5話 さっさと始めろよ
「よし、今日はテストをやるぞ」
「……は?」
「やるわけねえだろバーカ!」
2月後半、家庭教師3回目。
先週の訪問では、文芸作品のコミカライズ版と数学的な要素を含むゲームをハルトとハジメに渡して終了。
ここまで勉強らしいことを何一つやっていないので、いきなり抜き打ちテスト的なことを言われてかなり反発しているようだ。
「マンガ、読んだか?」
「……まあ、一応」
「ゲームは?」
「こっちのソフトは最後までクリアしたぜ。まあ、ヨユーだな!」
「なら大丈夫だ。ほら、これ解いてみろ」
『マンガ読んでゲームしただけで何が大丈夫なんだよ……?』てな感じの表情を浮かべている2人に筆記用具と問題用紙を渡す。
「もしそのテストで満点取れたら、今日の家庭教師は終了にしてやる」
「……偉そうに指図しやがって」
「さっさと解いてお前を追い出してやるよ!」
「(中学生、チョれぇ~……)」
……。
…………。
「採点終わったぞ」
「……ふん」
「丸つけおせーよ」
文句を言いつつも、テストの結果が気になる様子の悪ガキ共。
「現代文と数学、10問ずつの全20問、1問5点で100点満点だ」
「……で、結果は?」
「早く教えろよトーヘンボク!」
マンガで読んだ知識をさっそく使いこなすハジメ。
でも残念ながら、俺に言うなら唐変木よりウドの大木の方が適しているぞ。
「まずはハルト……16問正解で80点」
「……そう」
満点じゃなかったから不機嫌か……?
と思って様子をうかがうと、むしろ若干嬉しそうな表情を浮かべていた。
でも見てるのがバレるとまた睨まれそうなので気にしないふりをする。
「次、ハジメ……17問正解で85点」
「よっしゃ……ふ、ふんっ! まあまあだな!」
こっちは分かりやすく喜んでるな。
まあ、直近のテストの結果を見せてもらったときは2人とも散々だったし。
俺が作ったこんなテストでも喜んでくれるなら少しは自信になっただろうか。
「これは、お前らが1週間真面目に勉強してくれたから取れた点数だ」
「……おれたち、遊んでただけだけど」
「楽しんで学べるならそれが1番だ。2人とも体育得意だけど、楽しくやれてるだろ?」
「……まあ」
「体育はでも、勉強じゃねえし……」
テストの結果が思いのほか嬉しいのか、赤丸の付いた答案用紙を眺めながら素直に返事をしてくれるハルトとハジメ。
「2人は体育、なにが得意なんだ? 運動部とか入ってんのか?」
「オレはバスケ。部活も一応やってる」
「……サッカー部」
「そうか。そういや、西附はサッカーが強かったな」
「……チッ」
「あーあ」
「(おや?)」
サッカーが得意だというハルトの話を広げようとしたら、急に不機嫌になってしまった。
ハジメもなんだか『やっちまったなお前』みたいなリアクションでため息をついている。
「……テスト、満点取ったら終わりなんだろ」
「あ、ああ……」
「……再テスト、さっさと始めろよ」
結局、2回目のテストで2人とも見事満点を獲得し、この日の家庭教師は終了となった。
「なんつーか、結果的には良かったんだけど……」
帰り道、急に不機嫌な態度を示したハルトのことを考える。
2人とも西附……西道院大学附属高校への入学を目指しているわけだし、現在サッカーをしているハルトなら高校でもやるもんだと思っていたが……
「あまり、触れてほしくないみたいだったな」
せっかく少し素直になってくれたのに……
地雷を踏んで好感度がゼロどころかマイナスからのスタートになった気分だ。
「まあ、まだ始めたばかりだしこういうこともあるか」
アイツらに必要なのは、まずは自信と対話だ。
これからもっとコミュニケーションを積み重ね、家庭教師として信頼してもらえるように頑張ろう。
「……って、なに張り切ってんだ俺は」
これは嫌々受けた春休みの間だけのバイト。
とりあえず最低限、貰っている月謝分だけ働けばそれでいいんだ。
「……来週は、どうやってアイツらの興味を引こうかな」




