20話 俺が絶対に、守ってやるから
「それじゃあ北条、申し訳ないけどしばらく留守にするよ」
「おう。旅行楽しんでこいよ、庭田」
「帰ってきたらお土産持って行くから」
ゴールデンウィーク初日。
同じアパートの住民にして高校時代からの友人である庭田夜一がしばらく家を留守にすることになった。
理由は帰省&家族旅行。
庭田の家は毎年連休になると国内に持っている別荘や海外旅行に出かけるのが習慣になっており、今年のゴールデンウィークも海外のファジーだかフィジーだか言う島国にバカンスに行くらしい。
「さてと、俺はどうすっかなー……」
庭田を送り出し、とりあえずコーヒーでも淹れてゆっくりする。
うちの実家は近いので、車で1時間も走れば着いてしまう。
日帰りでもいいからどっかで帰省してこいとは言われているが、まあ後で良いだろう。
「……お泊りセットでも買いに行くか」
ゴールデンウィークの後半に1泊2日で家庭教師をすることになったので、着替えやら歯磨き用品やらを買いそろえておくことにした。
「ついでに頭が良くなりそうなボードゲームでも物色しておこう」
高校時代に貯めたバイト代をつぎ込んで買った型落ちのSUVに乗り、近場のショッピングモールに向かう。
庭田が乗っている高級車には適わないが、俺にとっては初めて買った最高にクールな愛車だ。
……とはいえ、毎年かかる保険料は全然クールじゃないが。
「車を維持するのにも金がかかる……そう考えると、家庭教師バイトのおかげでだいぶ助かってるな」
最初は教える側も教わる側も嫌々始めた家庭教師だが、なんだかんだで既に2か月ほど続けることができている。
ハルトもハジメも始めた頃から徐々に成績を伸ばし、1、2年時の範囲はカバーして少しずつ今の授業にもついていけるようになってきた。
「自分がやっているわけじゃないけど、教え子が成長してくれるっていうのはなんだか達成感があるな」
ゴールデンウィーク中は通常の家庭教師が1回と、泊まりの勉強合宿が1回。
休みが明けたら5月末に中間試験……そこで2人が赤点を回避できるかどうかが直近の目標だ。
「まあ、赤点回避されたら俺も誕生日プレゼントを買ってやらにゃならんのだが」
ハジメはパケモンカードとか言ってたよな……さすがに1パックじゃなくて1箱だろうな。
「ハルトは――」
……ハジメには内緒で、2人で遊びに行きたい、か。
「最初の頃はハジメ以上に警戒されていると思ったんだが、随分と懐かれたもんだ」
理由は分からないが、2人で出掛けても大丈夫なくらいの好感度はあるらしい。
冤罪で脅そうとしてきた頃とは大違いだ。
「ハジメには内緒っていうのが少し気になるが……」
……その辺、変にこじれないと良いんだがな。
―― ――
「着替えOK、歯磨きセットOK、ミニボトルの化粧水OK……まあこんなもんか」
ショッピングモールの店を回って必要なものを買い集める。
普段、庭田と違って旅行とかも全然行かないから何が必要かイマイチ分からず時間がかかってしまった。
「後は……ボドゲのコーナーでも見に行くか」
「せっ、先生っ……!」
「ん……って、ハルト?」
名前を呼ばれて振り向くと、若干怯えたような表情のハルトがこちらに駆け寄ってきていた。
服装はサッカー部のユニフォーム……練習試合でもあったのだろうか。
「はぁ、はぁ……っ」
「ど、どうしたハルト、そんなに慌てて」
「お、おれっ……部活帰りでっ……さっき、みんなと別れて帰ろうとして……っ」
「大丈夫だから、ゆっくりでいいから落ち着いて話せ」
通路の端に移動し、過呼吸気味になっていたハルトの背中をさすりながら話を聞く。
「ひ、ひとりで歩いてたら、家庭教師のババアが……っ」
「家庭教師の、ババア……」
『八雲のいっこ前に来た家庭教師のババア、絶対にハルト狙いだったよな』
『……無駄に距離が近くて、ベタベタ触ってきてキモかった』
「もしかして……そのババアにストーカーされてんのか?」
「た、多分……っ」
『……っ!』
ハルトが走ってきた通路の奥の方で、俺を睨むように見ている女を発見した。
年齢は30代か40代くらいだろうか……まあ、中学生からしたらババアだろうな。
「先生……アイツ、まだいる……?」
「……ああ。でも大丈夫だハルト」
「せ、先生……?」
「俺が絶対に、守ってやるから」
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