14.サクサク作戦会議!
お食事中の方は、お食事が終わってから見ることをお勧め致します。
特段激しい表現があるわけではありませんが、想像力が豊かな方はご注意を。
ダンジョンの入り口が明らかになって相手が何者なのかも分かったら、もうすぐにでも突入するってんで準備で大忙し!
ワンさんハンさんを始め、非戦闘員のコボルトさん達は食糧や水、医療品の用意で城内を走り回ってる。
あたしもマイスにされるがままで装備に着替えた。
艶のある上品な赤いワンピースドレスに枝葉のビスチェ、黒革のブーツに黒い長手袋、それに黒いレースのケープを肩に掛ける。手の甲から腕にかけては繊細な樹のアームガードが、髪は結い上げて黒薔薇のティアラをつけ、琥珀色の宝石をあしらったシルバーのイヤリングとネックレスをしたら完成!
気休め程度の白い杖を持って姿見の前に立ってみたんだけど、どこぞのお姫様?女王様?みたいな格好じゃない?
「お美しいです!ハル様!!こちらのドレスはですね、薔薇と茨の刺繍が施されていまして──」
「分かった分かった!後で詳しく聞くから、マイスも準備しなよ!」
嬉々として説明し出したマイスを遮って、他の準備を進める。あのまま話し始めたら絶対止まらないんだよねぇ。
コウ・ライ・ジンくんにサリーちゃんは慣れてるのもあって既に準備は出来てて、ランちゃんは身体一つで準備完了だし、マイスもあっという間に装備を整えた。
大広間に入ると、ダンジョンに入るメンバーの中であたし達が最後だったみたい。フル装備のみんなが勢揃いで、なぁんかカッコいいかも〜。
コボルトさん達がせっせと兵站の用意をする横で作戦会議が始まった。ダンジョンでの戦闘経験が豊富なホルストが大まかな作戦を発表する。
「まず考えなきゃいけねぇのは、毒の有無だ。ダンジョン入った瞬間に毒でおっ死んじまうのは避けてぇ。そこで毒魔法の使えるサリーに斥候を頼みたい」
サリーちゃんはいつも通りの表情で頷く。
「次に心配なのは罠だ。これについてはウチからロビンとザグが出る。この三人でも並大抵の相手ならなんとかなるだろうが、もしものことを考えて前衛にマイルズをつける。斥候はこの四人だ。ダンジョンに入る時はサリー、ロビン、ザグ、マイルズの順に入れよ」
人族チームの三人は既に作戦を聞いてたのか落ち着いてる。
「この四人でまずは入り口付近の安全と、拠点となるエリアの確保をする。それが出来次第荷物を持って入るワケだが、その前に地下ダンジョンを攻略するために大事なことが一つある」
ホルストは全員の顔を見渡してから口を開く。
「それは空気だ。俺達が活動するには空気が必要だが、地下は空気が薄いことが多い。なんならガスが充満してて息ができないこともある。そこで相談だ。地下に新鮮な空気を送り込み続けるアイディアはねぇか?」
ホルストはまず魔王の方に話を振る。
「風魔法では威力の調整が難しいな。風を送り続けるのも無理があるだろうな。とはいえ、人力でどうにかする技術は我らにはないな」
今度はマイスの方を見るホルスト。
「風を送る管であればすぐにでも作れます。あとは頑丈な布か柔軟な革はありませんか?できるだけ大きな物」
「すぐに確認させよう」
ルシャさんが滑るように倉庫へと飛んで行った。ルシャさんはものの数十秒で大きな革を何枚か持って帰ってきた。
こんな時にも心を読む力が有効活用できるのかな?
そんなことを考えてたら、ルシャさんがこっちを見てバチコンウインクしてきた。やめてよ、マイスが殺気立つじゃん!
「これで良いだろうか?」
「はい、これだけあれば大丈夫です。今から大きな な鞴を作ります。動力は魔王軍の方にお願い致します」
「任せるがよい」
マイスは柔らかい革を袋状に持って、蛇腹になるように折り目をしっかりとつける。大きくて頑丈な木の板を二枚生み出して革の上下に合わせたら、ニョキッと鉤爪みたいな棘を生やして革に食い込ませて固定。
無数の蔓を器用に使って、その工程を一人で手早く行いながら、一度に三つの鞴を作り上げた。
予備としてもう三つを作ると、鞴の先っぽに空気を送る管を取り付けて樹液で漏れがないように接着。
空気を送る管は三つの鞴からの空気を一つにまとめて勢いよく送り出す仕組みになってるらしい。管の中には吹き出す時に開く弁が付いていて、鞴の方には吸い込む時に開く弁が付いてるんだって説明してくれたけど、チンプンカンプン!
「即席で作れるのはこれくらいです。三つの鞴を同時に動かさないといけないので、息を合わせるよう注意してください」
「う、うむ」
マイスの言う「これくらい」のクオリティにみんなドン引きしてるんだけど、あたしは知ってるわ。凝り性のマイスなら、時間と材料さえあればあの有名な映画の足踏みするタイプでも作ってしまえそうだということを。
送風装置を作ってる間にコボルトさん達の用意も一段落したみたいで、早速北東の枯れ井戸に向かうことになった。
井戸に着くと魔王軍の空を飛べる魔物が魔王様に報告をする。そこにはダンジョンの入り口がちゃんとあったみたいで、魔王は一呼吸置くと井戸の中程目掛けて周りの大地を押し込んでいく。
枯れ井戸は見る影もなく、石で出来た重苦しい扉へと続くスロープが出来上がる。
「じゃあ、まずは扉を開けてみねぇとな。一気に敵さんが溢れ出てくるかもしれねぇ」
ホルストの軽くない軽口に、みんな引き締めた顔をして準備する。
扉を開けるのはマイルズの担当。光魔法で自らに聖なるオーラを纏ったマイルズは、慎重に扉へと手をかける。
約2m程で両開きの石の扉はギギギギと軋む音を響かせながら内側へと開いていく。開いた隙間からは生ぬるい風が吹き抜ける。
内部へと徐々に光が差し込むと、そこに見えたのは岩を削り出しただけのようなゴツゴツとした内壁と床。敵が待ち構えていないことに僅かな安心を覚えるけど、緊張は解かない。
生ぬるい風の中、僅かに鼻を掠める臭気。
雨の日の生乾きの靴下のような、吐き気を催す臭いがだんだんと強くなっていく。
石の扉が開ききっても敵が押し寄せることはないみたい。
あたし達は鼻を摘みながら突入準備を進める。まずは斥候の四人が入っていって、マイスが木の根を螺旋状に巻き上げて空気を送るダクトをダンジョン内部へと送り込んでいく。口が広く作られたそのダクトに向かって鞴の送風管をセット。
それから十分程待つと、中からザグが走って戻ってきた。
「毒…なし……罠…なし……空気…薄い──」
「うむ、それでは送風部隊、始めぇ!!」
各鞴に二人ずつ配置されたコボルトは、息を合わせて空気を押し込んだ。
「──あと、臭い……」
「「「えっ」」」
三つの鞴から押し出された空気は細い吹き出し口から勢い良くダクトを通っていく。その風に巻き込まれるように周りの空気も流れていき、大量の空気が送られた。
その数十秒後にダンジョン内の空気が押し出されるようにして帰ってくる。
そう。それはまるで、雨で汚れたパパの靴下を洗わずに三日熟成したような臭い。
はたまた、タオルに包まれたまま忘れ去られた部活の練習着のような。
それとも、寝込んで三日お風呂に入れなかった時に掻いた頭の臭いだろうか。
ツンとした刺激が鼻にズドドドドドと突き刺さるような、そんな強烈な臭いがあたし達のいるスロープを駆け上って城に向かって吹き出した。
「「「うぉええええええええええ」」」
くっさ!マジ無理!臭過ぎてめっちゃ目沁みるんですけど!!
即座にモニカさんが毒ガスも防げるような神聖結界を張ってくれて、その中にマイスが消臭用の炭を大量に出してくれたからすぐに何とかなったんだけど、お城の方では大惨事になってるみたい。
ちょっ、今からこのダンジョン攻略しないといけないの!?無理なんですけどーーー!!
ハルちゃんの戦闘衣装は密かにマイスとアムちゃんでデザインして拵えたものです。ビスチェとアームガードはマイスが生み出したものなので、緊急時には防御機構が働きます。
黒薔薇のティアラはお揃いにしたくてマイスが夜にせっせと作っていたもので、装飾品はハルが攫われたのを心配したマグノリア様からの贈り物です。実はシルバーではなく精霊銀で、琥珀色の宝石にはマグノリア様の祈りが込められている逸品です。
結論、超高ぇ。総額幾らのコーデよ!
ちなみに、装備の色味は進化した自分の色味に合わせて急遽マイスが変更しました。元が白ベースで作られてたので、染め直しもお手の物。おそろにしたい欲望の表れですね。
ダンジョンへの送風装置は昔の炭鉱で使われた坑内通気を参考にしていますが、手早く作れて誰でも操作が分かるという点から手押しの鞴にしています。
とはいえ、下の板は足を乗せれるように幅広になっていて、上の板には持ち手となる部分がニョキッと伸びてるので、自転車に空気を入れるポンプみたいなスタイルだと想像してもらえたら。
作りに無理があるのは重々承知ですが、ファンタジーということで何卒!
もしいい案があったらコメントください!




