ボーンクラッシャー
Windows95が発売され、Win95フィーバーで世間が沸いていた頃。
俺はその中心地である秋葉原のパソコンショップの倉庫で働いていた。
毎日、何百台ものPCが入荷され、
何百台ものPCが売れていく。
朝から晩まで、
重たい段ボールを積み上げ、運び、降ろす。
そんな職場だから、
自然と力自慢ばかり集まっていた。
仕事終わり。
最後の事務処理を待つ間、
誰かが言った。
「暇だし腕相撲やろうぜ!」
その一言で、
即席の腕相撲大会が始まった。
みんな強い。
毎日重量物を運んでいるのだから当然だ。
だが、自分も負ける気はしなかった。
何人か倒し、決勝まで進んだ。
決勝相手は、
開始前から「たぶん最後はコイツだろうな~」と思っていた男だった。
俺よりデカい。
俺より太い。
見るからに俺より強い。
実際、強かった。
「レディ~~~~~~~ゴー!」
始まった瞬間に分かった。
ヤバい!マジだ!負ける!
そう思った。
だから俺も本気を出した。
「フンッ!」
力を込めた瞬間だった。
ボキッ。
乾いた音とともにストンと俺の腕が相手の腕を倒した。
あまりにも簡単に勝負がついたので、最初は何が起きたのか分からなかった。
だが相手は、顔を真っ青にして二の腕を押さえている。
周囲が騒ぎ始めた。
「折れた!」
「あの音は折れた!」
「今の絶対折れた!」
慌てて軽トラックに乗せ、近所の病院へ連れて行く。
診断結果。
上腕骨骨幹部骨折。
しかも螺旋骨折。
医者はレントゲンを見ながら言った。
「強烈な“ねじり”ですね」
いや、そんな冷静に言われても困る。
喧嘩じゃない。
武器も使っていない。
ただ腕相撲しただけだ。
なのに骨がねじ切れてしまった。
俺が悪い……のか?
でも俺は相手に謝った。
「……ゴメン」
右腕が使えなくなった彼は、
翌日、田舎から迎えに来た母親と一緒に帰って行った。
あいさつに来た彼を秋葉原駅まで送ってから会社に戻ると
上司がニヤニヤしながら近づいてきた。
「お前さ、手加減しろよ〜」
そして肩を叩きながら、
「今日からお前、“ボンクラ”な!」
周囲が爆笑する。
「ボーンクラッシャー!」
「略してボンクラ!」
また変なあだ名が増えた。
ちなみにそれ以降。
俺と腕相撲してくれる人は、誰もいなくなった。
そして俺自身も、怖くて本気の腕相撲は出来なくなった。




