57話:癖になるよね。
「最後は私の独断と偏見による最有力候補を紹介します!皆さんの中にも知っている方は多いでしょう。色々と規格外な生徒たちです!1年生のリンとアーサー・クレイル!2人ともなんとまだ10歳でありながら先日はここ数年誰もクリアできずにいたS級ダンジョン30階の攻略に貢献し、レベルも既に60を超えているそうです!学園卒業要件の最低レベルが30であることからも2人の異様さが伺えます!」
実況者の声に合わせてリンとアーサーの映像が大きく映し出される。ちょうど今上級生のパーティーと戦っているようで近接職はアーサーが、魔法士などの遠距離型職業はリンがそれぞれ接敵している。
「特にリンくんは世界初の"アイドル"という職業に加え、他の人のステータスをアップさせるというスキルを持っているとか!入学時でのクラス分けテストでも規格外の頭脳と戦闘力を披露し過去最高の点数を叩きだしました!今は仮面で顔を隠していますがその美貌もずば抜けています!色々な面で将来が楽しみな生徒ですね!」
そうこう言っている間にもこの短時間であっという間に上級生を倒し終えバッジの回収を行い別の場所へ移動していた。
「おっと、彼らの向かう先に別の生徒たちが!あれは、4年生のようですね……。うわぁ〜、これは汚い!」
リンたちが歩いて行った先、そこには何人かの上級生たちがおり、その様子がズームアップされる。彼らはパーティーを組んでいるというわけではなく、数人が中央にいる少し小太りな大柄の学生に何かを手渡していた。
よくよく見るとどの学生もいくつかのバッジをその小太りの学生に手渡しており、対価にその学生が長方形の紙に何かを書いて渡しているようだった。
どうやら小太りの学生はここらでも有名な大貴族の息子でバッジを貰う代わりに個数に応じて金額を書いた小切手を渡しているようだ。
「こんな汚い真似が許されていいんでしょうか!確かに1人10個までなら受け渡し可能というルールに抵触はしていませんがこのままだとバッジを100個以上獲得し本戦をパスすることも考えられます!学園対抗戦に実力不足の者が出場すればそれだけで本校の名声は落ちてしまうでしょう!学園長代理、これについてどうお考えですか!?」
実況者の訴えに映像を見て嫌悪感を覚えたほとんどの生徒と講師がハンスを見る。
「……まあ、これもひとつの戦略といえるでしょう。彼がそれでバッジを100個以上集めたのであれば出場枠の1つは彼に渡ります。」
ハンスの答えを聞いて実況者が反論しようとする。だがそれを遮るようにハンスが言葉を続けた。
「しかしそんな未来は訪れないでしょう。近くには彼らがいるのですから。」
ハンスは映像に目を向けたまま穏やかに微笑んだ。それにつられて競技場にいる多くのものが再び映像に目を向ける。そこには小太りの学生と対面したリンたちの姿が。
映像からは音声は聞こえないが意気揚々と小切手をチラつかせながらリンたちに語りかける学生。おそらく持っているバッジを渡せばその個数に応じて金銭を支払うとでも言っているのだろう。男が喋る度アーサーの顔がみるみる侮蔑を含んだものに変わっていく。
男のマシンガントークを遮るようにアーサーが剣を向けて言葉を発すると男の顔が怒りからか羞恥からかは分からないが急激に赤くなり、唾を飛ばしながら近くにいた生徒たちに何かを叫んだ。周りにいた生徒たちはその声を聞くとニヤニヤと嫌な笑みを浮かべながらリンとアーサーを取り囲んだ。その様子を見て落ち着きを取り戻した男が得意げに小切手を振り回しながら生徒たちに命令をする。
生徒たちは次々と剣や槍、弓、魔法、暗器などで攻撃を繰り出すが実力もそこまで高くなく、即席パーティーということもあり連携も取れていないためリンたちの脅威にはなり得ない。アーサーも剣を使うまでもないと判断したのかステゴロで次々と生徒たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し、アーサーが空中に放り投げた生徒をリンが毒魔法で撃ち落とし、痺れて動けなくなっている生徒からバッジを回収していくという連携プレイであっという間に十数人の生徒を行動不能にした。
「キャー!痺れる憧れるぅー!さすがリンくんとアーサーくんですね!あっという間に十数人の上級生を倒してしまいました!残すは諸悪の根源ただ一人!私も一教員としてはどの生徒も平等に応援するべきだと頭では分かっているのです!分かっているのですが教員と言えども私も人間!ここは素直に心に従います!頑張れ、リンくん、アーサーくん!」
実況者のあまりの開き直り方にたしなめようとしていた別の教員も吹き出してしまい、競技場のあちこちからクスクスという笑い声と共に同じくリンたちを応援する声が聞こえてきた。
映像の中ではあっという間に倒されてしまった仲間たちに今度は顔を青くさせながらまだ何かを言っている男がいた。
「えーと?口の動き的に"いくら欲しい?何が望みだ?欲しいものはお父様に言ってなんでも買ってやる!そうだ、お前たちバッジを沢山持って余ってるんじゃないか?余ってる分だけでいい!言い値で買い取ろう!どうだ?"とかですかね。こんな歳からそんな汚いやり方を身につけているなんてこの生徒は今後きっちりとした教育的指導が必要そうですね!」
実況者が指をボキボキ鳴らしながら顔だけは穏やかに言葉を述べる。この先生、昔何かあったんだろうか。近くに座っていた教員や生徒が一瞬で離れていっていた。
「おお!これは痛快!アーサーくん、なんと自身の大剣で彼を思いっきりぶっ飛ばしました!」
男の申し出にニコッと笑ったアーサーは聖剣グラムを背中から抜いて大きく振りかぶり、冷や汗をダラダラと流す男に向かってフルスイングした。アーサーはダンジョンでのレベルアップにより筋力も大幅に上がっているため小太りで体格がよかろうと男1人打ち上げるのはお茶の子さいさいだった。そして素早く懐から吹き矢を取り出しさっきちゃっかり回収していた特大の針をセット。そして放物線を描いて自由落下を開始している男に向かって針を吹く。
「あっふん♡」
音声は無いはずだがなぜか競技場にいる全ての人の耳に男のそんな声が聞こえた気がした。
ドシーンと地面に落ちてきた男の尻には極太の針が刺さっており体はピクピクと痙攣していた。
そんな様子が大きくズームで映し出されたところで16時の予選終了の合図が響き渡った。




