6話 ……綺麗?
「うーっす……あれ、1人だけ?」
3月前半、家庭教師4回目。
今日も今日とて色々と準備して千葉家を訪問すると生徒が1人しかいなかった。
「今日はオレだけ。ハルトはいないよ」
「そうか……」
部屋の中でつまらなそうに待っていたのは、双子の弟のハジメだけだった。
前回、理由は分からないがハルトを不機嫌にさせてしまったので、それをまだ引きずっているのだろうか。
「勘違いすんなよ。アイツ、今日は部活の練習試合行ってるだけだから」
「なるほど、そういうことか」
2人が通っているのはここから少し行った所にある広橋市立第一中学校。
県内有数のサッカー強豪校で、西道院大学附属高校にもサッカー推薦で入学するやつが稀にいる。
「まあ練習試合なら仕方ねえな」
また今度、ハルトのスケジュールが空いてるときに教えてやれば……って。
「(別に、そこまでしてやる義理もないんだがな)」
現在の俺の契約は、週に1度、決まった曜日に来て家庭教師をするというだけだ。
わざわざ別の日に来てやる必要なんてないわけで。
……でも、それはそれでなんがモヤモヤが残っちまうな。
「ハジメはバスケ部の練習試合とか大丈夫なのか?」
「べっつに~? ウチの中学、バスケそんなに強くないし」
「そうなのか」
「それに……オレにはハルトみたいな才能無いし」
「…………」
元気だけが取り柄みたいなハジメだが、今日はなんだか大人しいというか、覇気がない。
やはり悪ガキ活動をするにも相方がいないと調子が出ないのだろうか。
「ハジメはバスケ、中学から始めたのか?」
「ん? ああ、まあな。小学校の時はハルトと一緒にスポ少でサッカーやってた」
「スポーツ少年団か……懐かしいな」
そんでもって、ハルトは中学に上がってそのままサッカー部。
ハジメはサッカーを続けないでバスケ部に入ったってことは、まあ色々と思う所があったのだろう。
「そういえば、双子だけど髪色が違うんだな」
「オレとハルトはニランセーソーセージってやつだから」
二卵性双生児……なるほどな。
瓜二つになる一卵性双生児とは違うということか。
「言っとくけど、これ地毛だからな」
「分かってるよ。クオーターって言ってたし、ハジメは母方の祖母の血が強く出たんだろう」
「そう、か……うん、そうかも」
ハジメがまるで予想していなかった返答を聞いたと言わんばかりのなんともいえない表情になる。
なんだ? また俺、ハルトの時みたいに変な事言っちまったか?
「……学校のクソ教師共、地毛だって言っても全然信じてくれなかったんだ」
「あー……ハルトが黒髪だからお前だけ染めてんだろとか言われたか?」
「言われた。さっさと黒染めしてこいって」
なんというか、この子たちが大人に対して荒んだ対応をしている理由のひとつが分かった気がした。
「そういうこと、今も言われてんのか?」
「今は医者に証明書出してもらってるから大丈夫。それでも疑うヤツはいるけど」
「そうか……せっかく綺麗な髪色してるわけだし、変に黒染めさせられなくて良かったな」
「……綺麗? オレの髪が?」
「あ、ああ」
髪色を褒められたことが意外だったのか、ハジメが急にグイグイと近づいてきて俺の真意を確かめようとする。
「これ、学校のヤツにもブリーチミスってくすんだ金髪とか言われたのに……」
「ハジメみたいな髪は亜麻色って言って、くすんだ金髪とは全然違う」
「そ、そうか……へへ」
髪色を褒められる経験があまりなかったのか、前髪をいじりながら照れ臭そうに微笑むハジメ。
なんだコイツ、めちゃめちゃ素直でかわいいじゃないか。
「ほれ、雑談終わり。後でハルトに教えてやれるくらいしっかり勉強するぞ」
「え~? ったく、しょうがねえなあ!」
この日、ハジメは普段よりも素直に勉強に取り組んでくれた。
俺に対して、少しは心を開いてくれたのだろうか。
「あ~もう疲れた~! 八雲、母ちゃんからお菓子とジュース貰ってきて!」
「自宅で家庭教師をパシリにすんな」
……やっぱりまだまだかもしれない。




