35話 それじゃあ仲直りってことで
ピンポーン……ガチャッ。
「はい……って、え?」
「おうハジメ。誰もいない日曜を満喫してたか?」
「いや、普通に勉強してたけど……じゃなくて!」
信じられないものを見るような表情で、急な客人……つまり俺の顔を見上げる。
「なんで先生いんの!?」
……。
…………。
「おっ、本当に自主勉してるじゃん。偉いぞハジメ」
「ちょ、やめっ……!」
ガシガシとハジメの頭を撫で繰り回しながら子供部屋に入ると、机の上に教科書と問題集を開いて悪戦苦闘した跡が見られた。
「現代文と古文か。そういえばハジメ、文系苦手だったよな」
「だって、数学みたいに答えがパキっとしてねえんだもん」
「パキっとしてないって……まあ、なんとなく言いたいことは分かるが」
要するに、作者の気持ちを分析したり文章の中からヒントを探して得たりするのがふんわりしすぎていて嫌なのだろう。
数学のように、公式に当てはめればおのずと答えが導き出せる、みたいなのが分かりやすくて好きなのかもしれない。
「ハジメは菓子作りも得意だし、理数系が向いてるのかもな」
「菓子作りが勉強になんか関係あんのかよ」
「材料を正確に測って、正確な時間で調理してっていうのは理科の実験に近いものがあるからな。実際、きちんとレシピ通りに調理できる性格のやつは理科の実験も失敗しないし、数学の計算も得意だったりする」
「ふーん……」
俺のほぼアテにならなそうな雑学を真剣に聞いてくれるハジメ。
この間怒らせてしまったからもう少しギスギスするかと思ったが、案外平気なようだ。
もしかしたら、ハルトがうまいこと言ってなだめてくれたのかもしれない。
「サッカー部の練習試合、まだやってんだろ? なんで八雲だけ来たんだよ」
「ハジメのことが気になってな。ちょっと早めに抜けてきた」
「そ、そうか……ふぅん」
こちらに背を向けて椅子に座り、再び勉強を再開するハジメ。
……その参考書、上下逆さまだぞ。
「この間は悪かったな」
「それ、何に謝ってんの?」
「鮎川くんと連絡先交換した件とか、家庭教師の時間遅らせてハルトの練習試合を優先した件とかかな……」
「それは……もういいよ。オレも変に機嫌悪くして悪かったし」
「それじゃあ仲直りってことで」
「……ふんっ」
ハジメに手を差し出すと、ハイタッチをするようにパシッと叩いてきた。
まあ、ガッチリ握手よりはこういう方が俺たちには合っているだろう。
「ハルト、サッカー部のユニフォーム着てた?」
「おう。似合っててカッコよかったぞ。試合もなんか、5点くらい取ってめちゃめちゃ活躍してた」
「そっか……って、5点!?」
「本人はダブルハットトリック逃したとか言ってたけど。あと仕出しの弁当2個食ってた」
「はははっ! さすが食いしん坊の脳筋バカ!」
あ、双子の弟から見てもやっぱそういう扱いなんだな。
「な、なあ八雲……オレがもし、バスケのユニフォーム着てたら似合うと思うか?」
「そうだなあ……」
「……っ」
目の前にいるハジメの姿を眺めながら、バスケのユニフォームを着たところを想像してみる。
緩めの淡い金髪に、鼻筋がスッと通った綺麗な顔……そして、白雪のようなきめ細かな色白肌。
「……うん、似合うんじゃねえかな。NBA選手もびっくりなくらいに」
「そ、それは流石に言い過ぎだって!」
オーストラリアの血が入ったクォーターのハジメには、純日本人よりもスポーティーな恰好が似合うと思う。
まあ、ハルトも含めてコイツらめちゃめちゃ顔整ってるし、何着ても似合いそうだけど。
「そ、それじゃあ、来週バスケ部の練習試合にオレも参加するって言ったら、八雲来てくれるかっ……?」
「ああ、絶対に行ってやるよ。お前のユニフォーム姿、楽しみにしてる」
「……っ! ったく、しょうがねえな~! そんなに八雲が見たいなら、部活に顔出してやってもいいかな~!」
「おう、見たい見たい」
何がきっかけになったのかは分からないが、ハジメが部活に前向きになってくれた。
これはもう、来週末はバスケ部員の保護者の皆さんと一緒にお手伝い確定だな。
「あっそうだ八雲、腹減ってないか? オレがお菓子作ってやるよ!」
「いや勉強はどうしたハジメ」




