12話 先生は、そのままでいいよ
「……チッ」
「くそっ……!」
「なんだ、どうしたお前ら」
春休みが終わり、4月を迎えてから最初の家庭教師の日。
千葉さんちの双子くんは非常に機嫌が悪かった。
「……これ」
「これは、数学のテスト用紙か……?」
ハルトから受け取ったプリントは、数学の問題が10問ほど記載された問題用紙だった。
ちなみに点数は2問正解の20点。
「あのハゲジジイ、授業の初日からいきなり抜き打ちテストとか言ってやらせてきやがった」
「そういうことか」
ハジメがクシャクシャに丸めたテスト用紙をこっちに投げてくる。
広げてみると、こちらも2問正解の20点。
「……せめて、半分は取りたかった」
「習ってねえ問題ばかり出しやがって、あのクソハゲジジイ……!」
「いや習ってないことはないだろ」
問題内容を見た感じ、これは中学2年の復習問題だ。
おそらく今までまともに授業を聞いていなかったであろう2人には、少し難しい……
いや、下手したら全問不正解でも不思議ではない内容だった。
「春休みに俺が教えたのは中1の範囲だしな……さすがにこの範囲まではカバーできてなかったわ」
「……別に、先生を責めてるわけじゃない」
「そうだぜ! いきなりこんなことをしてきた数学のインケンクソジジイが悪い!」
ああ、新学期早々またもやハジメの中の大人のイメージが悪化してしまったな……
「……でも、先生が教えてくれなかったら0点だったかも」
「この辺の最初の問題は、1年の応用でいけたから。八雲に教えてもらったとこ」
「そうか、それならよかった。2人ともがんばったな」
「わっ」
「ひゃぁっ」
俺は2人の頭をガシガシと撫でながら、テストの結果を褒めてあげた。
抜き打ちテストで20点しか取れなかったじゃなくて、20点も取れた。
今はそれで十分だ。
「こらっ髪がチリチリになるからやめろっ」
「おう、悪い」
「…………」
ハジメから抗議が来たので撫でるのを止めて手を離す。
ハルトの方は……何も言ってこないな。
「(なでなで)」
「…………」
「ハ、ハルト?」
「……っ!」
あ、ハジメが声かけたら頭引っ込めた。
「そういえば、お前らって髪色だけじゃなくて髪質も違うんだな」
おそらく純日本人であろう、父親の黒髪を受け継いだハルトと、オーストラリア人と日本人のハーフである母親の淡い金髪を受け継いだハジメ。
更に見比べると、ハルトはツヤのあるストレートで、ハジメは緩めのウェーブがかかった天然パーマだった。
「……ハジメ、1年の時に髪染めとパーマで生徒指導のエロゴリラに怒られてたもんな」
「あーあの変態クソゴリラな。黒染めしてストパーしろ~とか言いながらポンポン叩いてきやがって。マジでキモいわ」
「それは災難だったな……」
最近はそういうのも減ってきたと思ったが、未だに言ってくる学校があるのか。
「そういやあ、西附は髪色とか髪型とか、そういうのはあんまりうるさくなかったな」
さすがに真っ赤とか真っ青とかはいなかったが、金髪で緩めのパーマかけてるヤツは普通にいた。
まあ、そんな感じで校則がゆるいせいで庭田にたかるクソ上級生みたいなのも野放しにされていたわけだが。
「八雲は髪、染めねえの? 大学って自由なんだろ?」
「そうだなあ……そういえば染めたことないな」
「八雲、金髪似合うんじゃね」
「そうか?」
染めてみたい気持ちもあるけど、身長192cmで金髪はさすがに威圧感凄すぎる気もするな……
「……先生は、そのままでいいよ」
「あーっ! ズリいぞハルト! 八雲、金髪パーマにしようぜ!」
「……先生は黒髪ストレートでいい」
「どういう押し付け合いなんだよそれは」
うーん、金髪なあ……いきなり髪なんて染めたら庭田が『ほ、北条が不良になった!』とか言い出しそうだな。
「……先生って、肌は結構白いよね」
「ん、まあな。ずっと屋内でバレーやってたから」
「……もうちょっと、焼いた方が健康的でいいよ」
「肌はそのまんまでいいぞ八雲! 日焼けとか身体に悪いし!」
「……は?」
「あ?」
「さっきからどういう言い合いしてんだよお前ら」




