46話:とりあえず囲っちゃおう
「よし、今日はここまでにしよう。」
あれからスライムを狩って狩って狩りまくった俺たちは今日だけで全員がそれぞれれレベルアップすることができた。あたりも暗くなり、沼地から出てきていたスライムも一掃できたところでクリスからの号令がかかり、今日の攻略を終えることにした。
(昨日は考える余裕なかったけどダンジョン内なのに昼と夜があるのすごいよな…)
「今日の野営はもう少しここから離れたところにしよう。ここだとすぐにスライムに囲まれるからな。」
「そうね。あの沼地をどうにかしない限り永遠に出てくるみたいだし。」
「なんでもいいから早く休みたいです。」
クリスたちが話しながら移動の準備を始める。俺を未だに抱えたままのアーサーもそのまま後について行こうとする。
「アーサー、待って。」
「ん?どうしたリン。」
アーサーに地面に下ろしてもらって沼地の方に向き直る。俺たちの動向に気づいた他のメンバーもなんだなんだと歩みを止めてこちらを見つめる。
(レベルアップして体力も上げたし、1曲ぐらいちゃんと踊っても問題は無いだろう。それにずっと抱えられてて逆に体がだるいし。)
両手を組んでグーッと上に伸びをし、足首なども軽く回して準備を整える。
視聴者数はハンスさんのおかげかこの短期間でうなぎ登りに増えていっている。遠方まで機材が行き渡っているようだ。ミッション達成のポップアップも頻繁に出るようになり俺のステータスアップに貢献している。
"おお?今度は何が始まるんだ?"
"リンくんが地面に降り立ったぞ!"
"今日初めての一人立ち!"
"www"
"アーサーくんが後ろでオロオロしてるw"
"倒れないか心配なのかな?"
"クリス様いつ見ても神々しい…"
"クリス様もちょっとオロオロしてない?"
"クリス様だけじゃないぞ、ゼクト様やシリネ様もだ!"
"ハク様…www"
"ディクトル様にしばかれてるwww"
"どんどん増えていくリンくんの保護者たちw"
"はぁ〜、リンくんの素顔が見たい…"
"同じく"
"ローズ様とシュベール様は完全に観戦モードだw"
"ミホーク先生、あのポップコーンどこから出したしw"
"おっ!なんか曲が流れ始めたぞ!"
"何この曲、楽しい!"
"リンくんが踊ってる〜!"
コメントを横目で見ながらユニークスキル"Earth"を使用する。目的は今もどんどんスライムを排出している沼地を閉じ込めること。
歌だけでは沼地の面積が大きすぎて流石にカバーできそうにないので前世の振り付け通りのダンスを披露する。
ゴゴゴゴゴと音を立てて沼地を覆うように土壁を出現させ、そのまま天井部分を結合させた。いわゆるドーム型だ。気持ち大きめに囲ったため、明日の朝までだったら余裕で持つはずだ。
(明日の朝起きて一掃したらどのくらいの経験値になるだろう。楽しみだ。)
少し時間はかかったものの沼地を覆うことに成功したので、次は昨日と同様自分たちの寝床作りをする。
自分たちが立っている地面を下に沈めて地下を作り、丁度いいくらいの深さになったところで天井も作る。これで今日の拠点の完成だ。
(はぁ、昨日みたいに倒れるまでは行かないけどやっぱしんどいな。1曲踊っただけでこれとか前世よりも体力ないじゃん。)
「ちょ、リン!そんな動いてまた倒れたらどうするんだよ!」
「はぁ、はぁ、大丈夫。…レベルアップして、昨日より体力も増えたし、…1曲くらいじゃ倒れないよ。」
「それにしても本当にリンには驚かされてばかりだ。なんだあの巨大な囲いは。あの規模のものをこの短時間にたった一人で作り上げてしまうなんて。」
「シュベールが興味を示すなんて珍し〜。でもまあたしかに規格外だわ〜。リンくんなしじゃここの攻略はほぼ不可能だったもんね〜。」
「ああ、リンには頭が上がらない。今日の拠点も結局用意してもらって感謝する。見張りくらいは俺たちがするからリンたちは休んでくれ。」
クリスの言葉に甘えて俺はその場に座り込む。
「これくらい構わないですよ。それよりそろそろ今日の配信切りませんか?ちょっと眠たくて…」
どうやら俺は疲れると眠くなるタチらしい。だんだん頭がぼんやりしてまぶたが重くなってきた。
「ああ、わかった。ということで今日の配信はここまでとする。明日また配信をする予定だ。ではまた。」
そう言ってクリスが簡単に挨拶をした後、コメント欄のまだ見たいという講義の声をまるっと無視し早々に配信を切っていた。
(さばさばしてるなぁー。)
「じゃあご飯できたら起こすからそれまでゆっくりおやすみ。アーサーくんがそばに居てくれるから安心して。」
お母さんのような事を言いながらミホーク先生が微笑んでいる。このパーティーでも料理の腕がずば抜けているためミホーク先生はもっぱら料理担当のような事をしている。助手はシリネと意外なことにディクトルもいる。ハクも料理が得意みたいだがいつの間にか頭に大きなたんこぶをこさえて地面に沈んでいる。またなにかよからぬ事をしたのだろうか。
ローズはさっきおまけで作った個室に入っていった。おそらくスライムの体液が着いた服を着替えるのだろう。シュベールは道具の手入れをしており、クリスとゼクトは通気口の下で見張り中だ。
全員の様子を回らぬ頭でサッと確認しているとまたも急な浮遊感に襲われ気づくと布団の上に寝かされていた。
「あーさー?」
「眠いんだろ?横にいるから寝とけ。」
(あ、ヤバい。眠過ぎて呂律が回らなくなってきてる。)
アーサーはいつの間にか敷いた布団の上に俺を寝かせたあと自分も隣で横になり俺の腹をポンポンとゆったりとしたリズムで叩く。
(俺は子どもじゃないぞ。みんな俺に過保護すぎる!)
「おないどしなのにこどもあつかいするな…」
「ふはっ!舌っ足らずになってるぞ。いいから寝ろ。」
「むぅ。」
お腹を叩いていた手で俺の仮面を外し、代わりに目元を覆われる。
アーサーのじんわりとした手の温もりと視界が暗くなったことで何とか保っていた意識が急速に遠のいていく。
意識が沈む直前にアーサーの心地よい笑い声とおやすみという優しい声が聞こえ体を完全に弛緩させた。




