51話 ……そこ、おれの特等席なんだけど
ピンポーン……ガチャッ。
「八雲~来たぜ~!」
「……おじゃまします」
「おう、いらっしゃい」
夕雨くんを預かった翌日、勉強を見てもらうために千葉さんちの双子くんが俺の家にやってきた。
「メリッサさんに送ってもらったのか?」
「今日は父ちゃん!」
「おお、邦重さん帰ってきてるのか」
玄関を開けてハルトとハジメを迎え入れる。
普段なら俺が千葉家にお邪魔して家庭教師をやっているところなのだが、今日は夕雨くんの面倒を見ているという事情があるので俺の家まで来てくれたのだ。
「じー……」
「……先生が面倒見てる小学生って、その子?」
「ああ。友人……庭田夜一の弟の夕雨くんだ。夕雨くん、こっちは俺が家庭教師やってるハルトとハジメ」
「……庭田夕雨です」
「……千葉ハルトです」
俺の背中からひょこっと顔を出す夕雨くんとハルトが挨拶を交わす。
なんか初めて邂逅した野良ネコ同士みたいでかわいいな。
「オレは千葉ハジメ、よろしくな!」
「よろしくお願いします」
「夕雨は、身長なんセンチだっ?」
「ぼくは、150センチです」
「よし!」
「何がよしなんだよ」
小学5年生に身長で勝って満足する中学3年生。
お前、下手したらあと2年くらいで抜かれるぞ。
「それじゃあ早速、勉強始めるか」
……。
…………。
「な、なあ八雲」
「んー? あ、その問題ひっかけだから気を付けろよ」
「おう、ありがと……じゃなくて!」
「……なんか、距離近くない?」
「は? なにが?」
「…………」
勉強を始めたハルトとハジメが謎の文句を言ってくる。
距離が近いって、なんのことだ……?
「八雲さん、ザリガニは青魚をあげると身体が青くなるんですよ」
「おお、そりゃすごいな」
「それだよそれ!」
「……なんで、その子とくっついてんの?」
俺は現在、座椅子の上に胡坐をかいている。
そんでもってその上に夕雨くんが乗っかって俺に背中を預けた状態で生物図鑑を読んでいる。
いやあ、初対面の時はどうなることかと思ったけどだいぶ懐いてくれたな。
「……そこ、おれの特等席なんだけど」
「ふざけんなハルト! 八雲の膝上はオレのベストスポットだ!」
「は?」
「あ?」
「子供の前でケンカはやめなさい」
あと俺の膝上は椅子じゃないから。
「八雲さん、この人たちは放っておいてザリガーにエサをあげましょう」
「そうだな」
「……ザリガニ」
「そういえば八雲、ザリガニなんて飼ってたんだな」
謎の言い合いをしていた双子たちが、急に出てきたザリガニという単語に気を抜かれてこちらの話に混ざってくる。
現在、うちの玄関の横にあるラックの上には水槽が置かれていて、そこには昨日公園で捕まえた青いザリガニが入っていた。
「昨日、八雲さんと公園に行って捕まえました」
「なにっ!?」
「夕雨くんが生物観察が好きだって言うから、昼メシ食いがてら連れてったんだ」
「ザリガニと、カメとヌートリアがいました」
「ヌートリアッ!?」
「……いいなあ」
さすがにカメとヌートリアは持って帰れないので、ザリガニを1匹だけ連れてきた。
庭田が迎えに来たらなんて説明しようかな……
「八雲、オレも遊びに連れてってくれ!」
「まあいいけど。勉強終わったらな」
「……おれもザリガニ食べたい」
「食ってはいねえよ」
相変わらずハルトは食い意地が張ってるな……まあでも、みんな生き物探し好きなんだな。
こういうところはやっぱ男の子って感じでいいよな。
「八雲さん、また公園に行きますか?」
「まあ、庭田が迎えに来るのももうちょい後だろうし、コイツらの家庭教師が終わったらみんなでいくか」
「それじゃあ、早く終わるようにぼくも勉強を見てあげます」
「は?」
「小学生には難しくて分かんねーだろっ」
「中学受験するので余裕です」
この後なんやかんやで3人とも仲良くなって、みんなで虫探しをしたり家でゲームをしたりして遊んだ。
夕雨くん……中学受験したり習い事したり、家での生活がどうなのかは分からないけど、俺と一緒にいる間くらいは年相応の元気なガキでいてくれると嬉しいかな。




