23話 お疲れ様です、ハジメ先輩!
「……これとこれ。あとこれも」
「お前、そんな食うと晩メシが入らなくなるぞ」
「ホットケーキミックスも買おうぜ!」
「……賛成」
「ホットケーキはガッツリいきすぎだろ」
ゴールデンウィーク後半、遂にお泊り家庭教師の日がやってきた。
昼過ぎに千葉家にお邪魔して2時間ほど双子たちの勉強を見た後、いつもならここで帰るのだが、今日はこのまま泊りがけで勉強会を続ける。
とりあえず休憩を挟んでからまた勉強を再開するということで、今は俺の車に乗って3人でお茶菓子を買いに近所のスーパーまで来ていた。
「っていうか、菓子買うくらいならマンションの近くにあるコンビニで良かっただろ」
「それだと歩きで行けちゃうじゃん!」
「……先生の車に乗りたかったから」
「そういうことね」
なんでわざわざ車に乗ってプチ遠出したのかと思ったら、俺の車に乗ってドライブがしたかったらしい。
ちなみに家を出発する前に助手席ジャンケンとかいうのが勃発して、行きがハジメ、帰りがハルトということになった。
助手席なんてむしろ座りたくないけどな……中学生の感覚はよく分からん。
「ん……? うわやっべ!」
「ハジメ?」
「八雲っ、ちょっとオレを隠してくれ!」
「隠すって……」
スーパーのお菓子コーナーでおやつを物色していると、いきなりハジメが俺の背中に隠れようとする。
「……あれ、うちの中学のバスケ部だ」
「バスケ部?」
「……うん。多分2年生」
ハルトが目で合図した方を確認すると、2人が通う広橋市立第一中学校のジャージを着た男子生徒の集団を発見する。
ジャージの色は学年で分かれているらしく、あそこにいるのは全員2年の男子バスケ部らしい。
「2年のバスケ部ってことは……ハジメの後輩か」
「そうだよ、だから気まずいんだって」
バスケ部に所属しているハジメは、現在とある理由により部活に行けていない。
実際、今日も本当は部活があったところをサボっているのだろう。
「……む? あっ!」
たったった……
「ハジメ先輩!」
「うげっ、清志朗……!」
そんな感じで後輩バスケ部たちから身を隠していたハジメだったが、結局1人の生徒に見つかってしまう。
「お疲れ様です、ハジメ先輩!」
「いや、オレは疲れてねえし……」
「そろそろ部活に復帰してくれる気になりましたかっ?」
「なってねえし、声デカいぞお前……」
俺の背中に隠れながら抵抗するハジメと、まるで俺のことを電柱か何かくらいにしか思っていないのか、完全に無視してハジメに話しかける後輩男子。
「部活だって、辞めるって言ったのに無理やり所属だけさせられてるんだ。だからこのまま行かないで引退するからいいんだよ」
「良くありません! 自分はハジメ先輩と一緒に……」
「それに、オレは今勉強で忙しいんだ。なあ、北条センセ?」
「こっちに振るなよ……」
普段は『八雲』って呼び捨てにしてるクセに、こういう時だけ生徒ズラしやがるんだから。
「北条、先生……?」
「えっと、初めまして。千葉ハジメくんの家庭教師をしている北条八雲です」
「家庭教師……」
ハジメに言われて初めて俺に気付いたようにこちらに視線を向ける、というかほぼ睨むように見てくる後輩男子。
「北条センセ、こいつはバスケ部2年の鮎川清志朗。2年の中じゃ1番背が高くてバスケも上手いんだぜ」
「ほう、それはすごいな。えっと……鮎川くんだっけ、よろしく」
「……よろしくお願いします」
たしかに、ざっと見て180cm近くはあるようだ。
中2でこれだけ高ければバスケをするには有利だろう。
それに引き換え、ハジメの身長は……
「……まあ、ドンマイだな」
「な、なんだよ! 急に慰めんなよ!」
やっぱバスケ部で背が低いとちょっと大変だよなあ。
俺がやってたバレーボールなら背が低くてもリベロとかで活躍できるけど、バスケはどうなんだろうな。
「自分より背が高い……くっ!」
「え? ああ、どうも……?」
「北条八雲……その名前、覚えました! 次こそはハジメ先輩を返してもらいますからね!」
「どういうこと?」
鮎川くんは俺と身長を比べて勝手に落ち込んだ後、謎の捨て台詞を残して去って行った。
「ハジメ、後輩に慕われてるんだな」
「さあね。どうだかー」
「……先生、駐車場に焼き鳥の屋台出てる。食べていい?」
「ハルトはマイペースだなあ……」




