19話 ……ご褒美、欲しいんだけど
「……先生、ここの読解がちょっと分からない」
「ん……ああ、そこは実際の行動じゃなくてこっちに載ってる主人公の心情を――」
「八雲~! ここ分かんねえ~!」
中間試験で赤点を回避して誕生日にスマホを買ってもらうという目標が出来た双子たちは、より一層勉強に取り組むようになった。
もうすぐゴールデンウィークの勉強合宿も控えているので、このままヤル気継続で頑張ることができたらきっとテストで良い結果が出せるだろう。
「それにしても、お前ら6月12日が誕生日なのか……」
「なんだよ、悪いかよ」
「いや、悪いとかじゃなくて。6月12日ってことはふたご座だろ?」
「……まあね」
ふたご座生まれの双子だなんて、随分とロマンティックじゃないか。
「そういう八雲はいつなんだよ?」
「俺の誕生日か? 8月28日だ」
「……8月、28日」
「だっはっは! ハニワじゃねーかハニワ!」
「小学生のとき散々言われたわ」
ちょっと悲しいのは、夏休み中に誕生日が来るので学校とかで友達に祝ってもらえなかったこと。
しかも夏休みの終わり間際なので、誕生日パーティーをしてても『ああ、もうすぐ夏休みが終わってしまう……』という気持ちが常に消えなくて全力ではしゃげなかった。
「……ねえ先生」
「ん、どうしたハルト?」
「おれたち、もうすぐ誕生日じゃん?」
「まだ2か月近くあるが……まあ、もうすぐといえばすぐだな」
「……ご褒美、欲しいんだけど」
「そうきたか……」
俺の肩に顔を寄せてねだるように囁くハルト。
要するに、なにか誕生日プレゼントが欲しいということだろう。
「オレも欲しい! 八雲なんか買ってくれ!」
「スマホ買ってもらうんだから良いじゃねえか」
「それは中間試験の結果が良かったらだし! まだ分かんねえし!」
「……なんなら、可能性低いし」
「いや諦めるなよ」
まあ、誕生日を知ってしまった以上はちょっとした菓子くらい買ってやろうとは思っていたが。
「じゃあ俺もメリッサさんたちと同じ条件だ。中間試験で全科目赤点回避したらお前らに1個ずつ何か買ってやる」
「やったぜ~! じゃあオレ新作のパケモンカードな!」
「手に入るなら買ってやるが、そもそも入手がムズいだろ」
「…………」
「ハルトはどうする? 新しいスパイクでも買ってやろうか?」
「おれは……もうちょっと待って」
「おう」
なんて、気軽に言ったけどサッカーのスパイクシューズなんて結構値段するよな……
これじゃあ来月の家庭教師バイトがタダ働きになっちまうな。
―― ――
「ふぅ……ん?」
「……先生」
トイレを借りて洗面台に移動すると、ハルトがもじもじしながら待っていた。
「悪い、漏れそうだったか?」
「ち、違げえよ……さっきの、誕生日の話」
「ああ、何か欲しいもん決まったのか?」
「……うん」
そう言うとハルトは背伸びをして俺の耳元に手を当てた。
なんだ、他人には言えないようなもんが欲しいのか?
まあ、ハルトも年頃だしな。
俺が代わりに買えるもんなら全然……
「……先生と、2人きりで遊びに行きたい」
「えっ……?」
「……ハジメには内緒だからね。言っちゃダメだよ」
「あっ、ちょっとハルト……行っちまった」
ハジメに内緒で、俺と2人きりで遊びに行きたいって……
そんなんでご褒美になるのか?
「別に、アイツら仲が悪いとかじゃなさそうだしなあ」
俺とハルトが、2人きりでデート……って、いやいや。
男同士で遊びに行くだけでデートとかじゃないだろ、何考えてんだ俺は。
「もしかしたら、ちょっと他人に言いにくい趣味とかあるのかもな」
家族や学校の友達にも知られたくないから、内緒で俺に連れて行ってもらって思う存分楽しみたい、みたいな。
うん、きっとそうだろう。
「なんだろう、ピューロランドとか、スイーツバイキングとか……いや、そんなの俺みたいな巨漢と一緒に行ったら余計に恥ずかしいか」
くそ、気になるな……まあでも、ハジメがいるところで話題に出すわけにもいかないし。
「とりあえず、具体的な目的地を聞くまで待ちか」
そもそも、中間試験の成績次第だしな。
これで普通に赤点取ったらスマホも無しで俺からのご褒美もなしか……
「さすがにそれは可哀想すぎるな」
まあ、もしダメでもちょっとした物は買ってやろう。




