せなと翔 ~部屋食でのひととき~ <せな>
部屋食を選んだせなは、一人、部屋で時間を過ごしていた。
しばらく、暇な時間を潰していた頃。
コンコン。
ノックの音と共に現れたのは。
「お待たせ、せなちゃん」
シェフ姿の翔であった。
「まずは前菜、もってきたぜ」
せなの前に置かれたのは、美味しそうな前菜三種盛。
「お、おいしそう……」
「おいしそうじゃなくって、美味しいぜ、それ」
せなの言葉に翔は思わず、瞳を細める。
そして、せなの耳元でこう囁いた。
「感想聞かせてくれよな」
「ひゃぅッ……」
耳元の囁きに、思わず声を出してしまうせな。どうやら、耳が敏感なようだ。
「しょ、翔さぁぁん……」
うるうると困ったように翔を見上げるせなに。
「可愛いな、せなちゃんは」
翔は、小悪魔的な笑みを見せるのであった。
「もっと居たいけど……他の客を待たせてるからな。次の料理も用意しねぇとなんねぇし。次の料理、持ってくるまで、前菜の感想、頼んだぜ」
そういって、せなに投げキッスをした後、翔はせなの部屋を後にする。
残されたのは、せなと、翔の持ってきた美味しそうな前菜三種盛。改めてみると、それは洋風の前菜で、どれも美味しそうだ。
「ほえー……」
しばらく惚けていたが、前菜の存在を思い出し、せなは、その一つをフォークで口に入れる。
「……お、おいしいっ」
口の中いっぱいに広がる、美味しい幸せな味。
それを堪能し終えた後。
コンコン。
タイミングよく、またノックが響く。
やってきたのは、やはり翔。
いよいよメインかと思ったのだが、どうやら違うようだ。
「ごめん、今日は客が多くて、まだせなちゃんのメインできていないんだ。代わりに、これ、サービス」
そういって、差し出したのは、マリネ風の前菜。乗せられたサーモンが美味しそうに掛かったオイルで輝いている。
これもまた、見るからにお洒落で美味しそうだ。
「ところで、さっきの前菜、どうだった?」
食べ終えた皿と、新たな前菜の皿を置き換えて、翔は尋ねる。
どうやら、先ほどの前菜の味が気になる様子。
「そ、その……おいしかったで……」
その続きが、言えなかった。
なぜなら、翔が唇を重ねてきたから。
「それだけで充分。後でまた、ね。今度はちゃんとしたメイン、持ってくるから」
にっと笑みを浮かべ、翔はそのまま、部屋を後にする。
「は、はわわわっ!! き、キスっ! キス……しちゃった……」
もう食事のことなど、頭に入ってこない。
あるのは、翔と、キスをしたという事実だけであった。




