新しいウェイトレスさん <癒菜>
宮滝 癒菜が新しく見つけた仕事は、オーベルジュでのスタッフであった。瞳は大きく、新たな門出に期待に胸を膨らませている。また、ショートカットの髪には、可愛らしいピンクのピンが留められていた。
一体どんなことをやらされるのかと、癒菜は緊張気味に扉を開くと。
「ようこそ、クローバーリーフへ。今日から仕事始めだけど、以前は何かやってたかな? それとも、今回が初めて?」
声をかけてきたのは、オーベルジュのオーナー、翔であった。
その気さくな声掛けに癒菜も。
「あ、一応……ファミレスで働いてましたよ?」
いつもの言葉遣いで応えてしまった。けれど翔はそんなこと気にしていないらしく、話を続けていく。
「わ、ラッキー! 今、ウェイトレス欲しかったんだよね。じゃあ、癒菜ちゃんに頼んじゃお」
「ウェイトレスですか。いいですよ♪」
にこりと微笑んで、癒菜も応える。癒菜自身も、正直、慣れた仕事の方がやりやすいと思っていたようだ。難しい仕事でなくて、ホッとしている様子。
と、翔は……。
「それにしても、癒菜ちゃんを雇ってたトコ、今頃、大変なんじゃないの? こーんな可愛い子がやめちゃったんだから。モテたでしょ?」
「いや、全然モテてないです」
手を振って、大げさに照れながら、癒菜は答える。
「そんなことないって。雰囲気からすると、学生さんとかにモテルタイプな気がした! 当たった?」
「いや、全然っ」
それでもにこにこしている様子に翔も上機嫌なようだ。
「翔さんこそ、素敵ですね」
そんな何気ない癒菜の一言に、翔はふと、何か考える素振りで。
「もしかして、俺、癒菜ちゃんのタイプだったりする?」
真面目な顔で尋ねるのを、癒菜は驚いて、頬を赤く染めていた。
「なっ……! ち、ちがっ……」
(慌てふためく癒菜ちゃんも可愛いな)
なんて思いつつも翔は。
「うわ、図星? 何だか嬉しいな……なんてね。秀才君とか爽やかスポーツマンとか好きそうな雰囲気だったんだけど、気になるのは、俺で、ファイナルアンサー?」
「なっ……バッ、バカっ!」
顔を真っ赤にさせながら、癒菜はぽかぽかと翔を叩く。
とはいっても、加減しているし、力もそれほど掛かってないらしく、痛くもない。
けれど、充分、怒っているということは伝わったようだ。
「おわっと。ごめんごめん、冗談が過ぎたか。とにかく、今日はちょっと別の用で一緒に来て欲しいんだ。いいかな?」
どうやら、翔の話によると、ちょっとしたものを運ぶ手伝いをしてもらいたいとのこと。これまた難しい仕事ではなさそうだ。それに、軽い物を運ぶようだ。
「……コホンっ。行きましょう」
気を取り直して、癒菜は翔の提案に従う形で、そう答えたのであった。