16話 メシ、食ってけよ
「よし、今日はこの辺にしとくか」
日曜の昼過ぎ、千葉家に訪問して約2時間が経過したところで本日の家庭教師バイトは終了となった。
「……ふう」
「あーつっかれたー……」
勉強時間の相場は分からないが、俺はハルトとハジメをいっぺんに教えているので通常よりも若干長めだと思う。
中学の授業は1時限で45分とかだろうし、そもそもまともに授業を受けていなかった2人にはかなりキツいはず。
休憩を挟んでいるとはいえ、2時間も集中して勉強できるようになったのはそれだけでかなりの成長だろう。
「2人ともお疲れ。次は3日後だな」
「……先生、もう帰るの?」
「もう少しゆっくりしていけよ」
「なんだお前ら、勉強し足りないのか?」
「ちげーよ!」
「……そんなわけないじゃん。バカなの?」
何故か俺を引き留めようとする双子たち。
しかし、勉強をもう少し続けたいわけではなさそうだ。
「……今日、母ちゃんたち帰るの遅いから」
「そういえばそんなこと言ってたな」
久々に帰ってきた父親とデートに行ってるから、代わりに食事代貰って出前頼むとかなんとか。
「……だからさ、先生」
「メシ、食ってけよ」
「メシか……ピザ頼むとか言ってたよな。俺にも食わしてくれるのか?」
どうしよう、まさかの夕食に誘われてしまった。
これ、食った瞬間に『あ、食べちゃったね』『それじゃあオレたちの言う事聞いてもらうから』みたいな展開になったりしないよな……?
「……先生、身体デカいからいっぱい食べられるでしょ?」
「八雲がいればもう1、2種類ピザ追加できるからな! サイドメニューも頼もうぜ!」
「……残飯処理、よろしく」
なるほど、色々頼んでバーッと食いたいと。
何というか、中学生らしい考えだ。
「まあ、そういうことならご馳走になろうかな」
「よっしゃ!」
「……よし」
正直、俺もピザは楽しみだ。
一人暮らしだと普通に贅沢品で滅多に頼まないからな……
前に庭田と食った時はアイツの金持ちパワーに頼って1番高いヤツを食ったけど。
……なんか俺、他人に奢られてばっかだな。
「……まだ時間早いから、ゲームとかしようよ」
「それじゃあ、菓子と飲み物でも買ってくるか」
「それって八雲の奢りか?」
「まあな。ピザ奢ってもらうわけだし、これくらいは出させてくれ」
夕食の時間にはさすがに早いので、それまで2人と遊ぶことになった。
俺には年下の親戚の子供とかいないので、こういうのは結構新鮮かもしれない。
「コンビニ行ってくるけど、何か食いたいもんとかあるか?」
「……おれも一緒に行って選ぶ」
「オレも! オレも行く!」
「それじゃあ皆で行くか」
結局この後、3人でコンビニに行ってお菓子とジュースを買って帰り、夕食の時間になるまでゲームをして楽しんだ。
一緒に遊んだことで、普段は家庭教師としてしか関わってこなかった2人の新たな一面が見られた気がする。
「う、腹いっぱい……」
「ハジメお前、菓子食いすぎて肝心のピザが入らなくなってるじゃねーか」
「そ、そんなに食ってねーし……」
「……ハジメは小食だから」
「ハルトはめちゃめちゃ食うよな」
「……育ち盛りだし」
今日知ったことで意外だったのは、性格的にたくさん食べそうなハジメが小食で、ハルトが大食漢だったということ。
まあ、ハルトは強豪のサッカー部でハードな練習に日々汗を流しているわけだし、運動部の食欲としてはこれくらいは許容範囲内だろう。
「八雲~これもう入らないから食ってくれ~」
「お前それ、ほぼ耳の部分だけじゃねえか」
早々に満腹になってしまったハジメが食いかけのピザを食わせようとしてくる。
いやせめて新しい一切れにしてくれよ。
「八雲、あーん」
「……っ!」
「なにがあーんだよ……はぐっ」
「あっ」
「むぐ、むぐ……ん、なんだ?」
「いや、その……本当に食ったなーって思って……」
俺に食いかけのピザを食わせて何故か照れるハジメ。
「……先生に食わせといて、間接キス気にしてんのか?」
「ハルトおまっ……何言って……!」
「ははっ、なんだハジメ。男同士でそんなの気にすんなよ」
「は、はぁ~!? そんなんじゃねーし! 八雲のばーか!」




