2話 ジロジロ見んなよ!
「それじゃあ紹介するわね。こっちのやさぐれてるのがハルト、そっちのうるさいのがハジメよ」
「……チッ」
「へっ!」
「(うわあ、態度わりぃ……)」
リビングに通され、お互いに自己紹介をする。
黒髪に日焼けした小麦肌の少年が双子の兄の千葉ハルト。
亜麻色の髪に雪のような白い肌の少年が弟の千葉ハジメ。
「(っていうか、受け持つ生徒が双子だなんて聞いてないぞ……)」
ナオちゃんめ、だからバイト代弾むとか言ってたのか。
シンプルに2人分の月謝が出るだけじゃねえか。
「なんだよ、ジロジロ見んなよ!」
「ああ、悪い」
ハジメの方は珍しい髪色だな。染めてんのか?
それとも……
「ウチの子、日本とオーストラリアのクオーターなのよ」
「オーストラリア、ですか」
「ワタシのママがオーストラリア人なの。パパとダーリンは日本人よ」
双子の母親、メリッサさんが軽く事情を説明してくれる。
彼女自身は日本とオーストラリア人のハーフということで、ハジメよりも更にグローバル感のある見た目をしていた。
「……コイツ、なんかあんまり頭良くなさそう」
「脳ミソまで筋肉が詰まってんじゃね~?」
「こらアンタたち! 先生に向かってなんて口の利き方してんの!」
「ふんっ……」
「知るかよ」
なんつーか、敵意剥き出しって感じだな。
でも母親に『うるせークソババア』とか言わないところを見ると、意外と親には逆らえないのかもしれない。
「ごめんねえ八雲くん。この子たちったらいつもこんなで……」
「大丈夫です。慣れてますから」
「慣れてる?」
「あー……なんでもないっす」
まあ、別にこちらの事情は伝えなくてもいいだろう。
「改めまして、本日からハルトくんとハジメくんの家庭教師を務める北条八雲です」
「直重くんから西道院大学に通ってるって聞いてるわよ。もしかして、高校も?」
「そうですね、附属高校に通ってました」
「「……!」」
俺の出身校を聞いた瞬間、双子の顔が少しだけ驚きを見せる。
「実はウチの子たちの志望校、西道院大学附属高校なのよ!」
「そうなんですね」
「西附の卒業生で現役の西道院大生に教えてもらえるなんて……良かったわね、アンタたち!」
「……別に」
「なんもよくねーし!」
そうか、こいつら俺と同じ高校を受けるのか……
それならまあ、俺が教えるのは理にかなっているのかもしれないな。
ったく……ナオちゃんのやつ、ここまで知ってて押し付けて来やがったな?
「あらいやだ、ワタシったら話に夢中になっちゃって……それじゃあ後はお若い人たちで☆」
そう言ってメリッサさんはリビングから出ていった。
いやお見合いじゃないんだからそのセリフはおかしいだろ。
「まあ、なんだ……今日からよろしくな」
「……ふんっ」
「よろしくなんてしねーし」
悪ガキっつーか、拗ねてる子供だなこりゃ。
母親にはそこま態度悪くなかったし、内弁慶ならぬ外弁慶タイプなのかもしれない。
「2人は、来年の受験で西道院大学附属高校に合格するってのが目標でいいんだな?」
「だから?」
「なんか文句あっかよ」
「いいや、文句なんて無いよ。卒業生としてウチを志望校に選んでくれて嬉しいなって思っただけだ」
「は?」
「キモ」
今の返答のどこにキモい要素があったんだよ……まあいいや。
若い時ってすぐキモいとか言いがちだしスルーしてあげよう。
「とりあえず、今の学力が知りたい。期末テストの結果とか見せてくれ」
「嫌に決まってんじゃん……」
「見せるワケねーだろバーカ!」
こ、こいつら……
家庭教師雇ってまで受かりたいなら少しは協力しろよ……
「……子供部屋にあんのか? メリッサさんに聞いてみるか」
「嫌だっつってんだろ……!」
「プライバシーのシンガイだぞシンガイ!」
テスト用紙を探しに行こうとすると、2人掛かりで俺を押さえつけてくる。
まったく、俺を妨害したって頭は良くならねえぞ……
「それじゃあ行くぞ~」
「なっ……!」
「うわぁっ!?」
俺は2人に押さえつけられたまま立ち上がり、シタバタ暴れる千葉兄弟を両脇に抱えて歩き出した。
「は、離せよっ……!」
「降ろせ~っ!」
「掴んできたのはそっちだろ~?」
家庭教師、1日目。
かつて『西附の巨獣』と呼ばれた大男の前に、悪ガキ共は手も足も出なかった。




