26話 こっち向くなっ……!
「ふっ、ふっ……」
夕食を食べ終えて、腹ごなしに軽くストレッチと筋トレをする。
これはバレー部時代からやっている日課のようなもので、コイツのおかげで健康的な体系をキープできている……と、思う。
「……先生、なにやってるの?」
「ん~? 自重トレーニング」
「ふぅん……じゃあ、協力してあげるよ」
「協力って、ハルトなにを……ぐぉっ!?」
肘とつま先だけでバランスを取るプランクを続けていると、背中に何かが乗った感触と共にズッシリとした重みが加わる。
おそらく、というか確実にハルトがふざけて乗っかかっているのだろう。
「おいハルト、降りろ……!」
「……ほら、がんばれがんばれ。そんなんじゃ全国行けないよ~」
強豪サッカー部で活躍するハルト教官の加重トレーニングはなかなかハードだった。
しかし、こういうのはむきになって言えば言うほど調子に乗るからな……よし。
「ハルトの尻、部活で鍛えてるわりには柔らけえなあ」
「……なっ!」
「こんなムチムチの尻でサッカーなんて出来んのかあ?」
「~~~ばかっしねっセクハラ教師っ!」
よし、降りてくれた。
こういうのは恥ずかしがらせた方が効果あるからな。
「八雲~母ちゃんが風呂入れって……何やってんのおまえら?」
……。
…………。
「ふぃ~……気持ちいい」
夕食後、メリッサさんに促されてお風呂をいただく。
さすがに192cmの巨体が足を伸ばせるほど広くはないが、久々の湯舟でゆっくりできて幸せな気分になる。
「うちじゃあ、いつもシャワーだしなあ」
一人暮らしを始めてからは水道代とガス代が勿体ないのでシャワーのみで済ませていたが、やっぱこうやってちゃんと湯船に浸かると気持ちが良いな。
「今度、近くの銭湯でも探して行ってみるか……」
ガラガラッ。
「八雲~入るぞ~!」
「えっ?」
「背中流しにきた!」
一人でゆっくり風呂を堪能していると、腰にタオルを巻いたハジメがやってきた。
どうやら俺の背中を流してくれるらしい。
「お前、その恰好……」
「へへっ、追い返されないように服脱いじゃったもんね。八雲出たらそのままオレが入るから」
「さすがに2人は狭いだろ」
「一緒に入んねーよ、背中流すだけ!」
ということで、仕方ないのでハジメの善意に付き合ってあげることにした。
っつーか身体は湯舟に浸かる前に洗ったんだがな……
「よい、しょっと」
ザッバアアン……
「うわぁ、でっけぇ……」
「ん? どうした?」
「なっ、なんでもねえよ……!」
湯船から出て風呂椅子に座ると、ハジメが俺の背中にボディソープを塗り始める。
「手洗いなのか?」
「ボディソープ伸ばしてるんだよ。この後スポンジで擦るから」
その割には、ペタペタと無駄に触りまくってる気がするが……
「八雲、肩の筋肉すご」
「バレー部だったからな。アタック打つのに肩の力が大切なんだ」
「ふーん……」
背後にいるハジメの表情は分からないが、随分と大人しい気がする。
……と思ったら、正面の鏡に赤面するハジメの顔が映っていた。
本人は顔を見られているのに気付かず、俯きがちに俺の背中をゴシゴシと擦っている。
……ツンツンッ。
「ひぅっ」
「ん?」
今、背中になにか当たったような……スポンジとは違う感触だったな。
「ハジメ?」
「い、今はダメ! こっち向くなっ……!」
「お、おう?」
「ほら、流すから前向いてろっ……!」
「わぷっ……って、なんで頭から流すんだよ! 背中だけでいいだろ」
「うるせえうるせえ! 次オレが入るんだから、洗い終わったから出てけっ!」
雑に泡を流されたあと、ハジメに追い出されてしまう。
まったく、なんなんだ一体。
「先生、着替えここに……あ」
「おうハルト、サンキュー」
「……でっかぁ」
「ど、どうした?」
「……っ! な、なんでもねえよ! 先生のばか!」
……本当、なんなんだ一体。




