57話 八雲の家に泊まりたい!
梅雨が明け、ジリジリと肌を焼くような太陽の熱がアスファルトに降り注ぐ。
こんな日はガンガンに冷房が効いた室内でのんびりするに限る。
「……先生、サボってないでちゃんと勉強する」
「八雲のクセにだらしないぞー」
「勝手に人の家に来て家主に説教すんなよ……」
今日は土曜日で、ハルトとハジメの家庭教師の予定は入っていない。
しかし、期末試験が来週から始まるということで最後の追い上げをするために俺の家まで自主勉強をやりに来ていた。
ちなみに俺も俺で現役の大学生なので、履修中の講義の試験勉強とレポート課題に追われている。
これで家庭教師バイトにかまけすぎて単位を落としたりしたら本末転倒なので、こちらもしっかりやっておかないと。
「っていうかお前ら、わざわざうちまで来ないで家でやれよ。分かんないところがあったらチャットしてくれれば教えるから」
「……家にいると、ハジメが遊びに誘ってくるから集中できない」
「ハルトだって『腹減ったからお菓子作ってくれ~』とか言ってくんじゃん!」
「いや、二人一緒にうち来たら変わんねえんじゃねえのか?」
「「変わる!」」
変わるのかよ。なんでだよ。
「あっそうだ! 中間の時みたいに、期末試験で全教科赤点回避したら何かご褒美くれよ八雲!」
「……おれも欲しい」
「え~? でもお前ら中間であれだけ取れたんだし、今回も赤点ラインは余裕で突破できるんじゃないか?」
「そ、そんなの分からんじゃん!」
「……勉強したことは、そんなに覚えておけない」
「頼むからせめて受験が終わるまではなんとか忘れないでくれ……」
まあでも、俺も今はまだ学生だからそれなりにできるけど、卒業して社会人になったら勉強の習慣とかもなくなってどんどん忘れていくんだろうな……
「とはいえ、毎回ご褒美あげてたら俺の財布がもたねえし……」
「じゃあ、金かかんないやつにする!」
「……赤点じゃなくて、もうちょっとハードル上げてもいい」
「そうか……それならまあ」
っていうか金かからないご褒美ってなんだ?
肩たたき券とか……いやでも、マッサージは普段からしてやってるしご褒美にはならないか。
「ちなみにどんなご褒美が欲しいんだ?」
「八雲の家に泊まりたい!」
「……先生と、一緒に寝る」
「あっハルトお前っ……じゃあ、八雲とキ……風呂に入るっ!」
「…………」
な、なるほどな……そういう方向性なのか。
「(これはちょっと、止めたほうが……いやでも……)」
最近の双子たちの、俺に対しての懐き具合からしてちょっとそんな気もしていたが……
「お前ら、俺と一緒に寝たり、風呂に入ったりするのがご褒美になるのか?」
「なるよ」
「……なる」
うわあ、物凄い純粋な眼差し。
これは、えっと……俺はどういう感情で受け取ればいいんだ……?
「わ、分かった。じゃあ、期末試験で学年順位2ケタに入ったらでどうだ」
「2ケタってことは、99位かあ~」
「……この前の中間、141位だった」
「オレは133位……こっから40位くらい上げなきゃってことか?」
「そういうことだ。ダメだったらご褒美はなし……」
「「やってやるよ!」」
ああ、すごいやる気になってしまった……家庭教師としては嬉しいことなのだが、更にいけない道に足を踏み入れてしまったというか、むしろ踏み外してしまったような気がする。
「それじゃあテストで良い点取って99位以内に入ったら、夏休みに八雲の家でお泊りってことで!」
「……一緒にお風呂に入って、一緒に寝る」
「おいハルト! 八雲と風呂に入るのはオレだけだぞ!」
「……じゃあ、寝る時はハジメだけ1人」
「ふざけんな!」
「(大丈夫かなあ……なんか色々ミスった気がする)」
なんとなく、2人を家に泊めるだけでは終わらなそうな予感がして、ほんの少しだけ『赤点回避したうえで100位以下』になることを願ってしまいそうになって……
それとは別に、2人に期待する自分の感情にも驚いたのだった。




