11話 とぼけやがって……
「……っつーわけでナオちゃん、しばらく家庭教師続けることになったから」
『がっはっは! そうかそうか!』
家庭教師最終日の夜。
俺は直重叔父さんに電話をして、春休み限定で始めた家庭教師バイトを延長することを報告した。
……結局、最終日じゃなくなっちまったな。まあいいか。
『まあ、俺は八雲ならそうしてくれるって最初から信じてたよ』
「くそっ……たまたまだ、たまたま。あいつらに頼まれたから仕方なくだ」
『頼まれたら断り切れないくらいには、教え子のこと気に入ったんだろ?』
「そんなんじゃねえって。他にバイトもしてないし、ちょうど良かっただけだ」
ぶっちゃけ、ハルトとハジメの家庭教師バイトはかなり割りが良い。
2人分まとめて見ているから時間的には変わらない上、メリッサさんから相場の倍以上の月謝を貰っている。
おそらく、今までの家庭教師が全然うまくいかなかったから、それだけ払ってでも2人に勉強を教えてほしいということだろう。
『今まで通り週イチか?』
「いや、さすがにそれは悪いから1日増やしたよ」
今までは週に1度、日曜の昼過ぎに行っていたのだが、4月からはそこに追加して水曜の夜にも勉強を見ることになった。
春休みも明けるし、せっかくの休日に家庭教師なんて嫌だろうと思って平日2日に日程を変えようかと提案したのだが、日曜で問題無いということでそのままになった。
「ナオちゃん。アイツらが西附を目指してることとか、境遇が少し俺に似ていることとか、知ってて黙ってやがったな?」
『さあ、なんのことやらって感じだな』
「とぼけやがって……」
『でも、すごいじゃないか八雲。メリッサちゃんに聞いたぜ。今まで誰も手に負えなかった双子の悪ガキどもを手名付けたんだろ?』
「別に手名付けたとかそんなんじゃねえし、そこまで悪ガキじゃなかったけどな」
なんというか、アイツらは大人に何度も裏切られて傷つけられた手負いの獣という感じだった。
おそらく、2人ともまだ俺には言っていない嫌な思いをした経験とかがあると思う。
「あー……でも1回、ガチで犯罪者にされかけたけどな」
『なに、そんなことがあったのか?』
「まあ、色々あって撮っていた動画は消してもらったがな」
『八雲お前、なにやったんだ……?』
「ただのマッサージだよ」
そう言って、俺はまだ何か言いたそうな直重叔父さんとの通話を切った。
「明日からは、俺も大学か……」
長い春休みが終わり、俺は大学2年に、ハルトとハジメは中学3年になる。
休み中の家庭教師バイトで教えたのは中学1年の基礎範囲だけ。
2人の学習具合には、まだ1年分の遅れがある。
「来週からは、どうやって教えていこうかな」
ピンポーン……
「ん?」
次回以降の学習計画を考えていると、玄関のチャイムが耳に届く。
「はーい……って、なんだ庭田か」
「なんだとは失礼だね。お土産を持ってきてあげたのに」
日曜の夕方に俺の部屋を訪れたのは、同じアパートの住民にして友人の庭田夜一だった。
左手に持っているのは、駅地下にある高級スーパーの紙袋。
「ここのイタリアンプリンが美味しいんだ。一緒に食べよう」
「それじゃあ茶を入れるか……安いティーバッグのしかないが文句言うなよ?」
「少し濃い目に抽出してくれれば問題ないさ」
相変わらずのお金持ち仕草だが、まあコイツは本当にお金持ちなので何も言うまい。
「そういえば北条、今日で家庭教師は終わりなんだっけ?」
「そのつもりだったんだが、もうしばらく続けることになった」
「……そうか。そうなんだ」
「ん、どうかしたか?」
「いや、なんでもないよ」
一瞬、庭田の声のトーンが下がったように感じたが、まあ気のせいだろう。
「教え子たちと、仲良いんだ?」
「どうだろうなあ。まあ、初めて会った時よりは随分とマシになったかな」
「そうか。そうだよね……だって、北条だもんね」
「それはどういう意味なんだ。良い意味か? それとも悪い意味か?」
「さあ、どうだろうね」
若干要領の得ない庭田の話に耳を傾けつつ、俺は安い紅茶と美味すぎるプリンを堪能した。
「北条……家庭教師にかまけて、自分の単位落とさないでね」
「さすがにそこまで馬鹿じゃねえよ」
庭田にはそう返したが、まあ……そこは本当に気を付けないと。
「アイツらに、カッコ悪いとこ見せらんねえしな」




