31話 ほ、本当に一緒に寝たの?
「やあ北条、久しぶり」
「そんなに久々でもないけどな」
ゴールデンウィーク最終日、家族で海外旅行に行っていた庭田夜一が帰ってきた。
「ファジー楽しかったか?」
「ファジーじゃなくてフィジーね、フィジー諸島。はいこれお土産」
庭田からチョコ菓子とちょっと高そうなコーヒー、そしてココナッツの香りがする石鹸を受け取る。
「色々サンキューな。貰ってばかりじゃ悪いからこれやるよ」
「これ、クッキー?」
「ああ、俺が作ったんだ」
「手作り!? すごいじゃないか八雲!」
ほんのりバニラの香りがするプレーンのクッキーと、ココアパウダーを混ぜ込んだクッキーを皿に盛って庭田に差し出す。
ついでにさっき貰ったコーヒーを淹れてこよう。
「これ、僕が食べていいのかい?」
「どうぞどうぞ。コーヒーはブラックでいいか?」
「うん……あ、ちゃんと美味しい」
「ちゃんととか言うな。失礼だぞ」
まあ、俺も初めて作ったからちゃんと美味しいなら良かったけど。
「それにしても、北条にこんな特技があったなんて……」
「いや、普段は菓子なんて作らねえんだけどな。ホットケーキミックスで簡単に作れるって言うから俺も真似してみたんだ」
「……誰かに教わったのかい?」
「家庭教師やってる教え子にちょっとな。マジで簡単だったから、今度庭田にも教えてやろうか?」
「……いや、僕は大丈夫かな」
「そうか?」
まあ、お坊ちゃんの庭田にはちょっとチープすぎる味だったかもしれないな。
「ゴールデンウィーク中も、家庭教師行ってたのかい?」
「ああ、2日ほど……いや、正確に言うと3.5日か」
「3.5日?」
「1回普通に家庭教師の日があって、もう1回は泊まりで行ったんだ」
「……え? と、泊まり?」
「ああ。休み明けのテストで良い点取るために勉強合宿するんだーってことでな」
「……ふぅん」
俺が作ったクッキーを齧りながら静かに相槌を打つ庭田。
あまりお気に召してないのかと思ったけど、意外と食べてくれるな。
「勉強合宿ってことは、寝ずに徹夜で勉強したのかい?」
「いや、夜は普通に寝たよ」
「一緒のベッドで?」
「一緒のベッドで」
…………。
「えっ?」
「え……あっ! 庭田お前マジで、そういう誘導やめてくれよ!」
「誘導って……え? ほ、本当に一緒に寝たの?」
「まあ、そこは否定できないが」
俺は庭田に、何故か双子たちが自分のベッドじゃなくて俺の布団に入ってきたことを説明した。
「北条、それは……ちょっと変だよ」
「俺もちょっとそう思ったけどさ。やっぱ普段と違う状況だとテンションが上がって変なことしちゃうっつーか。修学旅行の夜的な、そんな感じの雰囲気になってたっつーか」
「うーん……北条が言うならそういうことにしておこうかな」
ふぅ、危ない危ない。
鮎川くんに続いて庭田にも通報されかけるところだった。
「でも勉強はかなり捗ったと思うぜ。普段だったら2時間くらいやって終わりだけど、あの日のアイツらはいつもの倍以上の時間ちゃんと勉強してたし」
「それにしたって、北条の負担が大きすぎやしないかい? 泊まりで勉強を見る家庭教師バイトなんて聞いたことないよ」
「それはまあ……そうだな。でもメシとかご馳走になったし、月謝もだいぶ上乗せしてくれたから」
久々に湯船に浸かってゆっくりできたし、むしろこちらが申し訳なくなるくらいおもてなししてもらった気がする。
「生徒と教師の距離感じゃないし、正直あまり感心しないけど……あ、まさか一緒にお風呂に入ったりはしてないよね」
「はっはっは、流石にそれは……」
…………。
「北条?」
「は、入ってねえよ、うん」
まあ、背中は流してもらったけど……庭田がなんか怖いから、一応今回は入ってない判定ということにしておこう。




