36話 せ、先生も入るの?
「ただいまー……」
「おう、おかえりハルト」
「……先生、何やってんの?」
ハジメのことが気になった俺は、ハルトが参加しているサッカー部の練習試合会場を早めに出て千葉家へと向かった。
それからしばらく先行してハジメの勉強を見てあげて……気が付いたらハジメが俺の膝の上で眠っていた。
「さっきまでハジメの勉強を見てたんだが、ちょっと休憩~とか言ってそのまま眠っちまってな……」
「ふぅん。そういえば、ここ最近誰かさんのせいで寝不足だったみたいだし」
「う……それってもしかして俺のせいか?」
「……さあね」
試合中にスライディングでもしたのか、ユニフォームをドロドロに汚したハルトがそっけない態度で服を脱ぎだす。
「お、おいハルト、着替えるなら脱衣所行けよ」
「……ここ、おれの部屋だし。先生が行けば?」
「俺が脱衣所行って何するんだよ」
「ん……ハルト、帰ってきたのか……?」
俺の膝に寄りかかって居眠りしていたハジメが俺たちの話し声に気付いてのそのそと顔を上げる。
「練習試合どうだった?」
「……勝ったよ。でも先生が帰っちゃったから、ハットトリックは最初の試合しかできなかった」
「俺が帰ったせいなのか……」
とはいえ、それでもハルトは全ての試合で得点を上げたらしい。
怪我をする前はうちの母校のサッカー推薦を受けられそうなくらい活躍していたわけだし、やはりハルトの実力は本物なのだろう。
「……夏の大会で結果出せたら、西附の推薦取れるかもって顧問に言われた」
「おお、すごいじゃないか! リハビリ頑張って復帰したかいがあったな!」
「ちょ、先生汚れちゃうから……」
ユニフォームを脱いでいたハルトの頭をクシャクシャと撫でると、柔軟剤とハルトの汗の匂いが混ざり合ったなんとも言えない香りが鼻を刺激する。
まあでも、嫌な匂いじゃないかな……
「は、ハルト! シャワー浴びて服着替えてこいよ!」
「えっ? あ、ああ……」
何故か少し慌てた様子のハジメがハルトをグイグイと押して脱衣所に連れていく。
まあ、あれだけ運動して汗かいただろうし、これから勉強するにしてもシャワー浴びてさっぱりしないと気持ち悪いよな。
「って、ハルトのやつユニフォーム脱ぎっぱなしで行きやがった。しょうがねえなまったく」
子供部屋に放置されたドロドロのユニフォームを回収し、脱衣所に持っていく。
すると、ちょうどメリッサさんがハルトの着替えやらバスタオルやらを抱えていくところに遭遇した。
「あら八雲くん、それハルトの?」
「さっき部屋で脱いでそのままになってたんで」
「ありがとね~。あの子ったらその辺適当だから……ハジメは意外と整理整頓できるんだけどね」
あー、なんとなくそんなイメージあるかも。
家庭教師を始めた頃はハルトが几帳面でハジメが大雑把な気がしたけど、双子たちと過ごすうちにどっちかっていうとハルトが大雑把でハジメは几帳面だということが分かってきたんだよな。
「八雲くんも暑い中ご苦労さんだったわね~」
「いえいえ、あれくらい全然……それに、先に上がらせてもらいましたから」
「あっそうだ! 八雲くんも汗かいただろうし、ハルトと一緒にお風呂入っちゃいなさいな!」
「えっいやそれは……」
「遠慮しない遠慮しない! あ、着替えは旦那のになっちゃうけどいいわよねっ?」
「あの……」
「ハルト~! 八雲くんも一緒にお風呂入れちゃうわよ~!」
『えっ!? ちょ、ちょっと待って母ちゃん……!』
脱衣所の奥にある風呂場の扉の先からハルトの慌てたような声が聞こえてくる。
いやそりゃそうだろ。いきなり家庭教師の先生が風呂場に追加されるなんて考えてもないだろうし。
『……せ、先生も入るの?』
「いや、俺は後で……」
『……入ってきていいよ』
「マジか」
いやいやいや、さすがにそれはマズいって……
「メリッサさん、俺は後で」
『……ハジメとは入ったのに、おれは嫌なんだ』
「うぐ、そうきたか……」
ハジメと入ったっていうのは、この間の勉強合宿の時のことか……
あれはアイツが勝手に背中流すとか言って乱入してきただけなんだけどなあ。
「それじゃあ八雲くん、ごゆっくり~!」
「あっちょっと……!」
『……先生?』
「あーもう分かったよ! 俺も入るよ!」
『……よし』
こうして俺は、成り行きでハルトと一緒に風呂に入ることになってしまったのだった……




