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博打商人の脳汁ドパドパ道中  作者: うそさん


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第一話 ギャン中は決まって騙されます!

「────全賭けだ!」

「ぜ、全賭け?」

「有り金は全部出す!」


 商売は商人にとって生きるかてである。しかし、ここサンリゼ王国には、ただ「脳汁」のために商売を続ける博打商人がいた。彼は自分が見込んだ商材であれば有り金全部をはたいて仕入れ、大勝負に出る。

 のちに王国の人間は彼をこう呼んだ。

 ────「全賭けのロロ」と。


 ※


 サンリゼ王国首都ラスコーの西岸地区。ここは、飲み屋や娼館が連なるいわばおとこの欲望の街。

 その一角にある商人御用達(ごようたし)の酒場にて。


「ご主人様、もう少し節約なされてはいかがでしょうか」

「ああ? おれはその分稼ぐんだよ」


 まだ昼だというのに、酒を大量に空けているうつけ者がいた。ボサボサの黒髪、いかにも性格の悪そうな鋭い目つき。指と胸には悪趣味な骸骨のアクセサリー。

 名をロロ・カルロルドという。


「といって、ここ一ヶ月でご主人様が稼いだお金は、わずか17000ジェリーです。そこらの日雇い仕事をしたほうがまだ稼げますね」

「うっせー! もっとひりつく商売じゃねーと、オレ様の真価は発揮されねぇんだよ。お前が持ってきたしょーもない商売じゃな。ん? んんんん? ……あそこのねえちゃん、尻でけーな! ほら! あそこ!」


 そんなロロに対して、同席するメイド服を着た大柄な娘がため息をついた。長い光沢のある黒髪に高い鼻。大理石のような艶のある白い肌。貴族の令嬢にも引けを取らない美貌である。おまけに顔の下にはメイド服を突き破らんとするほどの乳袋が。

 彼女の名は、サシア。ロロのメイド兼お目付役である。


「はぁ。ほんと、ダメなご主人様ですね。本家に言いつけますよ」


 サシアがゴミを見るような目でロロに侮蔑の視線を向けた。


「お、おいっ! それはダメだ。分かった。分かったから!」


 ロロは現在、家出の身である。サンリゼ王国から遠く離れたパルテノ王国でそこそこ名のある商家に生まれて十八年。ロロは、昔から自分の世話係だったメイドのサシアをつれて、行商をするべく十七のときに家を飛び出した。名家というしがらみから逃れたかったのである。しかし、当然、本家は跡取り息子の家出を許すはずもない。


 サシアがロロに同行するにあたって出した条件はただ一つ、「破産しないこと」。

 サシアはロロが破産した時点で、本家にロロの居場所を連絡するつもりだった。


「あー、可愛いなぁ。あのねぇちゃん。声かけよっかなー」


 そうロロが鼻を伸ばしていると、


「ぐへっ! なにすんだよ!」


 ロロの足が思いっきりサシアに踏まれた。


「申し訳ありません、立ち上がろうとしたときについ」

「立ち上がってねぇじゃねぇかよ!」


 なぜかは分からないが、サシアはロロが他の娘に手を出そうとすると、決ってロロを妨害する。なぜだかは分からない。



「────よぉ、にいちゃん、ここいいか?」 



 ロロとサシアが口論していると、一人のスキンヘッドの男が果実酒を持って現れた。


「にいちゃん、行商人だろ?」


 そして、その男はロロの了承なしに、テーブルのイスにどっかりと腰を下ろした。 


「え、そうだけど。なんだ、おっさん」

「やっぱりか。さっき、にいちゃんが馬車から積み荷をラスコー商会におろしてるのを見た訳よ」


 男のいうとおり、ロロはついさきほど、ここラスコーに入り、真っ先にラスコー随一の商会、ラスコー商会に麦を卸した。ラスコー商会は、ラスコーの海に面した地の利を活かし陸と海をつなぐ巨大な商会だ。毎年、サンリぜ王国の周辺を回る大船団を出しているのもラスコー商会である。

 ちなみにラスコー紹介に卸した今度の商売ではほとんど儲けはでなかった。ロロが道中、釣りや狩りやらで道草を食っていたせいで、ラスコー到着が予定より一週間遅れ、麦の売り時を逃したのである。


「おらぁ、にいちゃんと同じ行商人、トミーだ。どうだ、一緒に飲まないか?」

「……あんた、独立か?」

「ああ。わかるか?」


 独立商人。それは、どこの商会にも属していない商人のことを指す。そのメリットは、商会に売り上げの一部を上納する必要がないことだ。儲けがすべて自分のものになる。とはいってもデメリットのほうが大きい。なんせ商売の種は自分から探さないといかないし、商売に失敗した際に頼ることができない。

 失敗はできない。しかし、儲けはすべて自分の懐に。まさにロロが求める「ひりつく商売」である。


「いいねー。オレの同じにおいがしたもんでね。ちょうど、情報を仕入れたかったところさ」

「そうかい。そいつはよかった」


 トミーはそういって、果実酒を飲み干し、店員を呼びつけた。


「果実酒を三つ」

「いいのか。おっさん」

「おうよ」


 帰るどころか、さらに飲みだそうとするロロに対し、サシアは非難の目を向ける。


「……ご主人様?」


 じろり。


「い、いいだろ、べつに。おっさんがおごってくれるっつってんだし。な、おっさん!」


 ロロはそういって、トミーの肩をバンバンたたいた。


「はは。にいちゃん、ずいぶん尻にひかれているんだな」


 トミーは、サシアの視線に気づいて、苦笑いを浮かべた。

 まもなく、果実酒が届いて、ロロとトミーは情報交換を始める。

 独立商人は、こうして酒屋で情報を交わすことが多い。

 どこの麦が安いだの、今年は戦争があるからあそこで鉄が売れるだのそんな会話である。

 情報はギブアンドテイクである。かといって、お互いの商売ネタが本当であるかは保障されていない。相手の話にウソがないか。これを見破るのも商才というものだ。まあ、嘘をつき続けると、当然、その商人の信頼は落ちるわけだが。


「おれは、この秋はミッシュラン共和国に行こうと思う。いつもは、ロドス諸島連合に行ってるんだがな」

「ロドス?」

「なんだ、知らないのか。にいちゃん。ここラスコーは海に面した街だが、ここから船で二週間東に進んだところにあるのが、ロドス諸島連合さ。毎年、島ではあまり取れない鉄やら干し肉やらを高値で売ってるんだがな。特に干し肉はうんと高く値がつくんだ」

「そいつはいいな」

「ああ。だが、これは、まだ出回っていない情報なんだが、今年は近海で魔獣が出てやがるらしい」


 魔獣。それは、通常の動物とは違って、身体は巨大。おまけに人間を襲う習性のある厄介な獣である。その多くは、各国の騎士団によって討伐されるが、近海にいる魔獣というのは、海獣の魔物ということだろう。その討伐が困難であることは想像にかたくない。


「今、ロドスとサンリゼが共同して、討伐隊を送る計画を立てているみたいだが、まだしばらくかかりそうなんでね。おれは、ミッシュランに行こうというわけさ」


 魔獣が出現して、船が通れないというわけだ。


「ほう……ロドス、ねぇ」


 トミーの話を聞いて、ロロはにやりと笑みを浮かべた。

 そんなロロに対してサシアは怪訝な目を向ける。

 

 その後はしばらく、女の好みの話だのラスコーでうまい飯だの世間話で盛り上がった。


「じゃな、にいちゃん。また、どこかであったら飲もう」

「おう!」


 トミーは陽気に店を出て行った。


「くくくっ……。まいこんで来やがったぜ。勝負の種が」

 

 ロロは机の下でガッツポーズを決め、小さくそうつぶやいた。

 しかし、ロロは気づいていなかった。

 トミーが去り際に誰にも聞こえぬ声で言ったある一言を。









「釣れたな……」


 

 




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