25.さっきの敵は今の友ってね!
お待たせしました!
宴の間には抑えきれない興奮と動揺が広がっていた。
勝ち上がった者達の戦力を分析して意見を交換し合う神々や、推しが勝った負けたで大騒ぎしている神々がいて、もうざわざわを超えてガヤガヤ状態。
そんな中、角笛を持った司会の神が準決勝の前口上を始めた。
「ランキング最下位の花畑ダンジョンが一位の竜人族を破るまさかまさかの展開から、怒涛の快進撃が続いているッ!続く八位のハーピー族戦ではバレーバルーンの妨害綿毛と砲塔マイマイの爆裂弾稲による飽和攻撃が炸裂!得意の空中戦で防戦一方になったところをプリズムフライの透明な糸で一網打尽にされてしまったッ!対する準決勝のカードはこちらも予想外!有力候補であったアラクネ、ゴーゴンを下したランキング十四位。一部のマニアから絶大な人気を誇っている、スライム族イャスの溶解ダンジョンだァ!!」
試合場の配置も整い、開始を告げる角笛が鳴らされた。
「おぉっと!?スライム族が見たことのない動きをしている!どんどん集まってくっついて…合体したッ!?巨大な人型スライムが速攻を仕掛けるようだァ!」
いろんな色のスライムが混ざって何とも言えない色合いのドロドロ巨人がこっちに向かって腕を伸ばしてきたんですけど!見てるだけで不安になってくる感じでヤバくない!?
流石にランちゃんやウッディを超えるデカブツ相手のことは想定してなかった。えっ、どうしようどうしよう。
「吾輩に任せるのだ!」
「カルちゃん!?本当に大丈夫??」
「心配ない!行くのだ!メタモルフォーーーゼ!!」
自信満々でそう言い放ったカルちゃんは、マルちゃんの腕の中から飛び出して眩ゆい光を放ちながらムクムクと大きくなっていく。
光が収まると、そこにはほぼ裸の巨大ゴリマッチョカルちゃんがいた。
白いフカフカアーマーが急所と膝と腕を覆っていて、赤いキノコの傘がマントのように肩を守っている。少し大人びたカルちゃんの頭の上には大きな王冠が載っている。
転生前のダリュンゴスを彷彿させる存在感のカルちゃんは、腕を伸ばしてきたスライム巨人と取っ組み合いになった。
「スライム巨人に対するはキノコ巨人だァ!!ガッチリと手を組み合った力比べは均衡状態!しかし、スライムの本領は溶解力!掴み合った腕から相手を溶かそうと侵食していく!だが、キノコ巨人も負けてはいない!身体の表面から消化液を分泌してスライムの侵食を防いでいるゥ!ドロドロ対ヌルヌル!こんな勝負は前代未聞ですッ!!」
…実況のせいで力が抜けてきちゃうわ。
迫力はすごいのよ。もう怪獣大戦争って感じなんだけど、ドロドロ対ヌルヌルて。昔のバラエティ番組でやるようなローション相撲にしか見えなくて困っちゃう。
スライム族は全員が合体して巨人になってるから、それを倒しちゃえばあたし達の勝ちなのよね。
「ヨシ。ランちゃん、燃やしちゃって」
「ギャウッ!」
成長したランちゃんは、腐食ブレスだけじゃなくてガスに引火させることで火炎放射ができるようになったの。
スライムは炎に弱いって聞いたことあるから、無防備な足元から燃やしていったらあっという間に火だるまになった。
取っ組み合いになってるカルちゃんにも燃え移ったんだけど、スライム巨人が燃えて崩れるのを見たらすぐに変身を解いて元の大きさに戻った。
「アチ、アチチ!酷いではないか!吾輩燃えるところだったのだぞ!」
「ごめんごめん。それにしてもカルちゃん変身なんて出来るのね。すごいじゃん!」
「えっへん!凄いであろう?もっと褒めるのだ」
二、三年経ってもまだ小さいままの身体で胸を張っているカルちゃんをよしよししながら、宴の間に帰ってきた。
準決勝からは二試合同時ではなくて一試合ずつやるようになっていて、今度は残る準決勝のダークエルフ族とヴァンパイア族の試合が始まった。
派手な魔法合戦を見てほぇ〜ってしていると、横から話し掛けられた。
「其方らは我が思っていたよりもずっと強かったのだな。先程の無礼を詫びたいのだが、いいだろうか?」
「あ、お疲れー。ラギアスだったよね?ウチらは全然気にしてないよー」
「…寛大な心に感謝を。我は種族や見た目にばかり囚われていて本質が見抜けなかった。其方達であれば勝利を勝ち取ることができそうだ」
「やだなぁ照れるじゃん!そんな堅苦しくなくてもいいのよギアちゃん!」
「ギ、ギアちゃん!?我のことか?……ハッハッハッハッハ!それもそうだな、ハル」
「ラギアス様、ハル様に近すぎますので少しお下がりください」
マイスがグイグイとギアちゃんを押し戻すけど、それにもガハハと笑ってるギアちゃんはなんだかいい感じにほぐれたみたい。ダンジョンマスターも大変だよねぇ、分かる分かる。
そんな話をしてたら、いつの間にか試合が終わってた。勝者はダークエルフ族の方みたい。
「さぁ!ついに決勝戦となりました!波乱の展開が続く前代未聞のトーナメントとなり、あっという間に感じられたことでしょう。これで終わると思うと名残惜しい気も致しますが、紹介と参りましょう!」
大きな拍手と共に大きなモニターに映像が映し出された。
褐色の肌に銀糸のような髪、紫水晶のような瞳を携えた切長の目には感情が映っていないようで、そのクールな見た目に女神の歓声が響き渡る。
一方、白く瑞々しい肌に薄桃色の髪、深い森のような緑の瞳を持った美女が映し出されると、男神は目を離せなくなるようでそこかしこで溜め息が漏れる。
そして、静かに試合開始を待つ双方のチームが映し出された。
「深い森を捨て火の神へ恭順を示した黒き麗人、ダークエルフの貴公子クレアダムが率いるは精霊魔法のエキスパート集団だ!地を裂き焔が舞い踊る様には酔い痴れる美しさがある!荒ぶる精霊は天変地異さえも巻き起こすッ!」
「対するは、今回最も波乱を巻き起こした台風の目。一見美しい花々が咲き誇る長閑な森に見えるが、その実何者にも揺るがぬ雄大な自然そのものだッ!内に秘めたる実力は依然として底が見えませんッ!人族ハルの花畑ダンジョンだァ!!」
「それでは、試合開始ッ!!」
試合が始まると激しい魔法合戦が始まった。ダークエルフチームは火炎魔法や大地魔法を放ちながら精霊の召喚をしている。花畑チームは樹妖精や花賢者を筆頭にトレント達の樹魔法が緑の洪水となって迎え撃つ。
「開始早々凄まじい魔法の応酬ですッ!上空では火の精霊から放たれる熱気が大雨を押し返し、地上ではマグマと濁流がぶつかり合う!押しも押されぬ熱い展開だッ!!」
お互いに有利なフィールドを作り出しながらの魔法戦は拮抗していた。
その拮抗を破るようにマグマと濁流の下から木の根のトンネルが突き出て、竜と熊と猪に騎乗した涙騎士が突撃していった。
突如起きた白兵戦に混乱しながらも応戦するダークエルフチーム。
「今度は下からだとォ!?上からの奇襲を多用していた花畑チームだが、ここにきてまだ戦略の幅を見せつけてくるとは!魔法の攻め手が弱まったところで魔花仙女が本気を出してきたッ!!茨の化身が各個撃破を狙って行くゥ!」
均衡が崩れてしまうとあっという間に試合場が緑で覆われてしまった。
静まり返る中、勝利を告げる角笛が鳴り響く。
「ウォォォォォ!本当に優勝しちまった!」
「ふふん、悪くない決勝戦だったじゃない」
「やれやれ、あの子の “ゆるふわ力” いう奴にはかなわんなぁ」
「荒々しくも生命の躍動感じる戦いぶり…とても興奮致しましたわぁ〜」
宴の間に転送されると、凄い歓声が出迎えてくれた。
司会の神は興奮して飛び回りながら実況を続けてる。ここまで盛り上がったトーナメントは前例がないみたいで、あたしとしても楽しんでもらえたのなら良かったかな。
主神のジジイが前に出てきて拍手をし始めると、波が広がるように拍手が巻き起こり指笛も聞こえてくる。いやぁ、いい気分ですなぁ!
「ホッホッホ。今回のトーナメントは非常に盛り上がった良い試合ばかりであった。まずは皆の健闘を讃えようではないか!」
拍手はますます勢いを増して、祝福するかのようにキラキラした花びらが舞い落ちてきた。
「…うむ、それでは褒美の話をしようか。トーナメント優勝者には一つだけ願いを叶えてしんぜよう。特別にどんな願いでも良いぞ、ハルよ申してみるがいい」
「え、マジで何でもいいの!?」
……本当は、何が何でもあたしをこの異世界に勝手に連れてきたジジイの髪を毟ってやるんだ!って思ってたんだけど、何でもいいのなら…。
「おい、丸聞こえじゃぞ」
「え、嘘!?ごめんごめん」
「まぁ大目に見るがの。それで、何にするんじゃ?」
あたしの願いはもう決まってる。
周囲を見回すとマイスを始め、ダンジョンモンスターのみんなが少し不安そうな顔であたしを見ている。
ふふ、大丈夫。
「あたしの願いはね──────────どうかな!?」
「アッハッハッハッハ!お主は本当に図太いのぉ。良いじゃろう。しかしそのためには相当のDPと魔力を対価にする必要があるがよいか?」
「具体的にはどれくらい?……うんうん、それなら大丈夫そう。オッケー!」
主神のジジイ改め、神じーちゃんはお付きの人に何かを言伝るとパチンと指を鳴らした。
「さぁ、あとはダンジョンモンスター達も交えて飲んで歌って楽しもうではないか」
指パッチンと同時に宴の間はめちゃくちゃ広い大広間になって、他チームのダンジョンモンスター達も転移してきた。
そこでゴーゴンやラミアのお姉ちゃん達に可愛がられたり、対戦相手だったスライムのイャスちゃんとかハーピーのピュリアちゃんとも仲良くなったの。
ウチの子達もそれぞれ似たような種族の子と親交を深めたみたいで、ランちゃんはラギアスのとこのドラゴンさん達と、グラちゃんとベアラビットは福兎のララちゃんのとこに、猪のモアちゃんはオーク達に囲まれてその巨躯を褒め称えられてるしで、なんだかんだみんな楽しそう。
食べ物も飲み物もこの世の物とは思えないくらい美味しくって、いくら食べてもまだまだ食べられそう。
楽しくなった神々が好き勝手に歌って奏でて踊り出したんだけど、それもめちゃくちゃ綺麗で楽しかった!
天国がこんなとこなら悪くないよね〜。
果たして、ハルちゃんの願いとは何だったのでしょうか?
カルちゃんは未だにダチョウの卵サイズのままです。少し大きくなった気がするってくらいで。
一方マルちゃんはゆっくりながらも成長しているので5、6歳児くらいです。
急いで移動する時なんかはマルちゃんがカルちゃんを抱きかかえて移動します。
転生直後は二人とも本当に赤ん坊のようでしたが、成長していく中でほんのりと転生前の記憶も蘇ってきていて、巨大変身もその影響で出来るようになっています。
愛情をたくさんもらって育ったため、ちょっと古めかしい言葉遣いをするくらいに落ち着いています。
マルちゃんはカルちゃんのお世話ができることに喜びを感じているようです。




