47話 今はオレと遊んでるんだから……ダメだよ
シャカシャカシャカ。
「八雲~どうだ~? 痒いところはないか~?」
「あ、ああ。気持ちいいよ」
「へへ……オレの頭皮マッサージテクニックを見せてやるぜ!」
「(な、なんでこうなった……)」
ハジメに髪を洗われながら、洗面台の前で項垂れる。
一人暮らしの自宅の風呂場で、中学生の教え子と2人きり……これは非常によろしくない気がする。
「(いやでもハジメは男子だし、俺の気にしすぎか?)」
同性なら別に銭湯にでもいけば常にこういう状況になるわけだし、そこまで気を張る必要はないか……
とはいえ髪洗ってもらったりはしないだろうが。
「ハジメは、家ではハルトと一緒に風呂入ったりすんのか?」
「さすがに最近はもうねえかな~。中1くらいまではたまに入ってたっつーか、母ちゃんにまとめて放り込まれてたけど」
「あー、なんか想像つくわ」
ハジメの話によると、成長して思春期に入って一緒の風呂が恥ずかしくなったというよりは、中学に上がって部活やなんやで少しずつお互いの生活リズムがズレていったからという理由が大きいらしい。
「家族旅行とかで温泉行ったりしないのか?」
「父ちゃんの仕事が忙しいからな~。冬休みになったらオーストラリアのばあちゃんちに行くけど」
「オーストラリアか……」
「すごいんだぜ。日本は冬なのに、1月にオーストラリア行ったら夏でめっちゃ暑いから」
「あー、南半球は季節が逆って聞くもんな」
そんなことを話しつつ、ハジメに髪と身体を洗われる。
うちに来るなり部屋の片づけしたり、洗濯物畳んだり、菓子作ろうとしたり……そんでもって風呂の世話まで。
「ハジメは相手に尽くすタイプなんだな」
「なっ、いきなりなんだよ……っ」
「ハジメの行動を見て、誰かに甘えるより面倒見るのが好きなのかと思ってな」
まあ、双子の相方のハルトが結構ぼんやりしてるというか、世話の焼き甲斐があるタイプなので自然とサポートするのが得意になったのかもしれない。
「面倒見るのが好きか……言われてみれば、そんな気してきたかも」
泡を流して湯船に浸かると、この前のハルトのように俺の足の間にスポッと納まるハジメ。
金髪のクセッ毛がお湯でふやけて、なんだか濡れたゴールデンレトリバーみたいだ。
「でも、オレだって甘えたいときはあるし……」
「それはまあそうだろうな」
そう言ってハジメは俺の身体に背中を預けた。
要するに、今は甘えたい気分ってことかな。
「な、なあ八雲。オレ……」
ピンポーン。
「ん、誰か来たな」
「……っ」
風呂場の扉越しに玄関のチャイムの音がぼんやりと聞こえてくる。
『あれ? いないのかな……おーい北条~』
「む、庭田か」
どうやら来客は友人の庭田らしい。
アイツならまあ風呂上がりのタオル1枚で会っても問題ないか。
「悪いハジメ。俺、先に出て庭田の相手を……」
……ぎゅっ。
「い、今はオレと遊んでるんだから……ダメだよ」
「ハジメ……」
湯船から立ち上がろうとした俺の手を掴み、逃がさないように身体を押し付けてくるハジメ。
ただ、俺は中腰になっているので、その状態でこちらに密着されると……
「や、やくも……これ……」
「ち、違うぞハジメ。っていうか俺の股間に頭を押し付けてきたのはお前だからな」
「~~~っ!?」
ピンポーン。
『うーん、本当にいないのかな……まあいいや。また出直そう』
…………。
「庭田のやつ、諦めて帰ったか……」
「…………きゅるる」
「って、ハジメ!?」
ハジメは湯舟の中で俺に寄りかかりながらのぼせていた。
「こんなところまでハルトと一緒なのかよ……!」
のぼせ気味のハジメを抱えて風呂を出る。
身体を拭いて冷たいスポーツドリンクを飲ませるとだいぶ回復したようで、俺の膝枕で気持ちよさそうに横になっている。
「ったく、のぼせないように次は気を付けろよ」
「そうだな……えへへ」
「なんだよ」
「次は気を付けろって……八雲、またオレと風呂入ってくれるんだな~って……」
「……まあ、それくらいはな」
今度、一緒に入るときはぬるめのお湯にしておこう。




