無邪気な爪
運命、必然、奇跡。出会いをつけると劇的なものに変わる言葉。そして、彼女とおれを表すために生まれたものたち。
「────よし」
今日も爪まで完璧。なんて言ってくれるかな〜。
「ふふっ」
彼女の反応を想像するだけで笑みがこぼれる。こんな幸せをくれるのはキミだけだよ。
待っててね、みつきちゃん。
「琉兎くーん!!」
「みつきちゃん、おはよう」
「おはよう!あっ、琉兎くん聞いて聞いてっ!昨日、中学の時の友達に会ったの!同じ大学にいるなんて知らなくてびっくりしちゃった」
「よかったね〜みつきちゃん」
「うん!」
どんなに輝く太陽も跳ね返す眩しい笑顔。
うん、今日もみつきちゃんはかわいい。
「それでね、琉兎くんにも紹介したいなって思ってるんだけど…」
「いいよ。みつきちゃんの友達ならおれも会ってみたい」
「ほんと!?よかった〜。ゆうちゃんはね、とっても優しくて」
ゆうちゃん…女の子かな。よく一緒にいる子とは違う子か。
「かっこいいんだよ!あと、笑顔がかわいいの。それから、よく頭を撫でてくれるんだー」
「……へぇ。いい友達だね」
あ、やばい。今の笑顔引きつってたかも。
まだ女の子の可能性もある。けれど、直感で聞きたくないと思ってしまった。
「琉兎くんとも友達になれると思う!」
みつきちゃんは残酷なほど無邪気だ。ただ一緒に過ごすだけでも無邪気という爪に引っ掻かれて、消えない傷跡が残る。でもいいんだ。それはいつか、愛の証に変わるから。おれはね、みつきちゃん。君の無邪気に殺されたっていいよ。
「あ!琉兎くんのネイルステキ!これ新しいのだよね?とってもキレイ…!」
「……ふふ、ありがとう。みつきちゃん」
ネイルよりみつきちゃんの方がキラキラしていてステキだけどね。
「このグラデーションどうやってるの?すごいね……」
出会った時と変わらない瞳でおれの爪先を見つめるみつきちゃんが愛おしくて、また消えない跡が刻まれていく。
夜空に輝く星も、太陽も、月も。おれの世界では全部─────みつきちゃんだよ。
「ん〜…内緒。ふふっ」
「えー。むぅ…」
「…ふふふ」
────今すぐ、めちゃくちゃ抱きしめたい。
そんな欲望を抱きながら
……友達だかなんだか知らないけど、さっさと潰しておこう。
みつきちゃんに知られてはいけない衝動に駆られる。
大丈夫。みつきちゃんに知られる時はきっと、後戻り出来ないところにいるはずだから。
「で、どんなやつか知ってる?」
「いや…情報少ないだろ。つーか俺一年だぞ。お前と同じで入ったばっかだぞ。そんな情報持ってねぇって」
「…そう。高校の時は情報屋気取りしてたから、もうあるのかと思ってた」
「そのあからさまな顔やめろよ。使えないってはっきり言われた方がマシだ。……はぁ。そうだな、俺が知ってるこの大学の有名人で当てはまりそうなのは…葉之崎だな。葉之崎優人。名前からとってるんだろ。ゆうちゃんって」
「…やっぱ男?」
「そう。そんでもって、お前と同じ噂持ちだ。まぁでも、いまの話聞く限りじゃ嘘だな。そこもお前と一緒だ」
「……おれ、ここでその理由使って断った記憶ないんだけど。なんで噂になってるわけ?」
「あー、そりゃあれだろ。同じ高校のやつは他にもいるからな。そこから流れたんじゃね?」
「ふーん」
女避けになるから悪くはないけど、みつきちゃんに恋愛対象として見られないのは困る。そもそも噂を知ってるのかどうか確認しないと。……でも、まずは潰すのが先。
「そういや葉之崎って笑わないらしい。でも、その子の前じゃ笑うんだな。てことは…」
「おれの敵」
「まあそうだろうな。つか、お前ご愁傷さまだな。昔馴染みが相手ってかなり不利だろ」
「そう?早めに潰しておけば確実にみつきちゃんをおれのにできるじゃん」
「…お前のそれがバレないことを祈っとくわ」
中学の友達だろうとなんだろうと、みつきちゃんは渡さない。だって、あの子は…おれの───────。




