16.持久戦かーらーの一転攻勢!
溢れ出るキノコと戦闘を始めて一時間くらいが経った。
最初はただの手足付きの大きなキノコだったのが、槍持ちや防具装備などの武装したキノコ兵士が現れて、それから時間が経つ度に更に特殊なキノコが現れ始めた。
途切れることのないキノコ軍団を相手にしていると、ぴょんぴょんと跳ねるようにこちらにやってくるキノコが見えた。
見えたと思った次の瞬間には壁を蹴り天井を蹴り、こっちに飛び込んできたの。
前衛を飛び越えてあたし達のいるとこまで来そうだったんだけど、空中にいきなり現れたルシャさんが漆黒の鉤爪でソイツを掴んでぐしゃりと潰しちゃった。
よく見ると、手がない代わりに逞しい足と頭の先?が尖ってて硬くなっていた。いわば突撃ノコって感じね。
次に、全身が岩石みたいに硬くなった丸い奴がキノコ兵士の中に紛れていて、ホルストの魔法が爆発した勢いでピンボールみたいに跳ねちゃって前衛のコウくんとマイルズが弾き飛ばされた。
どっしりと構えたジンくんが盾でその勢いを正面から受け止めてやっと止まったの。
硬い外皮は武器で攻撃しても中々刃が通らなかったんだけど、罅割れた部分から剣を突き立てることでやっと動きを止めた。これは岩石ノコって感じ。
他にも背中から生やした羽で空を飛ぶ飛行キノコや、えのきみたいな細い体が触手みたいに蠢く巻きつキノコなども現れた。
その度に多少の乱れは生まれたけど、大きく崩れることなく戦線を維持できてた。
中でも一番手こずったのは、キノコ兵士の足の間を素早く走り回る小型キノコだ。
奴らはキノコ兵士の足元からこっちに近寄ってきて、自爆攻撃を仕掛けてきた。魔王がその爆発で吹き飛ばされて怪我をしたけど、威力自体は低めみたいでそこまで大きな怪我にはならなかった。
敵の処理に気を遣わないといけなくなると、倒すのにも時間がかかってしまって押し込まれ始めた。
あたしも後ろから癒しの魔法で援護してるんだけど、未だに敵の沸きが止まることもないし、いつまでやればいいのよ!もー!!
戦闘が始まってからずっと遠くを見て何かしていたマイスが、あたしの方を向いて口を開いた。
「ハル様、空洞内の種蒔きが完了、攻め入る準備ができました」
「えっ!竹炭人形壊されちゃったんじゃないの!?」
「はい、ですが所詮は人形ですので、魔力回路が切られるか粉微塵にされない限り動くことができます。それでは、攻勢に移ってもよろしいですか?」
「うん、オッケー!やっちゃって!」
マイスが結構な量の魔力を練り上げて魔法を発動。
すると、足元の花が急成長して無数の蔓がキノコ目掛けて飛び出した。
ひょろひょろとした蔓一本では捕らえておくことのできないキノコ兵士でも、蔓が二本、三本と増えていくと身動きすることができなくなった。
囚われたキノコは蔓から生命力を吸われ、しなしなと萎れて地面に転がる。
「もう大丈夫です。空洞までの道は制圧致しました。すぐに新たな敵が来ますので、お急ぎを」
「だって!みんな準備はいいー!?」
「お、おう…」
「それじゃあ突撃ー!!」
静かになった通路をランちゃんを先頭にしてみんなで走り抜けていく。ダッシュダッシュ!
道に転がる萎びたキノコ兵士は蔓が両端にまとめてくれてるから、走りやすくなってるのが嬉しい。
だんだんと広くなる通路を駆け抜けていって真っ暗な空洞に出た!
マイスが持つ松明のお陰で少し先なら見えるんだけど、早速新しいキノコ兵士がわらわらとこっちに向かって来てる!
「ランちゃんブレスで薙ぎ払って!ホルスト、照明よろしく!サリーちゃんは消臭ね!」
「グルァウ!」
「はいっ!」
「ちっ、人遣いの荒い!」
ホルストは杖を地面に突き立てて、鞄から赤い結晶を三個取り出した。手の平に載せて詠唱を始めると、結晶は光を放ちながら浮き上がる。
「──燃え散る紅き焔の花弁よ、我が呼び掛けに応じ顕現せよ。スパークル!──」
赤い結晶にホルストの魔力が吸い込まれ、熱を帯び始める。火の魔力が渦巻く中、火花が迸り始め、その勢いを増していく。
結晶は完全に宙に浮いて、絶え間なく火花を散らし続け一層眩ゆい光を放った。目を開くと、そこには赤いセクシーなドレスを身に纏った小さな女の子が三人いた。ちなみにスタイルの方は精霊さんの例に漏れず控えめでした。
『こんな暗くて陰気臭いとこに呼び出して何の用よ』
「これから戦いがあるから明るくしてくれねぇか。魔力は持ってっていいから数体トーテも呼んでくれ」
『ふぅん、戦いね。面白くなりそうじゃん。見物料代わりに明るくしてあげるわ』
辺りを見回した小さな女の子達は、ウキウキした表情で明るく輝き始めた。
彼女達が明るく燃え盛り始めると、どこからともなく人魂みたいな火が現れて、空洞内を照らしていった。
「彼女達は火の中級精霊スパークルだよ。周りにいる火の玉は下級精霊のトーテ。ホルストさんは召喚魔術も使えるんだって」
「へぇ〜あの子達が火の精霊さん達ね〜。ウチのダンジョンには火の精霊さん来なかったから初めて見た!」
『あら、あなたが今精霊界で話題になってる“ハルちゃん”なのね。今まであんまり興味なかったけど…ふぅん、中々やるじゃない!今度遊びに行くわね』
ジークくんが解説してるところにヒュンと飛んできた精霊ちゃん。なんか顔をジーッと見られた後にウィンク残して飛び立ってっちゃった。あたし精霊さんの間で話題になってるの…?
おっと、戦闘の方に戻らないと!
空洞の中が明るくなって、奥の様子が段々と見えるようになってきた。天井には鋭い鍾乳石がいっぱいあって、地面は竹炭人形が蒔いてくれた花で埋め尽くされてる。所々にキノコ兵士が蔓で纏められてるのがメルヘンポイント減点ね。
ランちゃんが大きく息を吸い込んで吐き出したブレスは、触れた物を腐らせて溶かしてしまう腐食ブレス。迫り来るキノコ兵士はジュワッとドロっとして倒れていくんだけど、思った以上にえげつないのね。
あ、ちなみにちょっと臭うので、ジークくんが風魔法で竜巻を起こして分散しないように奥まで届けてくれているの。ジークくん、ファインプレーよ!
ランちゃんのブレスが薙ぎ倒していったその先で、何か硬い壁にでも当たったような音がした。
「今の一撃でダンジョンマスター倒してくれちゃってもいいんだけどなぁ〜」
「おいおい、それは甘く見過ぎだろ」
そんなことを言ってたら、火の精霊さん達が空洞の奥の方まで行き渡ったみたいで、全体の様子が見えるようになった。
「なんだこれは。岩…か?」
マイルズが思わず呟く。天井に着きそうな程に大きな岩石があたし達の前に現れた。
「よく見なよ。罅割れたところからキノコ兵士がポコポコ出てきてるだろう」
「うわっ!本当だ!」
ロビンさんが指し示した先では今もキノコ兵士が生まれてはこちらに向かってきている。
みんなが戦闘の用意をして様子を伺っていると、どこかから聞き慣れない声が聞こえる。
「新参のダンジョンマスター如きが!生意気にもバトルを仕掛けてくるなど、愚かにも程がある!ここにおわすのが千年の時を生きる古のダンジョンマスター、ダリュンゴス様と知っての狼藉か!!」
ピーピー騒ぐ声の出所を探ってみても、どこにもキノコ兵士以外の人影が見当たらない。
「(どこにいるか見える?)」
「(いえ、私にはさっぱり)」
「(声が遠すぎて何言ってっかわかんねぇな)」
「あっ、私見つけましたよ。あそこです」
ルシャさんが指差したのは、大きな岩石みたいな物の左上の方。暗くてイマイチよく見えない…。
「精霊さん、あの辺りライトアップしてもらえる?」
『いいわよ。トーテ行きなさい』
「おい、人が呼んだ精霊に勝手なことするなよ」
「あははは、ごめんごめん」
ホルストからツッコミを受けてる間にライトアップもできたみたい。
目を凝らして見てみると、岩石みたいな物から顔だけが生えてる。
「なんだ貴様ら!眩しいではないか、やめろ!散れ!!」
あっ、あいつが喋ってたの確定なのね……。ちょっと…なんて言うか…。
「…キモッ」
下級精霊のトーテにギャーギャーと騒いでいた顔だけの人がピクリと動きを止めた。
ギギギギと軋んだ人形みたいな動きでこっちを見たと思ったら、引き攣った顔で叫び出す。
「だぁれだ今『キモッ』って言ったのーーーーーー!!!!!!」
ギャー!顔真っ赤でますますキモいんですけどー!無理ー!!
ホルストが火の精霊を召喚したので、一応この世界での階級を。
火の精霊王:サラマンダー
大精霊:出自となる固有名で呼ばれる。イフリートなど
中級精霊:スパークル
下級精霊:トーテ
スパークルは英語の火花から、トーテは松明のトーチを可愛い語感に変えたものです。
マグノリア様は地の大精霊なので、めちゃくちゃ大物だってことが分かりますね。
そう言えばすっかり忘れていましたが、人狼のクゥちゃんはコボルト兵士さんと一緒に荷物の番をしています。




