ぶつかる欲望
「はぁ…はぁ…。急がなきゃ……!」
今日はゆうちゃんと琉兎くんを会わせる日!なのに、先生と話しすぎちゃった…。ふたりと約束してるのに、気づいたらあんなに質問しちゃうなんて……。ふたりにちゃんと謝らなきゃ。あ、ふたりとももう仲良くなったのかな?ふふっ、なんか嬉しい。
「お〜い!」
走りながらふたりに向かって手を振ると、ふたりが笑いながら手を振り返してくれた。
やっぱり友達になったみたい。よかったぁ……。
みつき到着、数分前───────────。
「はぁ……」
…気が重い。再会できたと思ったらどん底に落とされた気分。でも、断ったらみつきが悲しむだろうし…みつきの友達がどんな奴なのかは気にはなる。みつきのことどう思ってるのか。ただの友達ならそれでいい。
もし、違ったら──────。
「…あんたがゆうちゃん?」
「ゆうちゃん呼びはみつきだけのものだ。気安く呼ぶな」
一瞬で感じ取った。こいつは同類である、と。声のトーン、話し方、視線。そのどれもが俺に敵意があることを示していたから。多分こいつから見た俺も同じようなものだろう。
「ふーん。おれは鐘城琉兎。みつきちゃんの友達。とっても仲良しな」
「…葉之崎優人。みつきのこと中学から知ってる。三年間同じクラスだった」
「それ、マウントのつもり?たった三年一緒にいただけで?」
「そっちは知り合ったばっかりだろ。みつきのこと何も知らない」
互いに牽制しあい、譲らないという空気が漂っていく。遠巻きに眺めている周囲の人達でさえ、無意識のうちに目を逸らすほど。
「知らないほうが色々楽しめるんだよ。みつきちゃんの新しい一面をね」
「お前にそんなもの見せない。……お前、みつきから優しい奴って聞いてたけど、随分違うんだな」
「それはお前もでしょ。みつきちゃんには笑うんだって?あの噂、みつきちゃんといたいから言ってるでしょ」
「……誰にも邪魔されたくない。ただそれだけ」
「おれからしてみればお前も邪魔なんだけど。……消えてくれる?」
「それはこっちのセリフ。邪魔なのはそっちだ。みつきに近づくな」
「はぁ?なにそれ。ナイトのつもり?ウッザ。……あ〜…お前のこと、ぶっ殺しちゃおうかな〜」
そう笑顔で言い放つ琉兎。
「いいよ。俺がお前をぶっ殺すから。……みつきは渡さない」
据わった目で見下ろす優人。
「ははっ。みつきちゃんはおれを選ぶんだから、おれのだよ」
「…フッ、みつきがお前を選ぶかよ」
爪も牙も、棘も毒も互いに一切隠すことなく、剥き出しにし続ける。全ては彼女を渡さないために──────。
「その言葉ブーメランでしょ。みつきちゃんはおれといた方が幸せなんだから」
「お前が勝手にみつきの幸せ決めんな。俺の隣が一番に決まってる」
「え〜そんなわけないじゃん。たった三年間一緒にいただけでよくそんなこと言えるよね〜。……ほんと邪魔」
「お前は所詮みつきの友達。俺はみつきの親友。こっちのが上」
「ぷっ、ははっ……バカバカしい。お前だってただの友達だよ。おれはこれから恋人になるから。……邪魔すんなよ」
こいつ…/あ〜今すぐ
""殴りたい""
二人の間に漂うピリピリと張り詰めた空気は
「お〜い!」
たった一声で解かれていく。
彼女の声と姿は二人の口元を綻ばせ、"友達"の姿へと変えていく。
───────みつき/みつきちゃん。
「はぁ…はぁ……。ふたりともごめんっ…!待たせちゃったよね……」
「気にしなくていいよ。みつきちゃん」
「全然待ってない」
「わ、ゆうちゃん…撫でちゃダメだよ!汗かいてるから…」
「平気。走ってきたでしょ。お疲れ様」
「…そうそう、お疲れさま。みつきちゃん、走ってきたんだから、まずは深呼吸深呼吸」
「うん…!すーはー…すーはー…。ふぅ……」
「みつき、水」
「わ、ありがとう!ゆうちゃん」
「……うん」
「ねぇねぇ、もしかして…ふたりとももう仲良しになった?見つけた時に話してたからそうなのかなって思ったんだけど…」
「…なったよ、友達に。みつきちゃんのおかげで友達が増えて嬉しいなー」
「おぉ〜!よかったぁ……。改めて、これからよろしくね!ゆうちゃん、琉兎くん」
「…ん。よろしく」
「よろしくね。みつきちゃん」
眩い笑顔は今日も二人を狂わせる。
あの張り詰めた空気は、みつきとは無縁にしなければならない。二人の中で密かに誓いが立てられた。同時に、みつきは誰にも渡さないという欲望も強まっていく。
"さらに奥底へ──────"
"もっと─────跡をつけて"
みつきを巡る物語の幕は、彼女に知られることなく上がっていく。華やかな物語とはきっと違うだろう。けれど、出会ったあの日から抱いた気持ちを捨てるつもりはない。
この欲望は みつき/みつきちゃん専用───────。




