54話 理想のカップル身長差と同じっす
「くっそ~負けた~!」
「……あと少しだったのに」
ビーチバレー大会が終わり、打ち上げ代わりに海の家で食事をする。
「でも1セット取ってたじゃねえか」
「バレー部同士のペア相手に大健闘っす」
ビーチバレー大会、中学生の部の決勝はハルト・ハジメチームの惜敗だった。
先制で1セット取られた後、ギリギリで2セット目を勝ち取って、3セット目は延長戦までいって……相手に連続でポイントを取られて負けてしまった。
「サッカー部とバスケ部のペアが準優勝って、普通にすごいぞ」
「自分ら、バレー経験者なのにベスト8っすからね……」
ちなみに俺たちを倒した大学バレー部の先輩ペアは余裕で優勝していた。
俺たちだって序盤であの人たちに当たらなければ、準決勝……いや、決勝までいけていたかもしれない。
「あっ北条先輩、水着に焼きそばこぼしてるっす」
「うわ、マジで? 割りばし割るのミスって掴みにくいんだよな……」
「拭くんでちょっとジッとしててくださいっす」
「おう、ありがとな飛鳥」
「「じ~……」」
「なんだよお前ら、恥ずかしいからそんな見るな」
大の大人が食いもんこぼして拭いてもらってるとか、教え子に見られたくない……
「なんか、母ちゃんみたい」
「ん、自分のことっすか?」
「……そう。先生の面倒見るの、慣れてそう」
「まあ、高校時代は自分が女房役みたいなもんでしたから」
「「にょ、女房!?」」
「野球以外であんま聞かんぞその表現」
要するに、飛鳥がセッターで俺がアタッカーだったからそんなことを言ったんだとは思うが、思春期の男子中学生どもには違う意味に捉えられている気がする。
「八雲お前、高校時代の彼女ってこの人のことかよっ!?」
「んなわけねえだろ。そもそもどう見たってコイツは男じゃねえか」
「……男同士で付き合ったら、どっちかが女房役になるって意味じゃないの?」
「そっすよ~。自分が八雲先輩の元カノっす」
「おい、乗らないでちゃんと誤解を解け飛鳥。いいかお前ら、彼女がどうとかじゃなくて部活のポジションの話だからな」
飛鳥のやつ、変な悪ノリしやがって……
「ちなみに八雲先輩と自分の身長差は15センチなので、理想のカップル身長差と同じっす」
「「!!」」
「理想のカップル身長差なんてあるのか?」
「なんか、彼女がちょっとだけ背伸びしてキスできるくらいがいいらしいっすよ。自分とやってみます?」
「やるわけねーだろ」
飛鳥のやつ、高校のときからたまにこんな感じで悪ふざけがエスカレートするんだよな……
ちなみにここで『じゃあやってみるか』って言ったらマジでほっぺにキスくらいは普通にしてくる。
「身長差……」
「オレと八雲は、30センチもある……」
「お前らも何を気にしてんだ」
「「わぷっ」」
何故か俺と自分の身長差を確かめる双子たちの頭をグリグリと撫でまわす。
「やめろ八雲っ、頭押すなっ!」
「せ、背が縮む……!」
「はっはっは。このまま40センチ差にしてやろうか」
まあでも実際、40センチも差があったらキスどころじゃないか……肩車してデートとか?
いや流石にそれは家族サービス中のお父さんすぎるな。
「25センチとか30センチ以上の差があるカップルは、彼氏がしゃがんでる時を狙ってこっそりキスしたり、逆に彼女を抱き上げてキスしたりするのがときめきポイントらしいっすよ」
「しゃがんでる時に、こっそり……」
「抱き上げて、キス……」
「な、なんだお前ら、こっち見て」
「八雲、ちょっとそこしゃがんでみろよ」
「……先生、持ち上げて」
「どっちだよ」
まったく、飛鳥が変な話題を出すから変な雰囲気になってしまった。
「(そもそもキスするにしたって、こんな海の家みたいな場所でするわけねえだろ……ん?)」
……俺は今、誰とキスをする想定で考えてんだ?
「先輩?」
「ん、ああ……なんでもない。それより、メシ食ったら海で遊ぼうぜ」
「おお、いいっすね! 遠泳しましょうよ遠泳!」
「部活のトレーニングじゃねえんだからそんなに泳がねえよ」
まあでも、これでカップルがどうとかの話はうやむやに……
「……先生の意気地なし」
「八雲の甲斐性なしっ」
なんでだよ。




