15.オーバーフローマッシュルーム!
久々に魔法と魔術が登場します。
魔物チームが使う魔法はカタカナのみ、人族チームが使う魔術は漢字にルビ振りとなります。
送風装置の起動から激臭騒動に発展してしばらく、モニカさんの張った神聖結界内でどう対応しようか、あーでもないこーでもないと話し合ってたら、いつの間にかお城の方の騒ぎが止んでいた。
「ねぇ、もしかしてだけどさ、臭すぎて死ぬとか…ないよね?」
「そ!んなバカなことあるわけが…」
「ないって言い切れるの?じゃあ魔王が嗅いできてよ!」
「ぐぬぬぬ」
「あ、もう臭いは大丈夫になったようですよ」
へ?外の様子を誰が見に行くのか押し付け合いをしてたら、マイスがあっさりと教えてくれた。
あの酷かった臭いがすんなり消えるわけがないよね。風を送るの一旦ストップしたからじゃないの?
「今もダンジョンから僅かに空気が流れてきていますが、その中に含まれる臭いの成分はずっと減少しています。花の芳香成分も混じっていますので、サリーが役割を果たしたのでしょう」
ほほう!サリーちゃんやりますねぇ!
ダンジョンの中で臭い対策をしていると分かってから、今度は気持ちゆっくり目に送風することにした。
ゆるゆるとダンジョンから押し出された風には最初のような酷い臭いはなくて、消臭剤をかけた後の靴くらいにまで抑えられていた。
ゆっくりと送風を始めてから間もなく、ダンジョンから三人も戻ってきた。
斥候として臭い中頑張ってくれた四人には、あたしから特別に洗浄魔法をプレゼント!
「ちょっと動かないでね。いくよ!──バブルサイクロン!フローラルバージョン──」
サリーちゃん、マイルズ、ザグ、ロビンさんの足元に広がった魔法陣から泡がもこもこと吹き出して、頭上の魔法陣に向かって吸い込まれていく。今回はマイスに手伝ってもらって、スッキリとした爽やかな花の香りをプラス!洗い心地も抜群でございます!
全身を隈なく洗い流していった泡が消えて、ザァっと風で乾かしたらおしまい!臭いはスッキリさっぱり消えたみたい。
「ありがとうございますハル様。あの強烈な臭いが鼻の奥から離れなかったので、助かりました」
「いやぁ本当本当!助かったよハルちゃん!」
「臭すぎて気絶しそうになるなんてことが有り得るんだな…」
サリーちゃんロビンさんから感謝されたんだけど、実は送風装置を起動したのもいいタイミングだったみたい。
ダンジョンの中に入って、奥に進むとどんどん臭いがひどくなっていって、でも毒ガスではないからと耐えて進んだらしいの。
少し広くなったエリアがあって、罠も敵の気配もないからそこを拠点にしようと決めたはいいものの、臭すぎて意識が飛びそうになっていたところで新鮮な風が送られてきたから意識を保てたんだって。
「臭いがマシになったのはどうやったの?」
「それはサリーちゃんがね、花畑を召喚して辺り一帯を浄化してくれたんだ」
詳しく聞くと、ピースフルガーデンって魔法を使ったらしくて、元々は自然回復力を高めるエリアを作る魔法なんだけど、空間を浄化する効果もあるらしくて今もせっせと花達があの臭いを浄化していってるらしい。ありがとう…お花さん…!
これで、ひとまず拠点となるエリアの確保はできた。
でも、臭い対策をしないことには前に進めないことも判明した。全く、卑怯な手を使うんだから!
みんなで荷物を運び込みながらダンジョンの中へと入る。
背の高いホルストやライくんはギリギリ屈むことなく通れたけど、大柄な魔王は扉を潜るようにして中に入った。
一番の問題はランちゃんなんだけど、扉自体には角がつっかえて顔しか入らなかった。
でもそのまま顔を押し込んでみると、すんなり頭まで入った。よく見ると空間がぐにゃりと伸びていて、そのままにゅるんとランちゃんの身体まで入っちゃった。
ダンジョンの壁って伸縮性高めらしい。
そんなことをしてる間にも、サリーちゃんとマイスには先行して臭い対策をしてもらうことになった。
マイスは城の備蓄からウェットランズバンブーの炭を分けてもらって、竹炭に偽りの生命を吹き込んだ。大きくなって手足の生えた竹炭人形が花の種を蒔いて歩き、それをマイスが咲かせてサリーちゃんが魔法をかけるって役割分担。
0から生み出すよりも、何か元となる物があった方が断然魔力の消費が少ないのよ。あたしも魔法をかじってから結構経つからね、それくらいは知っているのです。
─────
道自体は入り口からずっと一本道で、奥へ向かっていくにつれて深く広くなっていく。
竹炭人形に先を歩かせ道の両端に花を咲かせて歩いていくと、広い空洞に行き着いた。暗くて先は見えないが臭いはまだまだ強くなるようだ。
一度引き返してハル様に報告することにし、竹炭人形は空洞に向かわせて種蒔き作業を続けさせる。
臭いのしなくなった通路を通って拠点に戻ると、ハル様達が準備万端で待っているのが見える。
「おかえりマイス」
「ただいま戻りましたハル様。この先に大きな空洞を発見しました。そこに至る道は浄化済みで、竹炭人形には空洞内で引き続き作業をさせていま……ッ!?」
人形の反応が消えた…だと!?
─────
道の消臭作業をしてきたマイスが報告中に固まっちゃった。おーい、どうしたのー?目の前で手をブンブン振ると、急に再起動した。
「敵襲です!こちらに向かってきます!」
マジで!?続けてマイスが言うには、空洞内に放った竹炭人形が何者かによって破壊されたんだって。
「…来るよ…すごいいっぱい…」
「総員戦闘態勢!ハルとマイスは後ろに下がれ!」
ザグがいち早く敵を察知した。敵がどのくらいの数かは具体的に分からないんだけど、付き合いの長いマイルズ曰く、すごいいっぱいってことは100体は下らないんだって。
ホルストの号令で隊列を整えて待っていると、通路の向こうが騒がしくなった。
もきゅもきゅ。どてどて。ドドドドド。
小さな広場に足を踏み入れたのは、顔のない歩くキノコ。それが次々入ってきて止まらない。
「燃えちまえ!──豪熱火球──」
握り拳くらいの小さな炎の球がキノコに当たると、一気に膨張して先頭にいた三体のキノコをまとめて消し炭にした。
キノコモンスターがやられても一切動じることなく、その後ろから続々と歩くキノコが広場に入ってくる。
「一体一体は大したことねぇ!気ぃ抜くんじゃねぇぞ!!」
「おう!」
ホルストの号令を合図に先頭が始まった。
広場の中央にはランちゃんが陣取り、入ってきた歩くキノコにダメージを与えていく。噛み千切ったり引き裂いたり、時には吸収してるからほとんどダメージはないみたい。
右翼と左翼には、散らばった敵を倒すために均等に仲間が分散していて、右翼にはホルストとマイルズとロビンさんにライくん、サポート役としてモニカさんがいる。左翼には魔王とコウくんとジンくんとザグ、それにサリーちゃんがいて、ジークくんはマイスとあたしと一緒に後ろに控えてる。
左翼はザグくんが敵の足を斬り飛ばして駆けていって、コウくんとジンくんで堅実に相手の数を減らしている。動けないキノコを乗り越えるようにして新たな敵が現れると、魔王が闇魔王で一気に倒す。地面からニョキっと蟻地獄みたいな大顎が飛び出てきたから、ちょっとびっくりしちゃった。
右翼ではマイルズが盾で相手を弾き飛ばしてから剣で斬りつけて、距離を詰められないようにしてる。ライくんが軽快な身のこなしと槍技で敵を押し込めたところにホルストが魔法を打ち込む。そうやって戦っていたんだけど、いつの間にかモニカさんとロビンさんが前に出て敵をちぎってはー投げちぎってはー投げ。
最初びっくりし過ぎて二度見しちゃったんだけど、周りは全然落ち着いてるみたい。
どういうことなのか一緒にいたジークくんに聞いてみることにした。
「ねぇ、モニカさん前出てるけどいいの?」
「あぁ、いつものことだから大丈夫だよ。僕らの中で一番近接戦闘強いのあの人だから」
「一番!?だってモニカさん僧侶だよね?」
「あの人は武闘派のモンク僧だからね。ちなみにロビンさんはモニカさんに次いで強いよ。マイルズでも二人には全然敵わないんだ」
はぇ〜流石ホルストのパーティメンバー、変わってるのね〜。
まぁ強いことには変わりがないからいいんだけど。
倒しても倒しても次々とキノコが湧いてきてキリがないんだけど、だんだん敵にも変化があった。
最初は手足のついたただのキノコだったのが、だんだん武器を持ったキノコが出てくるようになった。
槍を持ったキノコや鎧兜を着たキノコが出始めて、だんだんと手こずるようになってきた。キノコが沸くスピードが少しゆっくりになってきたから何とかなってるけど、これいつまで続くの〜!?
マイスさんは植物派生の魔人モンスターなので、臭いはへっちゃらです。
ただ、服に臭いが付くのは嫌なので、結界の外に蔓をちょろっと伸ばして空気を採取しています。
だってハルちゃんに「臭い!」なんて言われたくないですからね。
サリーちゃんが使ったのは中級樹魔術「安らぎの庭」にアレンジを加えたものです。
豪熱火球は業火球の熱を収束させて放ち、着弾点で解放し爆発させる魔法です。魔力効率が良くて使いやすい魔法です。
魔王が使ったのはシャドウスタッグ。陰から闇を集めたかのような漆黒の大顎や鋏、角などを生やす。どこかで見たことがありますか?さて、何のことやら…




