3話 なんせ君は、僕の命の恩人だから
「こりゃあひでえな……」
「……ふん」
「あんま見んなよなっ!」
ガキ共を抱えたままメリッサさんに事情を話すと、快くテスト用紙と成績表を見せてくれた。
「英語以外全滅じゃねーか」
「保健体育も良いだろっ!」
「……技術だって悪くねえし」
「メインの5教科のこと言ってんだよ」
ハルトとハジメの成績は似たり寄ったりで、基本的に主要科目の5教科は赤点以下。
英語の成績が良いのは、メリッサさんやオーストラリア人の祖母の影響があるのかもしれない。
おそらく、幼い頃から定期的に祖母と会って英語を話しているのだろう。
「とりあえず、国語と数学だな……暗記系は今詰め込んでも忘れそうだし」
「……なにアンタ、おれたちの記憶力バカにしてんの?」
「全然覚えられるし。お前みたいなオッサンより記憶力良いし」
「(意外とチョロいなコイツら)」
押し付けたら嫌がるけど、煽るとすぐに乗ってしまう。
まあ、中学生だしそんなもんか。
それはそれとして、オッサンはちょっと傷つくが……まだ19だぞ俺。
「よっしゃ。それじゃあまずは……お前ら、マンガとか読む?」
「「……は?」」
―― ――
「くあ~……マジで疲れた」
初日の家庭教師を終えて、マンションを後にする。
自宅のアパート前まで来ると、駐車場に見知った顔を発見した。
「おつかれ、庭田」
「ん……ああ、北条か。おつかれさま」
ズレた眼鏡を右手の中指で押し上げながら、こちらに気付いて手を挙げる。
彼の名前は庭田夜一……俺と同じアパートの住民であり、高校時代からの友人だ。
「相変わらず、すごいの乗ってるよな」
「あはは……入学祝いに親が買ってくれたものだから、そんなに趣味じゃないんだけどね」
学生アパートの駐車場に置いておくにはあまりに場違いな高級スポーツカーを洗車している庭田。
彼の親はそこそこ有名な会社を経営している敏腕社長で、庭田はいわゆるお坊ちゃんというやつだ。
そんな彼がどうして俺と同じ安アパートで暮らしているのかというと……
「北条が欲しいならいつでもプレゼントするよ。なんせ君は、僕の命の恩人だから」
「いらんいらん。気持ちが重すぎる」
高校時代、庭田は一部の上級生にいじめられていた。
争いを好まない穏やかな性格で、更に家が金持ちということで金をふんだくりやすかったのだろう。
そんなある日、俺は上級生に囲まれて金をせびられている庭田をたまたま発見した。
俺はとりあえずスマホで証拠動画を撮影しつつ、上級生をボコして庭田を助け出した。
ちなみに俺のあだ名が『西附の巨獣』になったのはこの時だ。
そんでもって後日、庭田をいじめていた上級生たちは退学になり、俺はやりすぎということで1週間の謹慎。
謹慎期間中は庭田が毎日高級お茶菓子を持って遊びに来てくれて、そこで俺たちは友人になったというわけだ。
「北条がいるおかげで僕は毎日安全に暮らせているんだ」
「俺は別にアパートの警備とかやってねえからな」
助けた日から随分と俺に懐いてしまった庭田は、進学先も一緒にして入居するアパートまで揃えてきた。
安全を考えるなら千葉兄弟たちが住んでる駅前のマンションみたいな所の方が良いと思うんだが……
「そういえば大家さんに聞いたよ。北条、中学生の家庭教師始めたんだって?」
「ああ、まあな……ちょうど今、行ってきた帰りだ」
「北条に勉強を教えてもらえるなんて、生徒さんは運が良いね」
「そんなことないだろ」
庭田のやつ、妙に俺を神格化しているというか……
まあ、仲良くなった経緯が経緯だから仕方ないのかもしれないが。
ちなみに庭田はめちゃめちゃ頭が良くて、俺なんかより全然家庭教師に向いていると思う。
「今日が初日?」
「ああ。顔合わせと、学力の確認と……あとはまあ、一緒にマンガ読んできた」
「そうなんだ……えっ? マンガ?」
眼鏡のレンズ越しに目を丸くして驚く庭田。
まあ、家庭教師に行って生徒と一緒にマンガ読んでたって聞いたらそりゃそうなるわな。
「よく分からないけど……きっと、北条なりの考えがあるんだね」
「いやまあ、それはそうなんだけど」
「生徒さんは東大合格間違いなしだね!」
「そんなわけないしまだ中学生だっつーの」
肯定されといてなんだけど、なんでもかんでも持ち上げすぎだろコイツ。




