22話 お前ら、なんか距離近くね?
「うん、うん……よし、満点だ」
「よっしゃ!」
「……まあ、これくらいは余裕だし」
ゴールデンウィークに入り、本日は通常の家庭教師の日。
一応、2人が得意な英語の勉強も見ておこうということで軽くテストをしたのだが、まったく苦戦することなく2人とも満点を取ってしまった。
「さすが、小さい頃からオーストラリア行ってるだけあって英語は得意だな」
「……発音が学校で習うのとちょっと違うから面倒だけどね」
「英語だけど半分ローマ字読みって感じだよな」
「例えばどんな感じなんだ?」
「月曜日だったら、マンデイじゃなくてモンダイ、みたいな」
「なんか逆に読みやすいな」
まあ、だからこそアメリカ英語が聞き取りにくかったりするのかもしれないが。
日本語だってそこそこの方言でも聞き取るの大変だもんな。
「……先生、英語満点だから今日はもうおしまい?」
「いや、英語は元々できるの知ってるから別の教科もやる予定だ」
「え~……? 勉強終わりにして先生の車でドライブ行こうよ」
「行かねえよ」
ハルトのやつ、この間車に乗せてから味を占めたのか、ちょくちょくこうやってねだってくるんだよな。
夏休みになったらキャンプに行きたいとか言ってたし、はてさてどうしたものやら。
「じー……」
「ん、どうしたんだハジメ?」
「いやあ、その……お前ら、なんか距離近くね?」
「は? 何がだ?」
「…………」
「(ああ、なるほど……言われてみればそうかもしれない)」
ショッピングモールでのストーカー被害の件以降、ハルトが少し甘えてくるようになった気がする。
甘えてくるというか、話すときに俺の服の裾を握ったり腕を掴んだりすることが多くなった。
あのストーキングババアのせいでトラウマが刺激されて精神的に不安定になっているかもしれないので、特に気にせず受け入れていたが、事情を知らないハジメから見たら不思議な光景かもしれない。
「ハジメ、これはな……」
「……先生、内緒」
「お、おう」
事情を説明しようとしたらハルトに止められてしまった。
まあでもそりゃそうか、ストーカー被害が再発したなんて言ったらハジメを不安にさせてしまうかもしれないしな。
「なんだよハルト、何かあったのか?」
「……別に」
「そうかよ。まあいいけど……っと」
「お、おいハジメ、重いぞ」
「ハルトがいいならオレもいいだろ~?」
どういう理屈なのかは分からないが、ハジメが後ろから抱き着いてきた。
正直、まだ5月とはいえ普通に暑いのでやめてほしい。
「……先生、嫌がってるじゃん」
「そんなことないよな八雲~?」
「えっ? ああ、まあ……」
「へへっ」
「……チッ」
唐突に俺を挟んで威嚇し合うハルトとハジメ。
なんでいきなり険悪になったのか分からないのだが、兄弟喧嘩するなら俺を巻き込まないでほしい。
「ほらほら、2人とも座って。勉強の続きするぞ」
「はーい」
「……はい」
うーん……俺の言う事は比較的素直に聞いてくれるようになったんだけど、たまに謎のギスギスが発生するんだよな。
こういうのは、一人っ子の俺には分からないところだ。
「後で庭田にでも聞いてみるか」
友人の庭田夜一は2人兄弟で、下に年の離れた弟がいる。
たしかまだ小学生だったはず……そう考えるとさすがに双子の兄弟とは接し方が違うかもしれない。
「……庭田」
「また庭田の話かよ」
「いや、アイツの話はそんなにした覚えないんだが……」
「あーもういいって。はやく勉強しようぜ」
「……家庭教師なんだからしっかりやってよ」
「サボんなよな給料ドロボー」
「お、お前ら……」
喧嘩しかけたと思えば息を揃えて理不尽な文句を言ってくる。
何だかんだんで、まだまだ悪ガキ続行中らしい。
「よし、それじゃあ今日の課題が早めに終わったら俺の車でドライブに連れてってやる」
「マジで!?」
「……本気出す」
「嘘だったら10円玉で車に『ウソツキ八雲』って掘ってやるからな!」
「オイふざけんな」




