7話 触るな変態野郎!
ハルトがサッカー部の練習試合に行き、ハジメだけに勉強を教えた日の夕方……の、千葉家。
「ただいま……」
「おかえりハルト」
「……何やってんのハジメ」
「八雲に貰った参考書だよ。これが1番簡単だって」
「……は? 八雲? なんで?」
「八雲に『ハルトに教えられるくらいしっかり勉強しろ』って言われたんだ」
「お前、それで素直に従うって……」
「そういえばアイツな、オレの髪褒めてくれたんだよ。綺麗なアマい色? とか言って」
「…………」
「次の家庭教師までに、これ覚えてアイツをビックリさせてやるんだ」
「……ふん」
―― ――
3月半ば、家庭教師5回目。
「お邪魔しまーす」
「……どうぞ」
今日は母親のメリッサさんが不在ということで、部屋にはハルトが出迎えてくれた。
てっきり居留守でも使われんのかと思ったけど、意外と素直に上がらせてくれたな。
「ハジメは?」
「……お茶菓子買いに行ってる」
「そうか」
今までだったらそんなこと絶対にしなかっただろうに……
少しは心を開いてくれたのだろうか。
「この前は悪かったな」
「は? 何が?」
「サッカー部の件、あまり触れてほしくなさそうだったから」
「……別に、もういいよ」
ハルトはそう言って、部屋の鍵を施錠した。
「お前の家庭教師は、今日でおしまいだから」
シュル、シュル……
「それはどういう意味だハルト、っていうかなんで鍵かけ……っ!?」
なんで鍵なんてかけてんだ? と思いつつ振り向くと、そこには服を脱いで上裸になったハルトがいた。
「……動画撮ってるから。中学生に手出したって大学に送り付けてやるよ」
「ハルト、お前……」
「ハジメはバカだから丸め込まれたかもしれないけど、おれは騙されないぞ……バラされたくなかったら、さっさと家庭教師なんてやめて出て行けよ」
腰のベルトに手をかけ、そのまま下も脱いでしまう。
俺はあくまで冷静に、今の状況を俯瞰する。
普段は長袖を着ているので気が付かなかったが、彼の二の腕と胴体は真っ白だった。
屋外でサッカーをやっているせいか、日に焼けた部分とそうじゃない部分がパキっと分かれている。
「日焼け跡すげえな。やっぱ元はハジメと一緒で色白なんだな」
「……だからどうした。時間稼ぎのつもりか?」
「そういうわけじゃ……ん?」
服を脱いでこちらに近づき、まるで俺に襲われているような画を撮ろうとしているハルト。
しかし、そんなハルトの裸体に俺は気になるところを発見した。
「お前、足ちょっと見せてみろ」
「ひゃっ!? ばっ……触るな変態野郎!」
「服脱いで誘ってきたのはそっちだろ」
「さ、誘ってねえよ……!」
暴れるハルトの足を両手で掴んで確認する。
うん、やっぱりそうだ。
「お前、左足怪我したことあるか?」
「……えっ?」
俺の突然の指摘にハルトがキョトンとする。
「関節炎、筋断裂……まあ、医者じゃないからあまり詳しいことは言えんが」
「な、なんでそんなの分かるんだよ……」
「俺、大学でスポーツ科学っていうのを学んでるんだよ。将来、柔道整復師になりたくて」
「柔道整復師……って、いつまで触ってんだヘンタイ!」
「悪い悪い」
足を放すと、ハルトがそそくさと服を着直す。
もう少し状態を観察したかったんだがな……
「……くそ、なんなんだよもう」
服を着直したハルトが不貞腐れたように座り込む。
俺を追い出そうと画策した結果、思うような展開にならなくて興が削がれたのだろう。
「(おそらく、サッカーの話題で不機嫌になった原因はあの左足だろうな)」
怪我して調子を崩して、今までと同じようにはできなくなって。
それでも挫折せずに続けているということは、本当はもっと……
「よし! ハヤト、もう一回脱げ!」
「……は、はあっ!? な、何言ってんだ変態野郎!」
「あーいや、脱がなくていい。ベッドにうつぶせで寝ろ」
「ベッドって、おまえ何考えて……っ」
俺はビビッて後ずさるハルトの前で手をワキワキとさせながら言い放った。
「左足、マッサージしてやるよ」
「……は?」




