13話 恩と従、親友と新友
大体8時間ってところか。
ずーっと待った。
彼女が起きるまで。
「んっんー……」
シアが背伸びをしている。もう眠いのだろう。
「ねぇシュウ……もう帰ろうよぉ〜」
「え? なんで?」
「だってぇ……ボク達ここにいる意味ないんじゃ……ふぁ〜」
何言ってんだ……!
お前……やらないといけないことあるだろ!
「いやいや、僕が担当した患者様ですよ? 最後まで見届けるのが筋ってもんじゃろがい」
「あ……はい」
なんかヤクザみたいな口調になっちゃったな。
…………
嘘である。
この男、シューツとやらの目的は違かった。
とてつもなくショーもないことである。
「……だって素顔くらい見たいじゃん」
そう!
布下に秘められた素顔を拝見したいだけッ、なのだ。
「シュウ……なんか言ったぁ……?」
「な、なんでもないよー。ほら、寝たかったら寝ていいんだからネー」
「……じゃぁそうするよぉ」
「え!?」
(バタンッ)
俺は今、猛烈に感動している……!
俺が望む世界が今、目の前にあるッッ!
いいのですか。
私利私欲のためにあなたに無理を言っている張本人の、そんなヤツの膝で寝ちゃって。
そんな安心し切った寝顔晒しちゃって。
悪魔が来ちゃいますよ?
ほら、今ここにも……。
ふぅぅぅぅダメだ。オイタは。
あとで父上に向ける顔がない。
ここはナデナデで我慢しよう。
「むにゃぁ……おとうしゃぁ……むぅ」
「なっ」
あらやだ。お父さん感激しちゃう。
いかん。このままじゃキュン死してしまう。
誰か……助けて……!
「一体いつまでうつつを抜かしているのだ」
「あ、すいません」
ふぅ助かった。
本題を忘れちゃいかん。
果たしてあの治療法は合っているのだろうか。
俺は、一向に目を覚まさない患者を見つめている。
「正直、お前が残ると言った時は心底安心したものだ」
小さな岩に腰をかけてる大男ヘーゲルが口を開く。
そりゃあまぁそうだろう。
誰だって、オペ室から医者が急に消えたら不安になるもんだ。
いやそれは不安になるじゃ済まないかもしれんけど。
「だからお前には本当に感謝している。ありがとう」
「だから、頭下げなくていいですって」
「…………」
そう言っても頑なに礼をしている。
本当に獣族は義理堅いな、覚えておこう。
ーーー
観察開始から十二時間経過。
異常はなし。
変化はなし……じゃなかった!
ちょくちょく布をめくって顔を確認しては、渋い顔をしながら元の位置に戻っていたヘーゲルが、遂に驚いた顔をしたのだ!
「痣が……引いてる!」
「え!? それは本当ですか!」
「あぁ……本当だッ!」
「じゃあ見ても良いのですか!」
「駄目だ」
ダメか。
でも嬉しい情報だ。
あの薬で間違いなかった。
副症状が緩和されているのなら主症状もだんだん良くなってきているに違いない!
周辺の魔力濃度も薄まってきたしな。
良かった。
失敗に終わって首が跳ね飛ばされてる俺をずっと想像してたせいか、安心感が半端ない。
あれ……何だこれ……眠気か?
あぁ緊張してたから一気に眠くなってきたのか。
思えば久しぶりかもしれないな、眠気だなんて。
引きこもってから感じたことなんてなかった。
何とも感慨深い。俺もついに一般人の仲間入りを果たせたのだろうか……。
「眠いのなら寝て良いぞ。あとは俺に任せてくれ」
「大丈夫なのですか……あなたは」
「あぁ。獣族はあまり寝ない」
夜行性、とでも言うのだろうか。
どちらにせよ都合がいい。
「そうですか……では、少し……」
そう言って、俺は深い眠りに落ち着いた。
…………ーーーーーー…………
ウッ!
眩しい……。
もう朝か。
何だか昨晩は、悪い夢を見たような。
あ、そうだ。あの日の夢だ。
俺はパン屋に来ていた。
奴らに頼まれていたものをいくつか買う。
金は“母”のだ。
自分の金じゃ到底買えない量だったのだ。
だから昨日の深夜、盗み出したものだ。
結局いつもこうなのだ。
俺は弱いから反抗できず、そして親から金を盗むようなクズに成り下がった。
日に日に罪悪感はつもり、その度に自分を責め続け、結局はやってしまう。
生きてる価値を疑ったくらいだ。
…………
あーやめだ。
こういう話はもうしたくないんだ。
そろそろ目を開かないとな。シアが心配だ。
「……大丈夫? ご主人様ぁ」
「んー! あぁ大丈夫だ。……ご主人様?」
絶対にシアじゃない。
彼女にこんな呼び方されたことなんてない。
彼は論外だ。だとすると……。
ゆっくりと目を開ける。
「……君は……まさか!」
もふもふな獣耳。
うねうねと動く毛むくじゃらの尻尾。
丸く、大きな赤色の目。
可愛らしい少女が俺の顔を覗きこんでいた。
間違いない。
「ヘーゲルさん。この子ですか?」
「起きたのか。スゥゥゥ……そうだ」
「あ、はい」
何が言いたかったのかはわかったからとりま伏せておこう。
つまり……成功したのだ!
俺の治療法は正しかった!
マジか……俺医師になったのか。元ニートが転職して医師になるって夢あるなぁ……。
待て待て今はそんな話をしている場合じゃない。
俺の中での最優先事項がある。
「シアは!? リシアはどこですか!」
「お前……足元をよく見ろ」
良かった、まだ寝ている。
それじゃあ次の話題に移そう。
「あのー……ご主人様ってどういう……」
「その件なんだが、今日からヘスターシャをお前に仕えさせることにした」
「ちょっと! 子供の前でそういう話はよくないでしょう!」
「大丈夫だ、ヘスターシャには暗示をかけてある。お前が主人だと思わせる暗示がな」
「それはそれでいい……いやそういうもんだいじゃないーい!」
「なっ、じゃあどういう問題なのだ」
「それは……そのーあれですよ。あれ……」
「あれとは何だ」
「それはですね……」
上手く言えんが、つまりは違うということだ!
俺に仕えさせるだって? こんな美人俺には勿体無いのだ。
ただでさえリシアがいるというのに、そんな贅沢をしていいのだろうか。
「本気でそうするおつもりなのですか?」
「獣族は古来より、世話になった・助けられた・命を救われたものに対して絶対の忠誠を示すというのが決まりなのだ。だから頼む。受け取ってくれ」
「へへっ。ご主人様ぁなでなでしてぇ」
「うぉぉぉぉぉ撫で回してやるぞぉぉぉぉぉ!」
「きゃっきゃっ!」
「良いんですね本当に、僕にくれても」
「お前にやった覚えはない。ただ任せるだけだ。たまに視察しにくるから覚悟しろ」
「あ、はい」
ともかく、これで一件落着だ。
森の異変は収まり、問題の患者も完治し、さらには従者もゲットした。
猫耳メイドの誕生だ!
またもや実績が解放されたな。
ーーー ミッション〜異世界〜 ーーー
「猫耳メイドでにゃんにゃん祭り」
<達成条件>
獣族の娘を仲間に引き入れる 達成済
「よろしく、お願いします。ご主人様ぁ」
まだたどたどしい人間語だが、それも相まって可愛さを倍増させている。
ヘーゲルによると、まだ習いたてなのだそうだ。
こちらの方でも教育しておいてくれ、とのことである。
やはりこの世界の神はよくわかっている。
帰ってもう一回お祈りだな。




