17.出たわね親玉!覚悟なさい!!
あたしがボソッと声に出した「キモッ」という言葉を聞き逃さなかった顔だけの人は、ギョロギョロとすごい眼力で言った人を探してる。
ちょ、ちょーっと顔が怖いから、なんとなーくこっそり近くにいた魔王の後ろに半歩移動してみる。
さ、叫び声にびっくりして頼れる大人の後ろに隠れただけですよ〜っと。ピヒューピヒュー。
「ハル様は嘘をつくのがあまりお上手ではないのですね」
「バッ!マイス!やめてよバレちゃうじゃん」
「もうバレておりますよ?」
顔だけの人の方を見てみれば、すっかりあたしにロックオンしてるみたい。あ、あれれーおっかしいなぁー。
「きぃぃさぁぁまぁぁかぁぁぁぁ!!許さん!許さんぞ!!崇高なるダリュンゴス様と私が真の意味で一体となったこの姿にそのような罵倒をするなど、八つ裂きにしても足りぬわ!永遠の責苦を味わいながら我らが養分となるがいい!」
むっかちーん。
確かにキモいって思わず言っちゃったのは悪いけどさ、そこまで言われないといけないわけ!?
「何よ!ポロッとこぼれた言葉拾ってそんなグチグチ言わなくたっていいじゃん!古のダンジョンマスターとやらが聞いて呆れる!年上の余裕ってもんはないの!?」
「半人前の新参マスター如きが一丁前に歯向かいおって!貴様のダンジョンエリアも草木の生えぬ枯れた土地にしてくれるわ!」
「ハァー!?あたしの緑豊かな美しいお花畑に手ぇ出すなんてありえないんですけど!あんたセンスないんじゃないの!」
「待て待て落ち着け」
顔だけの人と意地になって言い合いしてたんだけど、魔王が割って入ってきた。
よくよく周りを見てみたら、あたしが言い合いしてる間もキノコ兵士とみんなが戦ってくれてたみたい。こっちが話してる最中に攻撃してくるなんて最低ね!
「さて、聞き捨てならない事を宣っていたが、『草木の生えぬ枯れた土地』にしたのは貴様らでよいのだな?」
「なんだキサマは……ほう、我らが土地の上で国を営む無能の王族ではないか!バレてしまっては仕方がない。その通りだよ」
顔だけの人は何が楽しいのか愉快な顔をして語り始めた。
「土地から栄養を奪われ、人々は毎日少しずつ魔力を吸い上げられ、土地も人も疲弊し荒廃したこの国。我らの存在に気がつくことがなければそのまま細々と生かしてやろうと言うのに、わざわざ滅びへと足を早めるなど愚かと言う他あるまい。キサマらも我らが養分とな──」
「五月蝿い」
「な、なんだと!?無能の分際でこの私の話を遮るなど!」
「この土地を枯らしたのが貴様らだと分かれば十分だ。それ以上囀るな。──ダークネスサイズ──」
魔王は瞬時に魔力を練り上げて、闇夜を固めたような三日月型の斬撃を顔だけの人諸共岩石に向かって打ちつけた。斬撃が当たって土煙が上がるが、その中からゴッホゴッホと咳き込む音が聞こえる。
土煙が晴れると、そこには自分の周りにだけ障壁を張っている顔だけの人がいて、岩石の方には浅い傷がついていた。
…ていうか顔だけの人って言うのダルくなってきちゃった。
「ダリュンゴス様に傷をつけるとは!不届き者め!」
また顔を真っ赤にして騒いでる顔だけの人に話し掛けてみた。
「ねぇねぇ、あんた名前はなんて言うの?てか、ダリュンゴス?とかいうダンジョンマスターはどこにいるのよ」
名前を聞かれたことに目を真ん丸くしてびっくりした顔だけの人。それから眉毛を上げて勿体つけるように一呼吸置いてからニヤついた顔で話し始める。
「出会い頭からの無礼な振る舞いに、つい名乗るのを忘れておったな。よかろう、平伏して聞け。私は偉大なるマスターダリュンゴス様に仕えるダンジョンマネージャー、名をフェスキーモと言う。そして、ダリュンゴス様だが、ずっとキサマの目の前にいらっしゃるではないか」
顔だけの人──フェスキーモ──がそう言うと、地鳴りが響いて岩石が揺れ動き始めた。
鍾乳石やらキノコ兵士が落ちてくるのに慌てて頭上を守っていると、すぐに揺れは収まった。揺れていた方を見ると、目の前にあった岩石のようなものが数メートル浮いてるように見える。
どうなってるのか全体を見渡してみたらすぐに分かった。
浮いてるんじゃなくて、足が生えたんだ。
今まで岩だと思っていた物は胴体で、地面に埋まっていた足が立ったから持ち上がって見えたみたい。よく見たら太くて短い腕もついてるし。めっちゃ大きな岩石ノコって感じだ。
「そう、このお方こそ私が身を捧げた偉大なるダンジョンマスター、エンペラーアレロコイドマッシュのダリュンゴス様である!」
フェスキーモがそう言うと、立ち上がったダリュンゴスの目が開いた。
ゆっくりと目を開いて焦点の合わないまま視線を動かすと、そのまま瞼を下ろした。
「ダリュンゴス様!ダリュンゴス様!!起きてください!敵です!」
「…なんか絶好のチャンスって感じ?」
「…みたいだな。一気に攻めるか!」
わざわざ敵さんが起きるまで待ってやる必要もないし、ダンジョンコアも見当たらないし、ひとまずやっつけちゃうことにした。
近接攻撃組とランちゃんはキノコ兵士の進軍を防いで、魔法・魔術組で大技をお見舞いしようって作戦。
ピックアップメンバーは、ダララララララララ…ジャン!
操作の上手い風魔術を使うジークくん!高火力の火炎魔術を扱うホルスト!消えることのない黒い炎を呼ぶ暗黒魔法の魔王!こちらの三人でございます。
みんなそれぞれ大技の準備のためにしっかりと詠唱を始めた。
ジークくんは杖を手に持ち目を閉じて魔力を高める。風の魔力が身体の周りに巻き起こり、速度を上げていく。
ホルストは練り上げた魔力で空中に魔法陣を描く。指先に宿る紅い魔力は宙に霧散することなく力強く留まっている。魔法陣には太陽が描かれてそうだなってことしか分からなかった。
「──風の神ヴェルグリンドに希う。踊る風精輪になり集え、集いて廻れ、束ねて廻れ。渦巻く軌跡が竜とならん。竜の息吹よ荒れ狂え!渦巻く息吹──」
「──火の神アスティムンドに希う。揺れる紅炎怒りに燃えろ。地を焼き空焼き塵と化せ。怨敵の滅却にどうか力を貸し給え。神怒紅炎──」
未だに目を閉じて眠っているダリュンゴスの周りに、渦巻く風の輪が現れる。一つ二つと増えていく風の輪は次第に撚り合わさって大きな竜巻になっていく。
ホルストが描いた魔法陣がダリュンゴスの足元にも現れ、足元の景色が歪んだ。先駆けのような陽炎がどんどんと昇っていくと、魔法陣から揺らめく紅炎が噴き出してくる。そこからは一気に炎が噴き出して竜巻と溶け合い、大きな火柱となってダリュンゴスを包み込んだ。
轟々と響き渡るほどの火柱でキノコ兵士も焼き尽くされ、しばらくして戦闘音が止んだ。
その静かな中、魔王の詠唱だけが響く。
「──…開け地獄の蓋よ。ヘルフレア──」
魔王の詠唱が終わると、黒く輝く炎がホルストの魔法陣の周りに点々と現れる。魔王の掌にも現れたその小さな火の玉を燃え盛る火柱に投げ込むと、魔法陣を囲んでいた炎が点と点をつなぐように伸びて、円になった。
黒い炎の円の端から、蓋をズラすように昏く蠢く何かが見える。ドロリとした粘度のあるソレは、不思議なことに炎だと分かる。その黒い炎は円から何本も噴き出して、紅く燃え盛る火柱を締め付け始める。
誰の叫び声なのか分からない声が幾つも聞こえてくる。
火柱を締め上げていた黒い炎はどんどんとその範囲を狭めていって、いつしか混ざり合い漆黒の炎となった。
その中にある物全てを焼き尽くす勢いの黒炎は、最後まで絞り上げると炎ごと消えてしまった。
「……なんか凄いねぇ。映画みたい!ちょっと、魔王やるじゃん!」
「ハハハ、今まで余のことをなんだと思っておったのだ。余は魔王ぞ?」
「そういえばそうだったわね。ジークくんもホルストも凄かったわよ!お疲れ様!」
「ふん」
「ありがとう」
大規模な魔法を使って疲れてるだろう三人を労ってあげてたら、マイルズから声が掛かった。
「まだ気を抜くのは早いんじゃない?」
「え?」
「だってほら、まだ倒せたとも限らないんだし」
マイルズが指差す方を見ると、黒焦げになったダリュンゴスがいた。ボロボロと焼け焦げたところが剥げて落ちてくる。フェスキーモは…見当たらないわね。
「だってあんな高火力で焼かれちゃあねぇ?植物系のモンスターには厳しいっしょ」
さぁて、バトルも終わったし、早いとこ帰りたいよね!
って思ってたんだけど、マイスの一言でグイッと意識を引き戻された。
「ハル様、まだダンジョンバトルが終わったと表示が出ておりません」
敵の親玉エンペラーアレロコイドマッシュのダリュンゴスと子分のフェスキーモ登場。
ダリュンゴスのモチーフは三大珍味として有名なトリュフです。
黒トリュフは条件が揃うと地上部に草の生えないブリュレ(焼け跡)という領域を発生させるそうで、それは未解明の物質によるアレロパシー作用だそう。
アレロコイドは、アレロパシーにキノコ型モンスターのマイコニドの語感を取り入れています。
フェスキーモは想像がつくと思いますがキモい+フェイスをそれっぽくしました。
風の神ヴェルグリンドはフレースヴェルグからインスピレーションをお借りしました。ちなみに男神です。
風魔術は風の精霊や妖精と踊りをテーマにしているので、輪舞を束ねて撚り合わせて竜巻にしてみました。
ちなみに火の神アスティムンドは女神で、直情的な方なので願い奉る姿勢でなければ力を貸しません。ホルストは火魔術師の中では大分荒くれた言葉遣いで詠唱をしますが、性格や特性から割と彼女から好かれているために力が行使できます。
出てきませんが、水の神は女神で土の神は男神です。
火と水は相性が悪いですが、風と土はそんなことありません。考え出すと深堀りしたくなりますね。




