1話 スマイル 透明人間
「さよなら、─…」
氷色の中
横たわっている人影
………
……
…
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目を開けたらそこは銀のステージリンクの上だった。
粉雪の様な白銀輝く魔法の雪砂が舞うステージリンクの上で、目覚めた。
希少な白銀星砂という物質が散り舞う、星の煌めきのような空間だった。
遠くから見れば、ダイヤモンドダストのように輝く「雪砂」。
この世界ではない世界から来た、異世界転生者。
………
……
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目黒 一子
<競技勇者 コロシアムアリーナ内 観客席>
勇者の名はスポーツ、戦士の名はアスリート、魔法使いの名はスコア。
その三体の氷像が鎮座しているステージリンク。
かつての魔王は、一国と同等の巨大な石を空遥か彼方から落とせる魔法の使い手だったらしい。
競技勇者、それは…競技化された勇者。
かつて世界を救った勇者の戦いが、平和なこの世界の現代では元の世界でいうフィギュアスケートのような『採点競技』として洗練されている。
美しさ、が世界を永続させるシステム。
単なる軍事訓練だと、平和な時代が続けば、予算の無駄、必要無い、批判され、やがて衰退してしまうだろう。
しかし、それを魔法で実体ある映像とオーケストラ付きの元の世界で言うフィギュアスケートみたいなスポーツの世界競技、というエンターテインメント、平和の祭典に昇華したことで、国民の支持(予算と関心)を集めつつ、国家レベルで勇者の育成と訓練を何百年も継続することに成功しているようだ。
私は今、極寒の内、その魔王討伐する勇者、防衛者、競技勇者のトップを夢み、狙っている見習い勇者達を見ている。
この日初めてステージリンクに上がった子達らしい。
年齢は小学生低学年以下だろう。
ステージリンク上、歩くのもおぼつかない子や、転んでいる子もいる。
一度転んで次から全く転ばない子もいる。
一人、二人、最初から一度も転ばずにすでに長年滑走しているような子もいる。
ああいうのを神童というのだろう。
この世界でもトップを目指している子は皆、幼少期から始めている。
そんな中、小学生高学年だろうか?
そんな歳から始める初心者の子がいた。
彼女の名は三池 叶、ミッケと呼ばれている。
ミッケのコーチは大谷 ジョン 隼人 。
大地 五郎「かー!まーた、予言の書だかゴーレムだか信用できねーもんに振り回されやがって!捜査の基本は足だろ!ったくこれだから最近の…」
神奈川 零子「オイ、また新米イビリか?」
目黒「零子さん」
大地「ふん!チビッコのお出ましか!態度だけはデカいのに、ちっさすぎてどこにいるかわからんわ!」
この二人は見守り隊の中でも有名な所謂犬猿の仲ってやつだ。
顔を合わせればすぐにこれだ。
こちらに来てからまだ日は浅いが見慣れた風景である。
そんないつもの光景があんなことになるなんて
………
……
…
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<アカサタ小学校>
魔王討伐勇者スポーツの銅像が飾られている体育館。
ミッケ「あ…」
ミッケはバレーボールの落下地点に居た。
女子児童「ミッケちゃん!任せて!」
女子児童がミッケに声をかけその落下地点に。
女子児童「ミッケちゃん!私達に任せていいからね!私、頑張るから安心してね!」
ミッケ「あ…ありがとう…」
ミッケは伏し目がちにお礼を言った。
男子児童「ドッヂボールやろーぜー!」
スピードがあるボールをミッケは目を輝かせて床を滑るように滑らかに紙一重で避け続けている。
ミッケは足元に来た速球を軽く飛び避け、音を立てずに猫のように無音で着地した。
ジョン(バレーボール、鬼ごっこ、ドッヂボール見たが…。
この子…どの子よりも逃げるのだけは上手い…!
一番最後まで生存している!それにギリギリ避けようとしている?)
男子児童「まーた最後の一人透明人間かよーいっつもこいつ残るよなー!
存在感ねーやつがちょろちょろ逃げ回るからなかなか終わんねー!」
あくびをする児童。
ミッケはあくびをしている子を一瞬見た。
女子児童「あっ…」
フワッ…
男子児童「どこにパスしてんだよーー!ミッケにとられるだろ!」
ミッケは女子児童が投げ損じた緩やかなボールに当たる。
男子児童「いっつもこんな弱弱ボールに当たるよなードジー」
笑いながら男子児童が言った。
ジョン(ん?あんなのに当たった?終わらすためにわざと?
…速いスピードのは痛いからあの遅いのにわざと当たったのとか…?
この歳でダメコン?
この子、目立たないように、痛くないように透明人間を演じている?
いや、そんなことあるわけないか…まだ小さな子供だ…。
避けて逃げている時のあのキラキラ…)
ジョン「ねえ、ちょっといいかな?いつも最後まで逃げ続けれてるけどなんか秘訣あるのかな?」
ミッケ「え…?え、えっと…だ、ダメですか?」
ジョン「い、いや!全然ダメじゃないよ!すごいなーって!」
ミッケ「…め、目立たない存在…透明人間みたいなだけです…。それにドッチボールは強いの当たると痛いからただ避けて逃げてるだけです…」
ジョン「!透明人間が逃げたら最強だ!」
ミッケ「えっ…?」
ジョン「だって最後まで生き残るのって、勝ちだよ!逃げるが勝ち!ってやつだ!」
(この子、猫のようなしなやかさとすばしっこさ、それに存在感が無いというか意図的に消しているような…でも、それだけではない…)
キーンコーンカーンコーン
ミッケ「あ…次の授業あるので、し、失礼します」
目線は常に下向きで一礼した後、誰よりも一蹴りが速く駆け抜けて行った。
ジョンはその上下動無い滑らかな走りを見つめている。
その後ろ姿に髪の長い人物が重なる。
………
……
…
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<面談室>
ジョンは手に持っている資料に目を通す。
資料には、少年少女連続誘拐事件について─
コンコン
ノックの音
ジョン「どうぞ」
ミッケ母「初めまして。ミッケの母です。ミッケに勇者は無理だと言ってやってください。ミッケはもう11歳で勇者を目指すには遅すぎですし…それに才能…」
ジョン「確かに…確かに、勇者は誰でも簡単になれる訳でもありません…」
ジョンは俯く。
ジョン「その道の家系、血脈があっても、才能あふれる子が3歳などの幼少期から血の滲む努力をし勇者を目指しても、志半ばで折れてしまう人、挫折する人がほとんどです…この競技には、場所と、設備が必須…それにお金も…」
涙ぐむ母親。
ジョン母「…はい…あの子の姉も5歳から目指し努力しておりました…ですが…あんなことに…あんなに頑張っていたのに…」
涙の雫が落ちた。
………
……
…
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「いいよ。ジェーンやる」
その一言が伝説の始まりだった。
………
……
…
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<見守り隊 特命係別室>
薄暗い一室。
椅子に浅く腰をかけた人物がボーっと手に持っている水晶板を眺めている。
水晶板の画面
フラッシュの嵐。
無表情でダブルピースをし続けている少女。
少女は表情変えずにダブルピースし続けている。
テロップに、競技勇者優勝 星川 ジェーン ジェンドゥ 11歳 雛山HSC所属と表示されている。
そのジェンドゥの横には、ダブルピースしジェンドゥよりも明らかに嬉しさ爆発させている男性。
テロップには、史上初のクインティプル 成功勇者 雛山HSCヘッドコーチ 佐藤 デビッドと表示されている。
司会「今回も優勝おめでとうございます。これで三年連続優勝ですね。今回もクァッドが完璧に決まっていましたが何か秘訣はあるのでしょうか?」
ジェンドゥ「ないよ。ただ練習した事をやっただけ。こうなるようにするのがデビッドの仕事だからデビッドを褒めてあげて」
デビッド「おおー!ジェンドゥ!ありがとう!なんて良い子だ!
皆さんこれが奇跡の天才の子です!
これだけの実力がありながらなんて謙虚で健気なのでしょう!
それについ最近教えたこのダブルピースもッ完璧に使いこなすなんて!ああ!なんて可愛いのでしょう♡」
ジェンドゥ
「デビッド、落ち着いて。デビッドの心拍数上がってしまうから落ち着いて」
司会「それでは最後に一言お願いします」
ジェンドゥ「何者でもない自分を拾い、居場所を創り、ここまで育ててくれたデビッド、ありがとう。
ジェンドゥの世界に碧色という色をつけてくれてありがとう。クインティプルやるよ。デビッドが求めるなら」
フラッシュの嵐。
ジェンドゥの蒼瞳は宙を見続けている。
司会
「いつか来るかもしれない魔王再来への備えとして、世界各国の選抜勇者が競い合い闘い合うのが、競技勇者です。
平和の祭典、世界対抗競技勇者はすでに始まっています。
今大会で優勝した魔王討伐勇者スポーツに最も近いとされている星川 ジェーン ジェンドゥ選手が最有力候補にあがっています」
ジェンドゥ「デビッド、早く帰って練習したい。帰りの車の中で今日の出来観ようよ。どこが良くて、どこがダメか早く知りたい。ジェーン早く向こう側の世界、知りたい。知ったら今度はジェーンがデビッドにどんな世界か教えるよ。その為には何にでも立ち向かうよ」
………
……
…
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<薄暗いミッケの部屋>
ミッケの瞳には水晶板の画面に映し出されている光景。
モンスターの攻撃を華麗なステップで避け、
一蹴りで加速、
グーッと長く光の尾を引くような驚異的な滑走、
滑らかで無駄な力が抜け速度に乗ると、
重力に反した跳躍力での四回転、風を切り、一直線に敵の元へ、剣で舞う。
瞳を爛々と輝かせながら、オーケストラの音色と完璧にリンクし芸術的な動きでモンスターを倒し続けるジェンドゥの姿。
魔法の雪砂により実体がある具現化したモンスターは、討伐された瞬間に光の粒となって霧散した。
ティンパニーの最後の打音と最後の一体、双龍を倒すタイミングが完全一致し静寂の中、光の粒は霧散し舞う。
ミッケは、その光景を瞬きせずに食い入るように輝く瞳に焼き付けている。
手元には三池 叶 ミッケと書かれ、ジェンドゥのキラキラシールが貼られているボロボロの手帳と赤いペンをギュッと握りしめている。
暗闇の中、目いっぱい口角が上がっている口元。
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ピシッ…
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続く
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