12話 他がためにすること
扉を叩く。
「ごめんくださーい。シューツでーす。誰かいらっしゃいますかー?」
今後の行動は……えっと、
ここでシアを連れて、そしてお父さんの方も仲間に引き入れて……。
森にはまだいるはずだし……ああでこうで。
考えてたら、案の定お父さんが出てきた。
だが、様子が変だ。
「リシア! 帰ってきたかっ!」
「あのー、僕ですが」
「……あ、君か。あとは、キュラ殿! お久しぶりでございます」
「あ? あぁ、ミルモスさん! うちの息子がいつもお世話になっております」
へぇ、名前はミルモスっていうのか。
なんでだろ、今まで知る機会もなかった。
聞けばよかったかな。
ていうか、人に話しかけられて第一声が“あ?”かよ。
リシアの家に向かっていますって言っただろうが。
全く、血気盛んなんだから。
「いえいえこちらこそ、うちの娘がお世話になってます」
「いえいえこちらこそ」
「いえいえこちらこそ、こちらこそ」
「いえいえこちらこそ、こちらこそ、こちらこそ」
「いえいえ――」
ん? 何でどんどん「こちらこそ」が増えてんだ?
あれ? あれれー?
茶番がナッッガイ間続いた。
時間経過のあのカットインでも入りそうだ。
あー、さっさと本題に入りたいんですが……。
しかし、先に口を開いたのはミルモスだった。
「では茶番はこれくらいにしておきましょう」
知ってたならなんでやってたんだよ。
「それにしても、なんていいタイミングなんでしょう! よく来てくださいました!」
「一体何があったんですか? さっきから落ち着きがないように見えますが」
「はい、それが……」
次の一言に、俺は耳を疑った。
「リシアが――失踪したんです……!」
…………――――――…………
は? え、おい待てよ。それってどう言うことだ。
「……そ、それは一体なんの冗談なのでしょうか」
「冗談じゃないよ! 本当なんだ!」
「でも、シアもあれで結構強いはずだし、そんな簡単に誘拐されるはずが……」
「そうだとしても、昨日から居ないんだ! 信じてくれっ!」
この慌て様、おそらく嘘じゃないのだろう。
しかし、一体誰が……。
リシアに不意打ちをかけられるほどの人物……盗賊か?
別に力で勝てればいいって訳じゃない。
こっそりだったらいくらでもやれる。
しかし、なんであんな娘を……。
決して俺が嫌いってわけじゃないが、髪の毛も白色だし、盗んだ所で金にはならない。
だとすると体か?
それだけは絶対に許さん。
“彼女”は守り切らなくてはならない。少なくとも大人になるまでは。
だが、ここ付近でそんな物好きな奴はいない。俺の知る範囲では。
現在の王国は、歴代的に見ても安泰で、それは王がかなりな人格者だかららしい。
よくある無理やり系みたいな事は起きないはずだ。
「時間帯は?」
「おやすみって言った後からだから……夜だ」
「物音は……痕跡は?」
「大きい物音はなかった。痕跡……痕跡……あぁそういえばこんなのが」
家に素早く入って、すぐに出てきた。
「こんなのが」
これは……毛か。
…………
もう俺の中には、一つしか心当たりがなかった。
「父さま」
「何だ」
「僕についてきてください。心当たりがあります」
「おぉ、それは本当かい! 坊や!」
もうここしかない。この状況から見るに。
「よし、あるんだな。行くぞ」
「はい。行きましょう」
いつも悩んでばっかのブラインでも、人助けとなると決断は早いな。さすが騎士団ということか。
「あの、私は!」
「ミルモスさんはここで待っていてください。帰ってきたら、お帰りのパーティーの準備でもしてあげてくださいよ」
「つまり足手纏いって事ですね! ワカリマシター」
どうとでも解釈してくれていい。
とにかく急げ。大事が起きる前に。
そして、俺はブラインと一緒に……
シルタール魔森に向かった。
…………――――――…………
手前まで来たが、おかしなことがあった。
前まであんなに禍々しかったあの森が、綺麗さっぱり元通りになっていたのだ。
魔力が元に戻っている。
まだ違和感はあるが、魔物たちも出てきている。
「なぁ、おいシュウよ」
「なんですか父さま」
ブラインの顔に驚きって文字が浮かんでいる。
そんなにおかしいことか?
「お前……いつも言ってる森ってここか?」
「……ええまぁ、はい。言ってなかったでしょうか?」
「いや、もう驚くこともないな……ハハッ」
なんのことだろうか。まぁいいや。
そんなことよりだ。
もうあいつらは出て行ったのだろうか、いや、まだ完璧に以前と同じってわけじゃない。だとするとまだいるにはいるのだろう。
話によると、もう長い間あの子は目を覚ましていないらしい。
だとすると……そういうことか。
俺の中ですべてがつながる。
「父さま、早くいかないと手遅れになるかもしれません」
「……なら、急ぐしかないな」
森に踏み込む。
---
道中、魔物に襲われたが、ブラインがすべて撃退した。
少しは父親らしいところを見せてやりたいのだそうだ。
こちらとしても、あとの戦いのために体力を温存できるから助かる。
別に俺は、一回も彼が不甲斐ない父親だと思ったことはないのだが……彼がそうしたいのならそうすればいいのだろう。
ーーー
目的地に着いた。
そして、状況は俺の予想通りだった。
獣族の男の隣にいる白髪の子供。
手をかざして、必死の表情をしている。
リシアだ。
奴はシアに抑え込ませていたのだ。あふれ出る魔力を。
我慢ならなかった。
誘拐したのはあいつだった。
ヘーゲルだ。
「……一体……なにをしているんだ、お前」
「……何者だ!」
「俺だよ」
「……お前か……ふんっ」
「きゃっ!」
「なっ! やめろぉぉぉ!」
その途端、ヘーゲルがリシアを鷲掴みにして、首元に剣先を当てた。
飛びかかろうとしていた俺は、すぐに静止した。
人質だ。
「……何のつもりだ」
「見ての通りだ。こいつにヘスターシャの病を抑え込んでもらっていた」
あの子の名前はヘスターシャというのか。
いや、今はそこじゃない。
「そうじゃない。今の状況を聞いているんだ」
「お前が真面目にやるための一時的な措置だ」
「何が望みだ」
「ヘスターシャを治せ。でなければコイツを殺す」
「ひっ……!」
「くっ……卑怯な……」
剣先が喉仏の位置まで伸びる。
この位置じゃ取り返すのは不可能だ。
「分かりました。とりあえず剣だけでも置いてくださ」
「無理だ」
「……そうですか」
相当警戒しているみたいだ。
早急に始めよう。
日没まで近い。早くしなければ薬草が採取できなくなる。
「父さま、ユアースと呼ばれる花を」
「分かった。取ってくる」
話が早すぎて助かる。
事前に説明しておいて正解だったな。
とりあえず俺は、奴を見張っておこう。
ーーー
「はい、これ」
「……ありがとうございます」
まずは上級火魔法で炙る。
「皆さん離れていてください……
“炎旋風”」
「うわっ!」
花びらが白くなったことを確認。
次は固める。
「“巨人の手”」
塊になったことを確認。
土魔術で作ったヘラで削る。細かく、丁寧に。
「……よし。これを飲ませてください」
「お前が飲ませろ」
「いいのですかっ!」
「構わん」
「では、失礼して……」
なんかシアに白目を剥かれたような気がしたが、別にいいだろう。
人助けだもの、ねぇ?
決して女子の唇に触れるからだなんて思っていないさ。ウンウン。
おっとふざけている場合じゃない。
あらかじめ用意しておいた甘めの砂糖水……甘いヤツを水に溶かしたやつに粉を混ぜる。
それを飲ます。
口に入れ、軽く顎を持ち上げる。
そうすることによって、飲み込むことができる。真面目だ。
布は外さないようにした。二人にも悪いからな。
「……完了です」
「本当だな? それは本当なのだな!?」
「はい、ってうわ!」
ヘーゲルが後ろに回っていた。
びっくりした……。
「ど……どうしたのですか? 人質はもういいのですか?」
見ると、いつの間にかブラインがリシアを保護して離れたところにいた。
「任せておけ」って言うかのように、グッドポーズをして来た。
相変わらず行動が早い。俺も見習わなければならないな。
「お前が何かよからぬことをしそうな匂いがしたから、少しでも怪しい動きを見せた瞬間に首をはね飛ばすつもりだったのだ。真正面ではお前に勝てぬからな」
「それは……まぁ何というか……よかったです」
「何がだ」
「いやぁ別になんでも」
危ねぇ!
ちょっとでもニヤついてたら今頃俺は死んでいたって言うことか!?
よかった……まだ生きてる。
「本題に戻りましょうか」
「うむ」
「このまま数時間から一日、安静にしておくと良いと文献に書いてありました。なのでもうしばらくは……」
「治るのか治らないのかどちらかだと聞いている!」
「ひぃっ! だから治りますって! 落ち着いてください!」
「む、そうか……なら良いのだ」
これだから獣族は……とでも言いたいところだが言わん。
だってウサ耳メイド達はみんな和やかじゃん!
こんなむさ苦しい男と一緒にしちゃったら、あとで天罰が下るというものだ。
そうしたら、ヘーゲルが突然土下座をし始めた。
「え!? ちょっと待ってくださいよ。顔を上げてください」
「誇り高き獣族の名において、恩はしっかり認めねばならんのだ。ありがとう。シューツ・キュロプラスとやら」
「……どういたしまして」
「もし、あなたに何かよからぬことが起きた時、我ら戦士達は必ずや、そなたの力になろう」
「それは……心強いです」
そして俺らは、男の固い握手を結んだ




