:0ジェリー
今日の総額:254200ジェリー




