41話 お前、急にキモいことするよな……
「えー、であるからして、ここのポイントは……」
5月末……大学の講義中、俺は無意識に指をトントンと叩く。
くそ、集中できない……
「(あいつら、テスト大丈夫かな……)」
今頃、ハルトとハジメは中学で中間試験を受けているはず。
なんとかして、2人とも赤点を回避してくれると安心できるのだが……
「北条、さっきからノート取ってないけど大丈夫かい?」
「いや、あんまり大丈夫じゃないがちょっと気がかりなことがあってな……」
まあ、今受けてる講義は出席さえしておけば後はレポート提出で単位はどうにかなる。
大学っていうのは意外と試験の点数以外のところで評価されて単位がもらえたりするので、ある意味中学高校よりも試験勉強は楽かもしれない。
「今からそんなんじゃ、国家試験受からないよ」
「うっ……その通りでございます庭田さん」
隣に座って真面目に講義を受けている庭田夜一からマジレスで怒られてしまう。
たしかに、俺が通っている西道院大学のスポーツ科学部は4年の最後に行われる柔道整復師の国家試験に合格することが卒業条件なので、今からしっかり勉強する癖をつけておかないと普通に留年の危機なのだ。
「(これじゃあ、あいつらに勉強がどうとか説教する権利はないな……)」
むしろ、最近真面目に勉強するようになった双子たちを見習わないといけない。
家庭教師バイトにかまけて自分が留年してたんじゃ意味が分からないからな。
「はぁ……北条、後でノート写させてあげるから、講義内容くらいはちゃんと聞いておいてね?」
「ありがとう、庭田……」
やはり、持つべきものは頭のいい真面目な友達……ついでにお金持ち……
「……ん。北条、ちょっといいかい」
「えっ?」
真面目にノートを取っていたかと思えば、唐突に俺の胸元に顔を近づけて匂いを嗅ぐような真似をする。
「やっぱり、いつもの北条の匂いじゃない。シャンプーか柔軟剤、変えたでしょ」
「お前、急にキモいことするよな……」
庭田のやつ、たまにこういうことあるんだよな。
臭くなければなんだっていいだろうに。
「メリッサさん……家庭教師やってる家の親御さんが使わないからって洗剤くれたんだよ、柔軟剤入りのヤツ」
メリッサさんの話によると、旦那の邦重さんが取引先からたまに貰ってくるらしい。
でも千葉家では使う洗剤が決まってるから、どうしようかと処分に困っていたところに洗剤ならなんでもいい俺みたいなのがちょうどいたと。
「外国のやつだからちょっと香りが強いかもな。臭かったか?」
「ううん、大丈夫……でもそっか、貰い物か。てっきり僕、家庭教師の家の子と同じシャンプーでも使ってるのかと思ったよ」
「別に、そういうわけじゃねえよ……ってかそれだとなにかダメなのか?」
「……無自覚にマーキングされてるのはさすがに嫌かな」
マーキング……?
ちょっとどういう意味か俺には分からない。
庭田のやつ、たまにこういうことあるんだよな。
「……北条は、僕がオススメの柔軟剤あげるって言ったら使ってくれる?」
「ん、まあ貰えるなら普通に使うぞ……あ、でもしばらくはメリッサさんに貰ったのがあるからいらないけど」
「それ、外国の良いやつっぽいから転売しちゃいなよ」
「人から貰った物を売っぱらうわけないだろ」
「じゃあ僕が買い取るよ」
「どういうこと?」
―― ――
「母ちゃん、この前父ちゃんが貰ってきた洗剤ってまだ残ってる?」
「……先生にお裾分けしたやつ」
「アレなら全部八雲くんにあげちゃったわよ」
「え~」
「なに、うちじゃ使わないでしょ」
「……おれの枕カバーだけ、あの洗剤で洗って欲しかった」
「オレのも!」
「何意味わかんないこと言ってんのよ……そんなにアレが良かったんなら、八雲くんの家の洗濯機で一緒に洗ってもらえば~? なんちゃって」
「「それだ!」」
「それだじゃないわよ。冗談に決まってるでしょ。お父さんがまた貰ってきたら使ってあげるから変なことするのはやめなさい」
「「ちぇ~っ」」




