18.あれ、一皮剥いちゃいました?
「ハル様、まだダンジョンバトルが終わったと表示が出ておりません」
「えっ」
迷宮主腕輪からモニターを呼び出して見ると、確かにまだカウンターは進んでる。
てことは、あの高火力で倒せてないってこと!?
「で、でも真っ黒焦げだし、フェスキーモもいなくなってるし!」
「誰がいないですって?」
その時ダリュンゴスの方から声がした。
焼け焦げた外皮が次々と焼け落ちる中、フェスキーモのいた辺りがもぞもぞと動いて、ボンと何かが飛び出した。
飛び出してきたのはフェスキーモの顔だ。……これって顔っていうのかな?それとも本体?
「独り言がうるさいですね。これは私の顔ですよ。本体は…そうですね、今見せて差し上げましょう」
そうフェスキーモが言うと、ダリュンゴスの焼けた外皮が一斉に落ちてきた。
外皮が剥がれ落ちた内側からはぷるんとした薄橙色が覗いた。
落ちた欠片が煤煙となって空洞に満ちた。ジークくんが風魔術でそれを払うと見えてきた全貌は…。
二回りくらい小さくなって全体的にスリムな印象になったダリュンゴスさん。
つるりと剥きたてゆで卵ちゃんのようだったお肌は、瞬く間に黒ずんでゴツゴツとした表面に。潤いが足りていないのでしょうか?お風呂上がりには保湿が欠かせないっ!
右肩の辺りからはひょろっと伸びた首のようなものの先にフェスキーモの顔がついています。キモいですね。
胸元には赤い結晶が僅かに見えています。赤の差し色がおしゃれですね。
そしてダリュンゴスはゆっくりと目を開けて、あたし達に目を合わせた。
「ふむ。このダンジョンができて以来初めての来訪者か。歓迎しようではないか」
あれ、意外と話が通じるタイプの人なのかな?
「あたし花畑ダンジョンのハルっていうの。よろしく!」
「うむ、我はこのダンジョンの主、ダリュンゴスである。よろしくな」
よろしくっていう言葉と共に降りてきたのは手じゃなくて足。あ、足ィ!?!?
ズシーーーン。
「ガッハッハッハ!我の言う歓迎とはこういうことだ!愚かにも我が領域までノコノコやってきおって!捻り潰してやるわ!」
「流石ですダリュンゴス様!気分爽快ですね!」
「…全くもって品性が感じられませんわね」
ダリュンゴスの足元からはマイスの声と共に太い茨が溢れてくる。茨はダリュンゴスの左足に絡みついてその棘を食い込ませながら這い上がる。
「ふんっ、潰されておけばよいものを。この程度痛くも痒くもないわ」
そう言うと、ダリュンゴスは足を持ち上げて簡単に茨を引き千切った。
足の下には太い岩石の柱が何本も斜めに突き出ていて、それを補強するように太い茨が絡みついていた。あたしはその下にいる。
こ、こ、こ、こっわ〜!
何なのアイツ!いきなり仕掛けてくるなんて、もうあたし怒っちゃったもんね!
「みんな!絶対にアイツ泣かしてやるわよ!」
さぁバトルの再開よ!なんて言いつつあたしは攻撃の届かない遠くまでダッシュ!
ドガーン!
あぁ、ジンくんが吹き飛ばされた!
ズシーン!
あぁ、ザグが体勢を崩した…けど浮いた岩石を足場にしてピョンピョン飛んでったわ。
いくらみんなが強いとは言え、三階建ての建物程もあるダリュンゴスとのバトルはやっぱりキツいものがあった。
腕の一振りでまとめて吹き飛ばされて、避けて近付こうにも足の踏み込みで地鳴りが起きる。
魔法はちゃんと効いているのだけど、ダリュンゴスの体力が多すぎてこっちの魔力が切れそう。
…これはちょっとまずいかもしれない。
「コウ前に出過ぎだ!ジークもう少し下がれ!」
ホルストは絶え間なく火炎魔法を放ちながら指揮を取っている。
器用にも並行して足元に杖で魔法陣を彫り上げていて、魔力を通すと炎の龍が現れてダリュンゴスに絡みついた。
炎の龍を引き離そうとしていたダリュンゴスだが、実態のない炎を掴むことができず全身に絡みついていた。
それでもじわじわとしたダメージしか与えられていない様子で、消えない炎に苛立ったダリュンゴスは地面をゴロゴロと転がり回って火を消した。
図体がデカいと転がり回るだけでも攻撃になるから厄介だよねぇ。
さて、あたしはあたしにできることをしますかね。
魔王の後ろに控えてるルシャさんにこっそり話しかける。
「(ルシャさんルシャさん、ちょっといいですか)」
『何でしょうハルさん。秘密のお話なら念話でどうぞ』
『ナイス!気が利くじゃーん!ティションとリションって今呼べるかな?』
『可能ですよ。少々お待ちを』
『あ、姿消して来て欲しいって伝えてね!』
ルシャさんがティション達へ通信してる間に、あたしはマイスにも相談を持ち掛ける。
『マイスーちょっと相談が』
『ハル様!えぇえぇ、何もおっしゃられずとも分かっておりますよ!お任せください!』
『ほ、本当に?』
マイスは急にテンションを上げて興奮状態になっちゃった。あたしが合図したらダリュンゴスの動きを止めて欲しいってちゃんと分かったのかな…?
少し不安に駆られていると、入り口の方から一陣の風があたしの周りを吹き抜けた。
『ヤァヤァ、お呼びデスかな?』
『来たわね、リションもいる?』
『……zzz…』
『いつも通りデスよ』
『…まぁそれもそっか。それじゃあ作戦を説明するわ』
カクカクシカジカのマルマルモチモチでアレがコウなってソウ!
『ふむ、分かりまシタ。いいでしょう!サァ、お仕事の時間ですよリション』
『……あと五分…zzz…』
『コレが終わったらご褒美が待ってますヨ』
『…ん、やる……』
なんかよく分からないけどリションもやる気を出したみたいで、のそのそと亜空間から這い出してティションの背中におぶさった。
空間魔法は同時に二つ以上展開できないから移動はティションにお任せなんだって。
ティションはボソボソと呪文を唱えると、あたしのいる場所にあたしの等身大幻を作り上げた。
それと同時にあたし自身には半透明の膜が覆い被さって、見えなくなった…みたい。
『これで見えなくなってるの?大丈夫??』
『バッチリですヨ。安心してください。それでは行きますヨ〜』
ティションに脇から持ち上げられて、リションが開いた亜空間に入る。
亜空間の出口はダリュンゴスの胸元。目指すは敵の懐だ!レッツゴー!
目的地の少し手前で覗き穴程度の隙間を開けて、戦況を覗き見る。
前衛は散らばって攻撃することで、狙いを分散してるみたい。何度も吹き飛ばされてるけど、その間に別の人がダメージを与えてる。
モニカさんが回復に専念してくれてるお陰で誰一人ダウンすることなくやれているけど、正直それもいつまで保つか分からない。
ランちゃんを含んだ遠距離組はホルストと魔王が息継ぐ間も無く魔法を浴びせてる。
お、ホルストと魔王が大技を出しそう。
中級精霊のスパークルちゃん三人を起点に結界が張られて、その内側を燃やし尽くす様な炎が呼び出される。
その結界ごと四方八方から暗黒の槍が突き刺さり、まるでハリネズミみたい。
ダリュンゴスの咆哮が轟くと、結界も槍も全てが粉々に砕け散る。
ダリュンゴスの身体にはいくつも穴が空いていて、大きなダメージがあったのは確かだけど、それでもまだ倒れる様子はない。
い・ま・が!チャーーーンス!!
『マイス!アイツの動きを止めて!!』
『かしこまりました!』
そう言うが早いか、マイスの身体を太い樹木が貫いていく。見る見る内に大きくなった樹木の巨人は、ダリュンゴスの四肢から胴体から全てを縛り上げていった。
「このっ!離せ木偶風情が!!」
ダリュンゴスが暴れようとする前に、あたし達がゴールテープに手を掛ける。
「はい、“アクセス”っと。これであたし達の勝ちよね?」
ダリュンゴスもフェスキーモも仲間達もが呆然と見上げる中、迷宮主腕輪からはデカデカと「勝利おめでとう!」っていうカラフルなモニターと、ファンファーレが聞こえてきた。
いぇいいぇーい。これが頭脳戦って奴ぅ?




