61話 俺も色々と変わってきているのかもしれない
「よし……これで俺も、ようやく夏休みだ」
7月末、大学の夏季休暇中に行われる集中講義を履修していた俺は、他の生徒よりも1週間ほど遅れて夏休みに突入した。
集中講義は出席して最終日にレポート課題をやるだけで単位が取れるので、若干休みを削ってしまったとしても履修しておいた方が後々楽になるのだ。
「それに、大学生の夏休みは長いしな」
俺が通っている西道院大学のスポーツ科学部は、7月の後半から9月の半ばまで夏季休暇だ。
ほぼ丸々二か月休めるので、最初の1週間くらい講義があっても全然損した気分にはならない。
「お疲れ、北条」
「おう庭田、お疲れ」
夏季休暇で学食がやっていないので、大学の端に併設されているカフェに寄って昼食を食べていると、ホットサンドとコーヒーが乗ったトレーを抱えた庭田がやってきた。
「そっちも集中講義だったのか」
「まあね。僕も北条が受けてる教授の講義を希望出してたんだけど、当選しなかったから仕方なく……なんて、さすがに良くない言い方だね」
「まあしょうがないさ。必修じゃないからな」
大学の講義の一部は、人気すぎて履修希望の生徒全員が受けられないことがある。
必修単位の科目はさすがにそういうことはないのだが、集中講義のような自由選択だと抽選して当たった人だけが履修可能なシステムにしている教授もいて、俺が受けていたのはまさにそのタイプだった。
「北条は、今日はもう上がりかい?」
「ああ。庭田の方は……」
「僕はこの後もうひとつ講義があるんだ」
「そうか。夏休みなのに随分頑張るじゃないか」
1日2講義くらいで頑張るもなにもないのだが、大学生になるとどうしてもそういう感覚になってしまう。
平日ですら、自分で履修する講義の調整をすれば午前中いっぱいは休みとか、1日1講義だけとかにできてしまうわけで……
「そう考えると、中高生時代ってだいぶハードスケジュールだったんだな……」
毎日朝イチで学校行って、昼休み挟んで6時間とか授業受けて、掃除もやって、授業が終わったら部活なり塾なりバイトなりに行って。
人によっては土日も部活やバイトがあって……うん、今の俺にはそこまで頑張れないかもしれない。
「その点、大学は夏休みの宿題も無いし最高だな」
「とはいえ、期末の試験に落ちたら補講になる科目もあるじゃないか。それに、来年からは並行して就活もやらなきゃだし、今の内に取れるだけ単位は取っておいた方が良いよ」
「う……それもそうだな」
就職活動かー……今はまだ考えたくねえな。
家庭教師バイトの経験を生かして塾講師とか……いや、あれも正社員じゃなくてバイトか?
「そういえば、俺らの学部って保健体育の教諭免許が取れるんだよな」
「……もしかして北条、体育教師になりたいの?」
「そういうわけじゃねえんだけどよ……就活について考えてて、ふと思い出したっつーか」
俺が教師か……場合によってはそういう道もあるのかもしれないな。
こんなこと、以前なら考えもしなかったんだけどな。
「(アイツらの面倒を見る内に、俺も色々と変わってきているのかもしれない)」
あー、でも学校の先生になるってことは出会った頃のハルトやハジメみたいなクソガキどもを数十人単位で面倒見なきゃいけないってことだよな。
授業以外の雑務もめちゃめちゃありそうだし、モンスターペアレントとバトったりしなきゃいけないかもしれない。
「……うん、無理だな」
「北条、まだ2年の夏だよ。ニート宣言は早すぎるよ」
「いや別に、就職自体をあきらめたわけじゃねえから」
「大丈夫だよ北条。いざとなったら僕の父親の会社にコネ採用してあげるから」
「そりゃあ良いや。ありがたすぎて涙が出るね」
庭田はやっぱり、親の会社を継ぐんだろうか……まあ、その辺の事情は俺がどうこう言うべきところじゃないのだが。
「北条を採用したら社長付き秘書にして、僕が社長になって……ふふ、ふふふ」
「庭田?」




