52話 せんせい、やさしくしてね
俺が双子たちの家庭教師を始めて約3か月が経過した。
最初はどうなることかと思ったが、なんだかんだで大学生活と両立しながら今も続いている。
……とまあ、家庭教師を続けられていること自体はとても良いことなんだが、最近とある問題が俺の頭を悩ませていた。
「なあ八雲~、ここ教えてくれ~」
「……先生、この問題分かんない」
「お、おまえら……暑苦しいから離れろ……」
「「え~?」」
少し前から、ハルトとハジメの懐き具合というか、甘え具合が加速していた。
具体的に言うと、庭田に頼まれて弟の夕雨くんの世話をした辺りから。
「……教えてもらうんだから、近い方がいいじゃん」
「そうだぞ~。オレたちの家庭教師なんだから言うこと聞け八雲~」
「俺は家庭教師であって、おまえら2人の召使いじゃねえぞ……」
俺の足の間に挟まるハルトと、首元に手を回した状態でテキストを確認するハジメ。
ただでさえ梅雨でジメジメしてて暑いのに、この密着具合は非常に厳しい。
「(2人の汗と、シャンプーの香料が混ざったような甘い匂いで頭がクラクラする……)」
最近の家庭教師中は、いつもこんな感じだ。
本人たちは勉強のためとか言って、しかもちゃんと成績を上げてきているからあまり強く引き剥がすこともできない。
留守にしがちな父親の代わりに構って欲しいのかとも思ったが、どうやらそういうことでもないんだよな……
「……ハジメ、邪魔。視界が暗くなる」
「じゃあそこ変われよハルト」
「……やだ」
「(なんなんだまったく)」
いやまあ、まったくもって何も察していないわけではない。
さすがにこの状況は、2人が俺に対して何かしらの好意を持ってくれている故の行動だと理解できる。
そして、正直俺も2人のことをただの教え子以上に可愛がっている……と、思う。
普通、家庭教師バイトが泊まり行ったり部活の練習試合見に行ったりしないもんな。
「そういやお前ら、期末試験終わったら部活の引退試合があるんだろ?」
「ああ、夏の大会なー」
「……テストも大事だけど、大会も大事。まずは予選勝って県大会に行く」
「オレもまだ本調子じゃねえけど、それなりに動けるようになってきたぜ」
「そうか、2人とも頑張ってるんだな」
ハルトもハジメも、部活で色々あって調子を崩していた時期がある。
しかし、最近は感覚を取り戻してレギュラーメンバーとして試合にも出てしっかり活躍している。
「あっそうだ。八雲も大会見に来るか?」
「そうだな……まあ、予定が空いてれば応援に行くよ」
「……先生が来てくれたら、ハットトリック連発する」
「じゃあオレはスリーポイント10本決める!」
「はは、そりゃあ大活躍だな」
夏の大会か……3年のハルトたちにとっては最後の大会だ。
家庭教師としては試験の成績が伸びてくれれば俺の評価にも繋がるわけだが、それとは別でスポーツ科学を学んでいる身としては、純粋に部活を楽しんで納得できる結果を残してくれたら良いな、とも思っている。
「大会近いし、期末前は部活できなくなるから最近練習がハードでさ~」
「……おれも。ちょっと疲れ溜まってる」
「だからさあ、八雲……」
「……マッサージ、してほしい」
「おう……まあ、いいけど」
な、なんでちょっと雰囲気作ってしなだれかかってくるんだよ。
変な気分になるだろ。
「それじゃあ八雲、よろしく~」
「……せんせい、やさしくしてね」
前に俺が泊まるときに使ったマットレスを敷いてうつぶせになるハルトとハジメ。
「2人いっぺんにマッサージはできないぞ」
「じゃあまずはオレからやってくれ」
「……は? おれの左足のリハビリマッサージからだから」
「はいはい、交互にやるから言い合いしない」
まずはハルトの足の様子を見ておくか。
1度怪我をしてるから、力が入りすぎて負荷がかかってるかもしれないからな。
「……んっ、くぅっ」
「よし、大丈夫そうだ」
ハジメのほうは、足の裏かな……
「う、くすぐった……んはぁっ」
「おい、お前ら……変な声出すな」
「だ、だって八雲が変なところ触るからっ……!」
「……先生のえっち」
「俺は無実だ」




