10話 家庭教師、続けてくれよ……!
「いよいよ、今日で最後か」
直重叔父さんからほぼ強制されるような形でお願いされ、春休みの間だけという契約で始まった家庭教師バイト。
遂に本日、最後の家庭教師……来週からは俺も、ハルトやハジメたちも学校が始まる。
「いらっしゃい八雲くん! 今日は2人ともいるわよ。ささ、上がって上がって」
「お邪魔します」
出迎えてくれた2人の母親、メリッサさんの後について部屋に上がる。
「そういえば……」
「あら、何かしら?」
「いえ、その……旦那さんを見ていないなと思いまして」
聞いてからちょっとマズったか? と思ったが、メリッサさんは『ああ、うちの旦那ね』といって話を続けた。
「うちの人、貿易関係の仕事しててほとんど家に帰ってこないのよ」
「そうだったんですか……」
「もし帰ってくることがあったら八雲くんに紹介するわね!」
「あはは……」
すんませんメリッサさん。
俺、今日で家庭教師終わりなんです。
……。
…………。
「……うん、やっぱり英語は問題ないな」
「へへっ! こんなの余裕だぜ!」
「……このレベルなら、勉強の内にも入らない」
家庭教師最終日ということで、今まで手を出していなかった英語科目にも軽く触れておく。
とはいえ、元々2人は英語ができるので特に問題はなさそうだった。
この感じなら中学3年どころか高校の問題でも余裕で解けてしまうかもしれない。
「英検とか取ってないのか?」
「3級は持ってるぜ!」
「……おれはダルいから受けてない」
「そうなのか。2人なら2級くらいは普通に取れそうだけど」
検定系の資格は取っておくと意外とメリットがある。
俺が通っている大学だと、数学検定の2級以上を取得していると基礎数学という講義の単位がほぼ自動で手に入る。
「英語検定はスピーキングがなー」
「ああ、話すのが難しいのか」
「……ウチのオーストラリアのばあちゃん、英語めっちゃ訛ってるんだよ」
「ああ~、なるほどな」
たしか南半球のオーストラリアやニュージーランドで話されている英語には独特の訛りがあると聞いたことがある。
そっちで英語を覚えていると逆に分かりにくくなっちまうのかもな……
「八雲は英語できんの?」
「いや、正直5科目の中で1番苦手だな」
「……ふぅん」
「なんだよ、八雲英語できねえのかよ~」
今日で終わりだし、別にバカにされてもいいかと思って正直なところを2人に話す。
というか俺だって、元々怪我するまではバレーボールばかりで勉強してこなかった人間なので、改めて考えるとやはり家庭教師なんて向いていないのだと思う。
「じゃあオレたちが英語教えてやるよ!」
「……ありがたく思えよ」
「ははっ、それは頼りになるな」
意外にも2人は俺をバカにすることはなく、むしろ教えてくれようと厚意を見せてくれた。
ほんと、この2か月弱の間に随分と柔らかくなったものだ。
「……だからさ、先生」
「オレたちの家庭教師、続けてくれよ……!」
「えっ……?」
驚いて2人を見ると、お互いにそっぽを向いて少しいじけたような顔をしていた。
耳の先まで赤くして……きっと、勇気を出して俺にお願いしているのだとすぐに理解した。
「八雲は、他のクソ教師どもとは違うって分かったから」
「……おれの足も、気にかけてくれたし」
「お前ら……」
「大学始まって忙しいなら、月イチでもいいからさ!」
「……2人いっぺんがキツいなら、おれだけでもいいし」
「あっふざけんなハルト! オレだけでもいいぞ八雲! こいつどうせサッカー部忙しいから!」
「……は?」
「あ?」
「おい、意味わからん喧嘩すんな」
まさか、こんな最後の最後で初めて兄弟喧嘩を目の当たりにするとは……
「いやでも、春休みの間だけってナオちゃんに言っちゃったしな……それに、月謝を出してくれてるメリッサさんだって……」
「じゃあ母ちゃんに言ってくる!」
「……バイト代、増やしてやる」
「いや、そういうことじゃ……ちょっと待てお前ら!」
部屋を飛び出して行く双子を見送り、ため息をつく。
まさか、そこまで俺を評価してくれていたとは……
「……もう少し、頑張ってみるか?」
ドタドタドタ……バンッ!
「母ちゃんからオッケー貰ったぞ!」
「……来週からもよろしくな、先生」
「あー……分かったよ」
「「よっしゃ!」」
3月末、家庭教師最終日……の、予定だったんだがな。
「新学期になったら、もっと厳しくいくから覚悟しとけよ?」
「へへっ! そっちこそ覚悟しとけよ!」
「……おれたち、まだまだ悪ガキだから」
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