15話 ……メガネ、似合う?
「おーっす」
「八雲おっせーぞ!」
「なんでだよ。時間通りだろうが」
日曜の昼過ぎ、家庭教師のために千葉家を訪れる。
遅刻とかはしていないのだが、何故かハジメに怒られてしまった。
家庭教師なんだから、少し遅れて勉強時間が短くなった方が喜びそうなものなのだが。
「あれ、メリッサさんは?」
「母ちゃんなら出かけてるぜ。父ちゃんとデートだってよ」
「お父さん帰ってきてるのか?」
「ああ」
ハルトとハジメの父親は貿易関係の仕事をしており、滅多に家に帰ってこない。
実際、2月の半ばから家庭教師をやらせてもらっている俺もまだ会ったことがなかった。
できれば1度会って挨拶をしておきたいのだが……
「ちなみに2人の帰りは遅くなりそうか?」
「夕飯食ってから帰ってくるってさ」
「そうか……」
そういうことなら会うのは無理そうだな。
まあ、メリッサさんも旦那さんと久々に会っているんだろうし、挨拶したいから帰ってきてくれなんて言えないわな。
「それじゃあ、お前とハルトはメシどうすんだ?」
「メシ代貰ったからピザ頼むぜ!」
「そりゃ良いな」
「父ちゃん帰ってきてくれてマジでラッキー!」
てっきり親父さんと遊びたがっているかと思ったら全然ピザのほうが嬉しいらしい。
まあ、中学生男子なんてそんなもんか。
「……先生」
「おうハルト。今日の夕飯ピザなんだってな……ん?」
「……な、なに?」
ハジメに出迎えられて部屋に上がると、いつもと雰囲気の違うハルトがいた。
なんだろう……雰囲気というか、もっと物理的に違うところが……
「あっ、メガネしてんのか!」
「……まあね」
どこか緊張気味なハルトの顔には、普段はかけていないアンダーリムの黒ぶちメガネが乗っていた。
「ハルト、目悪かったのか」
「……いや、別に。これ伊達だし」
「そうなのか?」
まあ、最近はファッションでメガネをかけることもあるか……
庭田なんかはコンタクトだと目がシバシバするから仕方なくメガネかけてるって言ってたが。
「ハルトのやつ、急にメガネ買ってきてさ」
「……だって、なんか頭良くなりそうじゃん」
「まあ、頭が良くなるかは分からんがインテリっぽくは見えるな」
逆に考えると、視力が悪くなってメガネをかけなきゃいけなくなるくらい勉強したから頭が良くなるのかもしれないが。
「……メガネ、似合う?」
「ん? ああ、似合ってると思うぞ」
「……先生の、友達より?」
「えっ? 俺の友達って、庭田のことか?」
そういえばハルトは昨日、フードコートで庭田といるところを見てたんだっけ。
「八雲、庭田って誰だよ」
「俺のダチだよ。高校で一緒になって、今は同じ大学に通ってる」
「ふーん」
「ちなみにアパートも同じでご近所さんだな」
「……そうなんだ」
なんだろう、俺の交友関係が気になるのだろうか。
もしかして、何か弱みを握って家庭教師を有利に進めようとしているとか……いや家庭教師を有利に進めるってなんだよ。
自分で言ってて意味わからんな。
「ハルトと庭田かー……どっちが似合ってるとかは分からんが、馴染みがあるのは初めて会った時からメガネ姿の庭田だなあ……」
「……おれのメガネは浅いってことか」
「いや別に、メガネ歴の浅さとかは知らねえけど」
「ハルトのやつ、負けてやんの」
「……は?」
「あ?」
「こら、ケンカすんな」
最近こういうパターン多いな……まあ、男の双子なんてケンカしてなんぼかもしれないが。
「オレにもメガネかけさせろよハルト!」
「……別にいいけど」
「よっしゃ!」
ハジメも興味が出てきたのか、ハルトからメガネを借りて帽子を被るように頭から装着した。
あー分かるわその動作。
俺も庭田のメガネを借りた時にそうやってかけたわ。
なんつーか、正面から耳にかけようとすると目に突き刺さりそうで怖いんだよな。
「八雲どうだ? 似合ってるか?」
「おお、ハジメも似合ってるぞ。英語の教科書とかに出てきそうだな」
「それって褒めてんのかよ?」
「……ぷっ、くくく」
「わ、笑うなよハルト!」




