26.帰ってくる場所
ダンジョンバトルトーナメントから四ヶ月とちょっとが経って、外は照りつける太陽が眩しい陽火の節です。まぁ、ウチのダンジョンはいつもと変わらずぽかぽか陽気の春模様なんだけど。
綺麗な花が咲き誇る中を妖精さんが飛び回っていて、たくさんの冒険者もいて、魔王がいて、ホルストがいて、ギアちゃんがいて…。
「どうしたんだ?ハル。変な顔をしているぞ」
「うむ。気になることでもあるのか?」
「どうせ何も考えちゃいないだろ」
「……あんた達なんでそんな仲良くなってんの?」
ていうか!魔王とホルストは百歩譲って良いとしてなんでギアちゃんがいるのかとか、人族がいる中に魔王がいて騒ぎにならないのかとか、初対面のホルストとギアちゃんがなぜか打ち解けてるし、もうツッコミが追いつかないのよ!
話を聞いてみたら、魔王とホルストは連絡取り合っててウチのダンジョンで待ち合わせしてたみたいで、ギアちゃんは本当にたまたま遊びに来てたみたい。強い者同士分かり合える何かがあったみたいで、ホルストとはすぐに打ち解けたんだって。
まぁ楽しそうならいいんだけどね。
マイスが淹れてくれたお茶を飲んで一息つく。
神様のところにいたのは随分長い時間だったように思ったけど、帰ってくるのは一瞬だった。
トーナメントの後の宴会がいい時間になってきた頃、神じーちゃんが締め括りの挨拶をした。
その挨拶が終わると、あたし達はダンジョンコアの前に戻っていた。
戻ってたっていうよりも、時間が経ってなかったっていう方が合ってるみたい。
いっぱい食べて飲んで遊んだ覚えは確かにあるんだけど、お腹の中には何も残ってなかったからね。
それからはまたいつも通り。ほのぼの平和で、何かしら面白いことが起きるダンジョン生活。
でも、これまでとは違った変化も起きていたの。
まずは福兎のララちゃん達にインスパイアされたのか、ホーンベアラビットが二足歩行を練習し始めたこと。
すくっと立ち上がって垂れ耳をピーンと伸ばしたのが、もうめちゃくちゃ可愛いの!
すぐに上手に歩けるようになって、器用に手を使うようにもなって。木登りまで出来るようになったのはビックリしちゃった。
そしてとびきりのビッグニュース、ダンジョンモンスター達に恋の季節が到来!
って言うのも、ウチのダンジョン内に同じ種族がいない子達、アムちゃんランちゃんレイラちゃんはトーナメントの時に自分と似た種族の子を見たことで、ちょっと意識し出したみたい。
仲良くなったダンジョンの場所はしっかり聞き出しておいたから、追々計画を立ててお婿さん探しに行くつもりよ。
そんなこんながありつつ、今一番の優先事項は神じーちゃんに叶えてもらった願いのこと!
ちょうど今日がその日だったから、男共に構っている暇などないのです!
まぁ、折角ギアちゃんが来てくれたから夕方まで先延ばしにして歓迎してあげてもいいけどね。
美味しいご飯とデザートをご馳走して、ダンジョンの案内をして、魔国にも遊びに行った。
天然のウォータースライダーにはギアちゃんも大満足で、何度も何度も滑ってた。羽根で空を飛ぶのとはまた一味違うみたい。
夜は男だけで飲み会をするみたいだから、あたしは先に本家ダンジョンに戻ってきた。
それじゃあ、まずは荷物の確認から!
ウッディが丹精込めて作った金の果実を、綿花を敷き詰めた箱に入れてお土産にして。
着替えとかは特に必要ないし、着の身着のままで。
次に消費するDPと蓄積魔力の確認!
魔力は毎日コツコツと貯めてきたから十分溜まってるし、消費DPの100万ポイントも大丈夫。
後は、お留守番を頼むみんなは慣れたもので、あたしとマイスが居なくてもウッディが司令塔になってバッチリ守ってくれる。
マスター不在でも心配いらないくらい強くなったって、ウチの子達凄くない!?
それじゃあ、準備は万端!
このダンジョンが始まった場所、ダンジョンコアの周りにはみんなが集まっている。
最初はいきなり異世界に連れてこられて困惑してた。
生きるか死ぬかの世界にいるなんて考えもしていなくて、美味しい物食べたさにウッディやマイちゃん、ハトミちゃんやカゲタロウくんを召喚した。
妖精さんがいっぱい来てくれたお陰で、あたし達は危険から遠ざけてもらえて、のびのび楽しくやってこれた。
マイルズくん達との出会いでは爆裂弾稲をお見舞いしたこともあったけど、なんだかんだ仲良くなれて人族のみんなとも楽しく過ごせた。
ホルストに負けたのはもうめちゃくちゃ悔しかったんだよね。
それまで穏やかに過ごしてたから、ちゃんとしなきゃって焦ったりもした。
そのホルストが魔王城にまで助けに来てくれたってんだから、人生何が起こるか分かんないよねぇ。
あたしが魔国に攫われた時はダンジョンやギルドのみんなにものすごく心配をかけた。
その時のみんなの様子とか、マイルズが勇者になった時のことを後から聞いたんだけど、不謹慎だけど嬉しく感じちゃったのよね。
魔国に住む人達も大変な中で暮らしていて、魔王達もカエサルくんもみんながハッピーになれる道ができて本当に良かったと思う。
これからもまだまだ面白いこといーっぱいやって楽しまなくっちゃね。
…ダリュンゴスに約束したの、忘れてないよ。
今までのことを思い出すと、なんだか嬉しくなってふにゃって笑っちゃうや。
周りを見回してみると、みんな目に涙を浮かべてる。あれ、またあたし声に出てたかな?
神じーちゃんに願いを言うときはみんな不安そうな顔をしていたけど、願いの内容を聞いた時からもうその表情は消え去っていた。
あたしも目元をぐしぐしと擦って顔を上げる。
「…よし、いってきます!お土産話期待しててね」
そう元気よく言うと、あたしとマイスの身体はダンジョンコアへと吸い込まれていった。
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ガタガタ、バサッ!
暗くて狭い場所に転送されたみたいで、何かがぶつかって落っこちた。
懐かしい洗剤の香りが鼻をくすぐる。
細く光が差し込むところをグッと押し開けると、そこは淡い色合いで統一された子ども部屋だった。
ぬいぐるみの並んだベッド、ふわふわした毛並みのカーペット、シールを貼った勉強机も記憶の中と何一つ変わらない。
西向きの窓には茜に染まった空が見える。
「ここがハル様のお部屋なのですね」
「うん、すごく懐かしく感じる」
ぶつかって落としたスクールバッグを元に戻してから、出てきたクローゼットを閉める。
部屋のスタンドミラーに映るのは、黒髪黒目の美少女と緑がかった黒髪の美女。あの日マルニューに買い物しに行った時の格好のあたしがそこにいた。
あらやだ、黒髪でも別嬪さんじゃん!
…トントントントン…ガチャ…バタン…
耳を澄ますと晩ご飯を準備する音が聞こえる。
この匂いは…あたしの大好きな筑前煮だ!
部屋の扉を開けて駆け足で階段を降りていく。
リビングの扉を開けたら胸いっぱいに懐かしい空気を吸い込んで言うの。
「ママただいまー!聞いて聞いて、あたし大冒険してきたんだよ!」
次回エピローグにて完結とさせて頂きます。




