50話 無理に構おうとしなくていいですよ
――そして時は流れ、土曜の午前中。
「いつも夜一にいちゃんがお世話になってます! 弟のゆうです! よろしくお願いします!」
庭田にどこか似ている、利発そうな男の子が家にやってきた。
今日から1泊2日、俺の家でこの子の面倒を見ることになっている。
「ゆうくんか、よろしく。漢字はどう書くんだ?」
「夕方の雨と書いて夕雨だ。実習から帰ってきたら迎えに寄るから、それまでよろしく頼むよ北条」
「ああ、分かった」
これから泊まりの実習講義に出発する庭田が弟の夕雨くんを俺の家に連れてきた。
実習のスケジュールを聞いた感じ、帰ってくるのは早くても明日の夕方くらいだろうか。
「夕雨、北条に迷惑をかけないようにね」
「うん!」
「それじゃあ、僕もそろそろ出発するよ」
「こっちはしっかり見とくから、実習講義頑張ってこいよ」
「うん、よろしくね北条」
「夜一にいちゃんいってらっしゃい!」
実習講義に向かった庭田を送り出し、俺は夕雨くんを連れて部屋に入る。
明日の昼頃に双子たちが家庭教師を受けにやってくるから、それまでは夕雨くんと2人きりだ。
「夕雨くんは小学何年生?」
「あー……5年生です」
「そっか、5年生……ん?」
なんか、急にそっけなくなったような……俺の気のせいか?
「あ、ぼく大人しくしてるんで無理に構おうとしなくていいですよ。お互い初対面ですし」
「お、おう……」
うん、明らかに兄貴がいた時とテンションが違うぞ。
もしかしてこっちが素なのか……?
「そ、そういえば俺、家庭教師やっててさ。夕雨くんも宿題とかで分からないところがあったら遠慮なく聞いてくれよ」
「ありがとうございます。でも今週末の分は終わらせてきたんで大丈夫です」
「学校の授業で分からないところとか……」
「特にないですね。中学受験に向けて色々と予習してますけど、そっちも困ってないです」
「あ、そっすか」
さすが庭田の弟、優秀すぎるくらい優秀だな。
「……別に、北条さんのことが嫌いとかではないので、夜一にいちゃんには後で変に言わないでくださいね」
「分かってるよ」
庭田の家は、俺には想像もつかないほどのエリート金持ち一家だ。
高校こそ一緒だが、庭田は進学コースに所属する特待生だったし、俺とは頭の出来が違う。
きっと弟の夕雨くんも、幼い頃から英才教育を受けてきたのだろう。
小学生の頃から受験勉強なんて、俺にはとてもじゃないがやっていられない。
そのせいで、無理やり大人にならざるを得ないのだったらそれはちょっと可哀想だ……まあ、そんなことを杞憂すること自体が間違っているのかもしれないけど。
「夕雨くんは、遊びはなにが好き?」
「遊び……読書でしょうか」
「それは、マンガとかラノベとか?」
「いえ、児童文庫の小説です。最近は普通の文学小説も読みます」
「なるほど」
趣味で現代文の教科書に載ってる小説とか読んでまーすってこと?
さすがに高尚すぎて語り合ったりできないぜ。
「あとは……生物観察も好きです」
夕雨くんは少し恥ずかしそうにそう付け足した。
そうか、生物観察か……今日は天気もいいし、ピッタリかもな。
「それじゃあ、昼メシ買いがてらちょっと出かけるか。夕雨くんも行こう」
「まあ、いいですけど」
……。
…………。
「よし、到着っと」
「あの、北条さん。ここは……」
コンビニで昼食を買った後、家には帰らずに近所の自然公園にやってきた。
「たしか車の荷台に……お、あったあった」
「それって、竹竿?」
「お、よく知ってるな」
細長い竹の先にタコ糸を結んだだけのシンプルな釣り竿。先端には針も付いていない。
ここに、さっき買ってきたスルメをくくって……できた。
「この公園、あっちの水路にザリガニがいるんだ」
「ザリガニっ?」
「しかもただのザリガニじゃない。青いザリガニだ」
「青いザリガニっ!?」
ザリガニの話をした途端、目に見えてテンションが上がる夕雨くん。
「夕雨がよかったら、あっちで昼メシ食いながらザリガニ釣りしようぜ」
「……はい!」
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