56話 でも、相手は未成年だよ
「北条、この間は夕雨の面倒を見てくれてありがとう」
「おう、気にすんな。シッター代も貰ったし、俺も夕雨くんと遊べて楽しかったから」
とある休日の昼過ぎ、庭田が菓子折りを持って家にやってきた。
どうやら弟の夕雨くんの面倒を見てくれたお礼をあらためて、ということらしい。
「ところで北条、ひとつ聞きたいことがあるんだけど……」
「ん、なんだ?」
「君は最近、児童預かりサービスでもやっているのかい?」
俺の家の玄関から顔を伸ばして部屋の中を覗く庭田。
そこには、俺のベッドに寝っ転がってマンガを読むハジメと、座椅子にもたれて菓子を食いながらゲームをするハルトがいた。
「ああ、うちで今ちょうど家庭教師中なんだ」
「どう見ても遊んでるだけにしか見えないけど?」
「う……流石にバレるか」
前回、夕雨くんをうちで預かるから家庭教師に行けないってなった際『じゃあオレたちが八雲の家に行ってやるよ』ということでこっちで勉強をしてから、何故か定期的に家に遊びに来るようになったハルトとハジメ。
ちなみに今日は土曜なので、普通に家庭教師の日ではない。
つまり、2人が勉強をしていなくても問題ないし、俺がなにか注意をする必要もないのだ。
「ちょっと前まではマジで期末試験の勉強してたんだけどな。今は休憩中ってことで」
「でも、こんな状態じゃ北条の勉強が……」
「俺も自分の勉強一緒にやってるから大丈夫だ。むしろ自習室みたいな感じで意外に勉強が進むんだなこれが」
「はあ……まったく、僕が言えたことじゃないけど他人に甘すぎるよ北条は」
たしかに、今日の活動には賃金が発生しない。
もちろんハルトもハジメも俺の家に遊びに来ているわけだし、多少勉強を見たところでこっちも金払えなんて催促する気もないのだが。
「本当に学校の先生と生徒ってわけじゃないんだし、家庭教師で仲良くなった友達の家に遊びに来てるって考えればまあ別にいいだろう」
「でも、相手は未成年だよ。いかがわしいよ」
「い、いかがわしいか?」
そうか、いかがわしいか……いや、そんなことないだろ。
「この状況をいかがわしいと感じるお前の方がいかがわしいんだぞ、庭田」
「くっ、屁理屈がうまくなったね北条……」
そんなことを玄関で話していると、ハルトとハジメがこちらに気付いて近寄ってくる。
「何やってんだ八雲~……って、この人誰だ?」
「……あ、庭田だ」
「なに! こいつが庭田か!」
そういえば、ハジメは庭田に直接会うのは初めてか。
ハルトは前に俺と庭田がフードコートにいるところを見ているから一応知ってるっぽいけど。
「やあ、北条の友人の庭田夜一だよ。この間は僕の弟と遊んでくれてありがとう」
「そっか、夕雨の兄ちゃんか」
「……ふんっ」
「あ、ちょっとハルト……行っちまった」
挨拶もそこそこに、部屋の中に戻っていくハルト。
なんだろう、なんか機嫌悪いっつーか、警戒してるっつーか。
「庭田、お前ハルトになにかしたか?」
「さあ、どうだったかな……それじゃあ僕もう帰るよ。これ、よかったらみんなで食べて」
「おう、サンキュな」
「夕雨によろしくなー」
庭田から菓子折りを受けとって、ハジメと一緒に部屋に戻る。
「ハルトー、美味そうな菓子もらったぞー」
「……いらない」
「は、ハルトが菓子を食べたがらないなんて……」
「事件だぜ!」
「……そんな、大げさな事じゃない」
いや、まあまあ重大事件だと思うけどな。
「ハルトは、庭田のことが苦手か」
「……だってアイツ、陰湿だし」
庭田のやつ、はぐらかしたけどなにかあったなこりゃ……
そういえば前に、ハルトがメガネかけて庭田より似合うかどうか聞いてきたことがあったっけ。
「まあ、誰にだって相性ってもんがあるから、無理に仲良くする必要はねえよ。でもこの菓子に罪はないから美味しく食ってやってくれ」
「……先生がそう言うなら」
「オレ、お茶淹れるな!」
弟の夕雨くんとは初対面でも仲良くできたわけだし、いつか庭田とも打ち解けてくれたら……いや、それも俺のエゴか。
「菓子、美味かったら庭田に伝えておくから感想聞かせてくれな」
「……うん」




