33話 これ、どうかな?
「……ハジメ、先生帰ったよ」
「ふんっ。そうかよ」
「……そんなイジけるなら、ハジメも先生に練習試合見に来てもらえばいいじゃん」
「オレは別に、イジけてなんか……!」
「……先生、ハジメがバスケしてたらきっと喜ぶよ」
「それは……」
「ハジメにセクハラしたコーチ、もういないんでしょ? バスケ部のヤツも、ハジメに戻ってきてほしいって言ってるじゃん」
「……っ」
「とにかく、おれは今週の日曜に先生に試合見てもらって、頑張って活躍して、いっぱい褒めてもらうから」
「ハルト、お前……」
「……羨ましかったら、ハジメも頑張りなよ」
「お、オレは……っ」
―― ――
「おお、こりゃちょっとしたスポーツ興行だな」
日曜日の昼前、俺は市外のスポーツ施設にやってきていた。
施設内には県内の中学で活躍するサッカーの強豪校が4校ほど集まり、顧問やコーチ、部員の生徒たちに加え、生徒の保護者もサポートと観戦に来ていて小さめのイベント大会みたいな盛り上がりを見せている。
「八雲くんが来てくれて助かるわ~。あ、荷物ここに置いちゃって大丈夫よ」
「分かりました」
今回、俺もメリッサさんと一緒に広橋市立第一中学校のサッカー部員の保護者に混じって練習試合のサポートをすることになった。
重い荷物を運んで、大量の麦茶が入ったドリンクサーバーを設置して、テント設営を手伝って……
「いやあ、保護者の皆さんも大変ですね」
「そうなのよ~もうほんと大変で」
「お弁当手配して、車出して、帰ったらドロドロのユニフォーム洗濯して……」
「日曜くらい家でゴロゴロしてたいわあ」
「あはは……」
文句を言いつつも、練習に精を出す生徒たちを穏やかな表情で見守る保護者の皆さん。
俺がバレーの大会に出ていた時も、試合を見ていた親はこんな顔をしていたのだろうか。
「……先生っ」
「おおハルト、おはよう」
「おはよう先生……これ、どうかな?」
保護者の中で頭一つ飛びぬけている俺を見つけたハルトがこちらに駆け寄ってくる。
今日は中学のジャージではなく、実際に大会で着用するユニフォーム姿だ。
「ハルト、ユニフォームすっげー似合ってるぞ」
「……えへへ」
それだけ聞くと、ハルトはにへらっと笑って練習に戻って行った。
「え……今の千葉さんのところのハルトくん?」
「いつも素っ気ない感じなのに、ねえ……」
「今の笑った顔、すっごい可愛かったわ~」
「先生ですって。どういう関係かしら……?」
「(う……遠慮のない主婦のヒソヒソ話が俺を襲う……)」
やはりサッカー部の保護者の皆さんにも、ハルトはちょっと素っ気なくてクールな印象を持たれていたようだ。
それが急に、ユニフォーム姿を自慢する無邪気な少年みたいなムーブを見せたら驚くよなあ。
「ふふっ。ハルト、昨日の夜からずっとソワソワしてたのよ」
「そうなんですね……まあ、無理もないですよ。久々にスタメン参加で試合に出られるんですから」
「多分そういうことじゃないとお母さんは思うけど……八雲くんには内緒かなあ」
「えっなんですか、めっちゃ気になるんですけど」
試合の前日だからソワソワしてたわけじゃないってことか?
でも、それくらいしか理由なさそうだし……
「あ、もしかして練習試合の日の仕出し弁当が楽しみとか?」
俺の時もそうだったけど、こういう日に出る弁当って中学生男子が大好きなガッツリ系だろうし、そりゃあ楽しみで寝れなくても仕方ないかもしれない。
ハルトのやつ、意外と食いしん坊だからな……
「うーん……鈍感! 八雲くん、そういうところよ?」
「ええっ?」
ど、どういうところですか……?
「ハルト、あのめっちゃ背高い男の人って知り合い?」
「……おれの家庭教師」
「へ~。ガタイよくてカッケーな」
「……あげないからね」
「いや別にいらねえし、ハルトのでもないだろ」
「……先生は、おれのだし」




