32話 ……先生、ナンパ?
「……あ、そうだ先生。おれ、今週の日曜いないから」
「ん、そうなのか?」
ゴールデンウィーク明け、最初の家庭教師。
休みの間に勉強したところを復習しつつ教えていると、ハルトから家庭教師欠席の予告をされる。
「あ、もしかして部活か?」
「……そう。サッカー部の練習試合」
ハルトが所属している広橋市立第一中学校のサッカー部は県内でも有数の強豪で、夏の大会に向けて他校からの練習試合の申し込みも結構あるらしい。
「……練習試合、今週は試合場の都合で日曜になった」
「まあ、そういうこともあるよな」
「……久しぶりに、スタメン参加」
「おお~すごいじゃん! 頑張ったなハルト!」
スタメンとは『スターティングメンバー』の略で、要するに試合の最初からコートに立つことができるチームレギュラーということだ。
怪我の影響で実力が落ちてしまい、しばらくベンチスタートだったハルトが、今週末の試合からスタメンに復帰……なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。
「そういえば、ハジメも来週末にバスケ部の練習試合があるんだろ?」
「は? な、なんで八雲がそんなこと知ってんだよ!」
「実は少し前にハジメの後輩の鮎川くんに連絡先を教えてもらってな。たまにチャットでやりとりしてるんだ」
「「……は?」」
俺の返答に、ハジメだけじゃなくてハルトまで驚いてこちらを振り返る。
な、なんだ……? 俺、なんか変なこと言ったか?
「鮎川くん、ハジメのことを心配してたぞ」
「それは……っていうかなんで八雲が清志朗と連絡取ってんだよ!」
「……先生、ナンパ?」
「ナンパってなんだよ。ちょっとこの間、車に……」
……いや待てよ。
そういえば俺から誘って車に乗せて、連絡先の交換もこっちから提案した気がする。
これは、ナンパといえばナンパなのか?
「お、オレたちには連絡先教えてくれないクセに、よりによって清志朗に……!」
「……先生のばか」
「いやだって、お前らまだスマホ持ってないから」
あー……でもそうだな。
スマホ買ったら連絡先交換するって約束して、その間に他の知り合いと交換してたら気分悪いか。
……いや、どうなんだ? 別に問題ない気もするけど。
でもコイツらの機嫌を無駄に悪くするメリットも無いのでここはとりあえず謝っておこう。
「ごめんな2人とも。次からは気を付ける」
「清志朗の連絡先、消したら許してやる!」
「そこまではさすがに……」
「……じゃあ、今週末の練習試合。先生が見に来てくれたら許してあげる」
「えっ?」
「お、おいハルト!」
ハルトの練習試合か……スポーツ観戦とか好きだしちょっと興味あるんだよな。
「俺が見に行ってもいいのか?」
「……うん。試合終わったら、家庭教師やってほしい」
「まあ、ハルトが頑張れるなら大丈夫だが」
「ふざけんなハルトずりぃぞ!」
「……何が?」
「だって、そんなの……くそっ!」
「あ、おいハジメッ」
ハジメがハルトの提案に怒って部屋を出て行ってしまった。
これはちょっと、マズい気がするな……
「大丈夫だよ先生。おれがうまくやるから」
「ハルト……」
「今日の事も許してあげるし、ハジメの機嫌もちゃんと直しておく……だから、練習試合の応援忘れないでね?」
ハルトはそう言うと、少し恥ずかしそうにしながら試合会場の住所と日程を書いたメモを俺に渡してくる。
「……よし、分かった。双子のお兄ちゃんがそう言うなら信じるしかないな。練習試合、楽しみにしておくよ」
「任せて。ハットトリック連発しちゃうから」
「ハットトリック連発は無理だろ」
1発3点だぞ。




