24話 はい先生。あーん
「よし……焼けた!」
スーパーから帰ってきたハジメが『絶対に覗くなよ!』とか言いながらキッチンに立てこもって何やら作っていると思ったら、出来立てのクッキーが盛られた皿を持って部屋に戻ってきた。
「なんでホットケーキミックス買ってんのかと思ったら、これ作るためだったのか」
「へへっ、どんなもんよ!」
ほんのりバニラの香りがするプレーンのクッキーと、おそらくココアパウダーを混ぜ込んだクッキー。
なんというか、普通に美味そうだ。
「お前、クッキーなんて作れたんだな」
「ん? まあなー。ちょっと前から菓子作りにハマってんの」
「……ハジメ、バスケ部サボってお菓子作り始めた」
「う、うるせー! 暇だったんだよ!」
中学で男子バスケ部に所属しているハジメだが、コーチにセクハラまがいの指導を受けてから部活には行けていないらしい。
そうなると、放課後はだいぶ時間が余るだろうな……遊び相手になりそうなハルトはサッカー部に行っているし、俺が家庭教師を始めるまで勉強もサボってたから相当暇を持て余していたに違いない。
「それで、菓子作りか……」
「な、なんだよ。女みたいだって言うのか?」
「言わねえよそんなこと。ケーキ屋やってんのだって男の方が多いぞ」
「そうなのか?」
「……女ばっかりだと思ってた」
結局、ああいう職業は力仕事も多いし体力勝負にもなってくるからな。
花屋とかも男女比はほぼ半々とか聞くし、そもそも男だから女だからで馬鹿にするのは間違っている。
「料理とか好きなら、そっち系の部活に入ったらどうだ?」
「え~? 絶対友達にバカにされるし」
「作った菓子でも分けてやればいい。次の日からヒーローだぞ」
男子中学生なんて食い意地の塊だろうしな。
まあ、料理系の部活だと女子生徒しかいなくて気まずいとかはありそうだが。
「八雲に食わせたいだけだから、家で十分だし……」
「なんか言ったか?」
「な、なんでもねーよバーカ!」
ハジメは俺に聞き取れない音量でゴニョゴニョと呟いた後『飲み物取ってくる!』と言って部屋を出ていった。
「なんなんだ一体……ん?」
「……ムシャムシャムシャ」
「あっハルトお前! もう半分くらい減ってるじゃねえか!」
「……早い者勝ち」
くそ、この食いしん坊サッカー部め……!
「こら、皿を抱えるなっ! 俺にも食わせろって!」
「……じゃあ、はい先生。あーん」
「えっ? あ、あーん……?」
「飲み物持ってきたぞ~……って、あー! 何やってんだよお前ら!」
「……ふっ」
「サクッ……ん、美味い」
ハジメが作ったホットケーキミックス生地のクッキーは、外側サクサク中身は柔らかめのしっとり系でカントリーなマアムを思い起こす味だった。
「ハルトのやろー、オレが作ったクッキーでそんなこと……や、八雲! こっちのも食べてみろ!」
「お、おう」
「ほら、あ、あーん……!」
いや普通に食わせてくれよ。
なんで2人してあーんで食べさせようとするんだよ。
「ん……こっちも美味い。ちゃんとココアの味がする」
「そ、そうか? へへっ」
「……先生、今度はおれに食べさせて」
「あっズルいぞハルト! クッキー作ったのはオレなのに!」
「いやもう、そういうのいいから普通に食おうぜ……」
「「よくない!」」
結局この後、ハジメが作ったクッキーがなくなるまで3人で食べさせ合った。
こういうのって、誰かが止めるまで意地になって終わらないんだよな……
「……あ、クッキーなくなった」
「オレ、もう1回作ってくる!」
「も、もういいもういい。マジで晩メシ入らなくなるから」
「……先生、はい。あーん」
「いや飲み物は無理だろ」




